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屍してなお、美しきロンバルド  作者: 天地梓馬
〔第一部〕 白の覚醒
16/21

第十五話「開戦」


 《ステラの森》は現在《森の妖精(ミノルステラー)》たちの支配下にある。

 しかし今夜だけ、一部はそうではなかった。

 名も無き教会を中心に半径50mのドーム状の結界が張られており、妖精の類はそこから先に入ることができなくなっていた。

 その領域に足を踏み入れることができるのは人間か、もしくは妖精以外の何者かだけだ。


 そんな場所にレイティアドール=ロンバルドは踏み入っていた。

 見た目10歳ほどの容姿には相応しくない、黒を基調とした大人っぽい洋服を纏い、周囲の闇をものともしない純白に艶めく肌と髪。

 しかし彼女はおよそ百年以上前に死んだ人間だというのだから驚きである。

 その保存状態はさる事ながら、もし生きていたとしてもここまで美しい風貌はそう表現できるものではない。

 まさに美しさを探求した果てに作られた究極の人形のような容姿は、何者をも魅了し、そして何者をも凌駕する。

 時代が違えば、おそらくその容姿だけで神仏として崇め奉られていただろう。

 もしくは魔女として教会に密告されていたか。


「……、ったく。森のあちこちにトラップ張り巡らせてくれちゃって。私を足止めしてシルビィになにしようってのよ」


 レイティアドールはそう言いながら、近くの木の幹に貼り付けられたなんらかの攻撃魔法を仕掛けようとする護符を、それが発動する前に破りとる。

 目の前では青白い月明かりに照らされた廃墟の教会が静かにただ時間の流れにその身を任せていた。


「どうやら、ここであってるみたいね」


 元は白い塗装であったことがなんとか認識できるほど薄汚れた教会は一目で廃墟だとわかる風貌であったが、

 レイティアドールの三倍ほどの大きさがある木製の扉には、最近付けられたと思われる焼印があった。

 レイティアドールはそれに目を向けると一目でなにかしらの魔術的なトラップだと看破するが、まるでそんなものに構っている暇はないと言わんばかりに躊躇なく教会の扉へと手をかけた。

 バジュジュッ!! と、まるで溶岩のような粘性のある炎の塊がレイティアドールの手が触れた部分から噴き出す。

 しかしそれはレイティアドールの肌に触れると同時に消失した。

 レイティアドールの体に仕込まれた《暗号符(サイパースペル)》が、正面からの攻撃魔法を打ち消したのだ。


 長年放置されて風化した蝶番が悲鳴を上げながら、重量感のある扉がゆっくりと開いていく。

 そこに顔を覗かせたのは、一面に広がる闇、闇、闇。

 立ち入りを試みる者を全て拒絶するような深く、深く、深い闇がそこには広がっていた。

 しかしレイティアドールはなにも恐れない。

 そのか細い右足から、力強く暗闇の中へと踏み込んでいった。

 なんの操作もなく、まるでレイティアドールを飲み込むように大きな扉が閉まる。


「招かれざる客が、もうひとり」


 闇の中から、少女のものと思しき声が響く。

 それに応えるのはレイティアドールではない。

 その隣にいる、霧熊霞美(きりぐまかすみ)だ。


「はにゃあー……、バレちゃった」


 霧熊は今までなにもなかった空間に突如として姿を現した。

 今の今まで《幻覚魔法(イリュージョニズム)》を使ってその姿を隠していたのにも関わらず、暗闇の中にいる何者かはなにかの魔法を使う気配もなくそれを看破してみせた。


「なるほど。《幻覚魔法(イリュージョニズム)》は直接目で確認しないとその効果は発揮されない。だから、森の中では貴女が先行して監視の目を潰していたんですね」

「たった今ムダになったけどね」

「せっかくの隠し玉を潰してしまいましたね。謝罪すべきですか?」

「いえ、いいわ」


 レイティアドールは短く返すと、その小さな体からバヂバヂィィ!! と蒼白の光を迸らせる。

 それは彼女の体に仕込まれた《暗号符(サイパースペル)》のひとつに魔力が送り込まれ、激しい電気を発したからだ。


 無数の白い糸は教会内を這い回ると、古い電飾を稼働させた。

 どうやら数十年も人が出入りしなかった教会内でも未だに生きている電球があったらしい。


 教会内は薄いオレンジ色の光に包まれた。

 目に映るのは古びた壁や床。

 埃の触媒となった会衆席。

 曇りきったステンドグラスに、壊れたパイプオルガン。

 

