魔物の街 102
「グレゴリウス!」
バイクを部隊の駐車場に止めたシャムが公用車が入っているガレージに向かって叫びながら走っていく。その先には首輪をつけた五メートルはあろうという大きなコンロンオオヒグマの2歳児グレゴリウス13世が甘い声で鳴きながら駆け寄ってくるシャムを迎えていた。
「あれ、あんな鎖で繋いどいたら逃げるだろ?」
「心配性だな。アイツは吉田と一緒でシャムには頭が上がらないからな」
カウラの声に気づいて正門へ向かっていた吉田が振り返るのを見るとカウラのスポーツカーから降りた要とカウラ、そしてアイシャが忍び笑いをする。
「アイシャちゃーん!カウラちゃーん!要ちゃーん!」
そんな和んだ瞬間の後、正門から叫び声と一緒に現れたのはリアナだった。その後ろには頭を掻きながらそれを見つめているマリアの姿が見える。
「鈴木中佐?」
カウラが不思議そうに目の前で立ち止まったリアナを見つめる。追いついたマリアが三人と誠を見回す。
「茜はどうした?」
「もうすぐ来るんじゃないですか?工場の生協に寄るとか言ってましたから。お姉さん、急ぎの用事か何かですか?」
要の言葉を聞くとリアナは息を整えるように深呼吸をする。
「隊長が来てって。たぶん茜ちゃん達が追ってる事件のことで上から何か言われたみたいよ」
リアナの言葉にはじかれるようにして要が勢いをつけて歩き出す。だが、その前にアイシャが立ちふさがって両手を開いた。
「アイシャ!どけ!」
タレ目だが低く響く声で怒鳴りつける要。だが、その要の肩をカウラが叩いた。
「上から何か言われたくらいなら別にいいだろ。それよりはそれから後の隊長の判断だ」
「優等生は黙ってろ!」
カウラを一喝するとアイシャを突き飛ばしてそのまま進んでいく要。リアナは手に口を当ててうろたえ、マリアはその様子を見て諦めたような顔をしていた。仕方なく玄関をくぐり階段を駆け上がる要について誠も進む。カウラとアイシャも心配そうにその後に続いた。
「お姉さま!おはようございます!」
廊下で部下の渡辺と談笑していた楓が敬礼して見せる。だが要はまるで無視して隊長室のドアをおもむろに開けた。
「なんだよ、呼ぶまでも無かったじゃねえか」
技術部部長の許明華大佐がソファーに座って笑っていた。声の主の嵯峨も苦笑いを浮かべて闖入してきた要達を自分の執務机に座って迎える。
「どういうことだ!」
そう言って要は思い切り机を叩こうとするが、力加減では叩き壊してしまうと思い直したように拳を寸前で止めて見せた。




