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魔物の街 101

「やっぱり問題になるのは東都警察か?」 

 わさびで色が緑色に変わっためんつゆにつけた蕎麦でしばらく頭を抱えたまま動かなくなっていたカウラの声。さすがに呆れたようにアイシャは生暖かい視線をカウラに送っている。

「そーだな。ライラの山岳レンジャーは遼南の三大精強部隊の一つだ。敵後方に浸透しての工作活動を得意として情報収集能力が売り、調査力は東都警察の特捜部とも互角にやれるだろう。だが……証拠の志村の携帯端末を握っている東都警察は……」 

 ランが言葉を止めたのは仕方の無いことだった。誰もが考えたくは無いことだったが、証拠を集めていくうちにどうしても考えたくない事実が現実にあることに皆が気づいていた。

 事件はこの東都で起きている。これまで東都警察の動きが鈍かった理由。それが法術対策部隊に訓練が必要だったと言うような問題ではないことは誰もが気付いていた。口には出さないが内部の内通者や上層部に今回のテロの首班達と利益を同じくする人々がいる。そんな思いたくも無い想像すら出来るのは誠だけではなかった。

「吉田」 

 めんつゆにねぎを加えながらランがそれまでシャムと戯れていた吉田の顔を見る。頭を掻きながら吉田は一度手にしためんつゆをテーブルに置いた。

「ああ、あのチンピラの遺品の携帯端末でしょ?一通りの連絡先を検索したんですが……ねえ」 

「オメーが手を入れたときには改竄済みだったと?」 

 ランの幼い顔が吉田の頷くのを見ると落胆に変わる。

「まあ復元は出来たんですがね。それまでに主要な連絡先の方はアドレスをすべて変更されていて音信不通。まあ改竄の手口が幼稚だったんで東都警察には抗議の文書を明石経由で出しますけど謝って済めば警察は要らないですよねえ……って相手もお巡りさんですか」 

 苦笑いの吉田。だがその手にはメモが握られていて静かにランの前に置かれる。ランはそれを受け取ると静かに目の前にかざした。

「なるほど、こりゃーアタシでも改竄したくなるわなー」 

 メモを見てにやりと笑うと静かにそれを握りつぶすラン。

「なんだよ、それは。良いのか握りつぶして」 

 要の言葉にランは首を振る。誠はそのやり取りからメモに載っていた連絡先が相当に高度な政治的裁量権を持つ機関のものではないかと思いながら蕎麦を啜りこんでみた。

「ぶー!」 

 口の中にしびれるような感覚が走る。そして次の段階で脳天を叩きのめされたような刺激。そして喉を覆う焼けるような痛み。

「何やってんだ?神前」 

「慌てるべきではないな」 

「二人とも……」 

 要とカウラがニヤニヤしながら見つめている。誠は心配そうなアイシャの視線を受けながら自分のめんつゆを覗き込んだ。

 緑色の塊がいくつも浮かんでいる様を見てカウラを見つめる。

「なんだ?私流のおもてなしだぞ。気に入らないのか?」 

 珍しくいたずらをして微笑むカウラ。和む表情だというのに誠は鼻と目に残る痛みでひたすら涙を流しながら、わさびの色と良く似たカウラのエメラルドグリーンの髪を眺めながらそのまま咳き込み続けた。

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