 そして。


 黒の短髪で、チョコレートのような褐色肌をどこかの学校の女子制服で包んだ少女・シルビア=ローゼンクロイツが祭壇の上に横たわっていた。

 彼女がいつもつけている賢そうな黒縁メガネは、白の大理石で造られた《魔法の杖(ワンド)》とともにその頭の横に綺麗に畳まれて置かれている。


 そして。


 その横に立つのは、全身黒ずくめの少女。

 頭にはつば広のトンガリ帽子を被っていて、貫頭衣を羽織っていた。

 全体的に絵本に出てきそうな魔女そのものを想像するが、物凄く違和感を醸し出すものが彼女の顔の上半分を覆っていた。

 まるでゴツい双眼鏡のようなその装置は、一般的に暗視スコープと呼ばれるものだ。


「アンタらは頭に機械を装着してないと死んでしまう体質でも持ってるのかしら? ま、それも私の電撃で使い物にならなくなったみたいだけど」

「これは一本取られたね」

「レイティア=ロンバルド。世界で初めて蘇生に成功した屍体。

 以前、《美しすぎる死体》として《アリヒ》の地下に眠っていた純白の麗人。

 《センターラ侵攻大戦》の余波を受けて死亡した小さな村の少女で、なんらかの魔法がかけられており、

 その身体はまるで生前のように美しく、現在までその姿を一片も崩すことなく保っている」


 ジリ、ジリ、と、大きなトンガリ帽子に使い物にならなくなった暗視スコープを着けた少女が、

 霧熊へと視線を移し、足の先から頭の先まで観察するように眺めながら口を開く。


「霧熊霞美。殺人、強盗、強姦が日常茶飯事と言われる《スラム》出身の《幻覚使い(イリュージョナー)》。

 無法地帯であるスラムの中でもその頂点を極めた《四大覇者》の一角。《迷霧の墓守》の異名を持つ魔法使い」


 淡々と。

 機械がデータを出力するように、なんの感情もなく言葉が吐かれる。

 トントン、とトンガリ帽子の少女は自らの顔の上半分を覆う暗視スコープを伸縮自在の《魔法の杖(ワンド)》で叩くと、それに呼応するように暗視スコープは虚空へと消える。


「生前のことなんてどうでもいいわ。私に生きていた頃の記憶はないの。全く別の人間なのよ」

「はぁ……。確かに、古来から行われていた蘇生術はもともと、

 亡くなった人間をそのまま蘇らせるというよりは、死体に仮初の魂を与えて術者の意志に従わせるといったものでしたが……、

 果たしてそれは本当に成功と言えるのでしょうか」

「私でない時の私のことなんてなんの興味もないって言ってるのよ。私はシルビィから授かったこの命を以て、1から新しい人生を華々しく謳歌するの」

「与えられた命? 華々しく新しい人生を謳歌? ふざけないでください!!

 その身体は、貴女の物じゃない。

 貴女の身体が百年経った今でもそんなに美しい状態でいられるのも、きっと別の誰かがその体の持ち主のことを想って施した魔術のおかげです。

 そんな人たちの想いを、貴女は踏みにじっている。

 その体は元の持ち主に返すべきだし、その魂は速やかに消えるべきなんです」

「はぁ……、またそれ。非人道的だとか、死者への冒涜だとか……、そんな戯言聞き飽きてんのよ!!

 コイツは私の体だ! 昔がどうとかそんなモン知ったこっちゃないわ。

 私は私のために、私に命を与えてくれたシルビア=ローゼンクロイツのために、誰がなんと言おうとこの命を全うするって決めてんの。

 その子がどんな想いで私を作り出したかも知らないで、気持ちの悪い説教たれてんじゃないわよ」

「……、なるほど。貴女の人格はよくプログラムされています。流石は《聖なる誉》と名高い魔法使いが生み出した従者。

 貴女には貴女なりの正義があり、私にも私の正義がある。

 しかし同じ正義でもそれが敵対してしまえば、他方は悪になり、打ち破られなければならない」

最初(ハナ)から、私たちに話し合いなんて必要ない。ちゃっちゃとケリをつけましょうか。行くわよ、霞m――」


尻餅(オフェンディウム)!!」


 レイティアドールが隣で一言も発しようとしない霧熊に呼びかけようとしたその時、霧熊の口から怒号のように呪文が叫ばれた。

 咆哮のような声の波動は【大海級A判定】のタレントを伝って《魔法の杖(ワンド)》の先端から閃光となって放たれ、数メートル先に佇むトンガリ帽子の少女へ電撃の如く走り抜ける。


