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魔物の街 105

 辞表を提出し終えた誠達に嵯峨は一枚のデータディスクを手渡した。

「枝、つけるんじゃねえぞ」 

 その言葉を聞くと敬礼して見せたランに付き合って敬礼をした誠達。その表情は厳しいものだった。誰もしゃべらずにそれぞれの車で寮に戻った。

 真剣な表情で図書館に向かう。非番の隊員が二人でゲームをやっていたがそのランの厳しい表情にすぐに頭を下げてゲームの電源を落とすと出て行った。アイシャのゲーム機コレクションに本体を出したもののまるでソフトが出ずに終わったゲーム機。当然コレクションのためだけにアイシャが買ったというわけで通信設定はされておらず、しかもデータのスロットはぴったりのものだった。

「隊長もよくこんなの知ってたわねえ」 

 寮の娯楽の殿堂に集まった一同はモニターを設定している島田を見ながらそれぞれにくつろいでいた。

「コーラ持ってきたんですけど……」 

 ラーナが気を利かせてサラと一緒にコップを配る。

「こういう時は紅茶の方が良いんですけどねえ」 

「贅沢言うなら飲むなよ」 

 茜と要が笑いあう。アイシャはいつものようにBL同人誌を堂々と読んでいて隣ではらはらしているカウラを挑発していた。

「はい!電源」 

 島田の一声でモニターの正面に正座していたランが伸び上がる。それまで思い思いにくつろいでいた面々が画面に意識を集中した。画面が映ったがそれが暗い実験室のようなものと分かるのに十秒位の時間がかかった。

「隠し撮りだな」 

 要の言葉にさらに緊張が走る。音声は無い。画面は人間の腰あたりの高さ。暗いのはカメラの性能のせいであるらしく、手術台や実験器具が鈍く光り輝いているところから見て暗い場所ではないことはわかった。

「これじゃあ場所の特定はできないんじゃないですか?」 

「馬鹿だな。特定できる証拠を掴んでいたらとうに遼南レンジャーが突入しているはずだろ?ライラさんには叔父貴も一目置いてるからな。このデータも持っていると考えるのが妥当だろう」 

 そう言うとタバコに手を伸ばそうとする要だが、その手をランが叩いた。

 急に画面が変わったカメラの前にドアが映り、さらに廊下が見える。人影は無く静まり返る廊下をカメラの視線はただ映しつづける。

「結構な規模の施設だな」 

 黙り込んでいたカウラが言葉を呑んだ。沈黙が支配する画像の中でどこまでも続いていくように暗く染められた廊下。ところどころに銀色のカートのようなもの、そして白衣の人影がその周りに動いているのが分かる。

「そう言うことか」 

「そう言うことなのね」 

「なるほど」 

 ラン、茜、アイシャが納得したような表情を浮かべたことに誠は驚いてその顔を見比べた。

「なんだよ!何が分かったんだ?」 

 不満そうに叫ぶ要。茜とランが大きなため息をついてかわいそうな人を見るような視線で要を見つめる。

「本当に分からねーのか?」 

 ランはそう言って要を見つめている。その間もカメラの映像は長く続く廊下を歩き続けている。

「分からねえから聞いてるんだよ!」 

 怒鳴る要。だが、映像がただひたすら長い廊下を歩き続けているのを見て要も誠もある事実に気がついた。

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