 しかし。


 トンガリ帽子の少女がすぐさま片手を横に振ると、まるで重たい金属と金属がぶつかり合うような音が響くと同時に、霧熊の放った魔法は虚空へと霧散していった。


 その現象に一瞬驚くが、それよりも自分の攻撃が相手に当たらなかったということに対して憤慨し、犬歯をむき出しにする霧熊。

 いつもの、どこか力の入っていないフワフワとした雰囲気の彼女には全く似つかわしくない怒りを顕にした彼女に、レイティアドールでさえ少しばかりの恐怖を覚えてしまう。


「霞、美……?」


 レイティアドールが声をかけるが、霧熊は敵対する獣のような眼光をトンガリ帽子の少女から離そうとしない。


「……、れいちー、わたし、あいつ嫌い。れいちーのこと消えるべきとか言った!!

 ゆるせない……、わたしの家族を悪く言うやつは絶対に許せない!!」

「噂に聞くより随分と角が取れたみたいですね《迷霧の墓守》」

「その名前で呼ぶなァァァァァァァァッ!!!!!!」


 キィィィィイイン!! と、壊れたスピーカーのような甲高い音がその場にいた全員の耳に轟いた。

 おそらくは人の五感に干渉する霧熊の《幻覚魔法(イリュージョニズム)》が、その場にいた者の聴覚に作用したのだろう。


「わたしはもう、あの頃のわたしじゃないんだ!!

 だからその名前で呼ぶな!! わたしは、もうこれ以上大切な人を失いたくない!!」


 ただ叫ぶ。

 相手に自分の感情をうまく伝える術を知らない獣は、ただその気持ちを啼き声として発することしかできない。


「……、貴女の過去に何があったかはデータ上でしか知ることはできませんし、興味はありません。しかしただ怒りに任せて私に呪いをかけようとしても無駄ですよ」


 対してトンガリ帽子の少女はあくまで冷静に。

 その右手の甲をレイティアたちへと見せる。

 彼女の右手の人差し指には、小さな指輪がはめられていた。

 しかし問題なのはその指輪にあしらえられた、赤く輝く宝石。

 それは《吸魔の石(パワーストーン)》を加工して作られた《装飾品(アミュレット)》。


「そ、れは……」


 霧熊は思わず声を漏らす。

 そう。

 少女の人差し指に輝くその宝石は、紛れもない柘榴石(ガーネット)のもの。

 グラハム同様、彼女もまた最初から《吸魔の石(パワーストーン)》の効力を受けていたのだ。


 その光石は所持するものに『計り知れない忍耐力』を与えてくれる。

 そしてその他に絆、愛情、友情などを強め、さらにはそれを害するものを排除するチカラを与えてくれるという効果もある。

 つまりは柘榴石(ガーネット)を持つ者の愛する者が傷つけられようとしたとき、或いはその者を護ろうとするときに、所有者のタレントを超越した力を引き出してくれるというものだ。

 実際レイティアドールを想う霧熊の気持ちがトリガーとなり《柘榴石(ガーネット)の原石》がその輝きのチカラを分け与えた結果、グラハムとの力比べに勝利した。


 しかし霧熊は素面でも暫定的ではあるが【大海級A判定】のチカラはあるはずだ。

 それなのに、その霧熊の怒号の一撃をトンガリ帽子はいとも簡単にいなしてみせた。

 その結果が、トンガリ帽子の少女の素の力量、或いは『何者かを強く想うチカラ』の強大さを物語っていた。


「今度は、私の番です」


 トンガリ帽子の少女は霧熊へとそのスチール製の《魔法の杖(ワンド)》を向けた。

 呪文を詠唱するでもなく、その杖先から極めて白い閃光が迸った。

 それは真っ直ぐに霧熊へと放たれ、その途中で何者をも包み込むほどの強力な爆炎へと変じる。

【大海級A判定】という肩書きでは互角の二人だが、光石という媒介を通じて魔法を使っている以上、互角という訳にはいかない。

 今の霧熊に、トンガリ帽子の少女が放つ攻撃を防ぐ手段はなかった。


「させると思う?」


 声を放ったのはレイティアドール。

 彼女は咄嗟に霧熊の前に割って入った。

 両手を広げてまるで自ら盾となるようにそこに屹立すると、

 巨大な炎の塊はレイティアドールにあたる瞬間、まるで強力な向かい風に煽られたように消し飛ばされた。


「……、情報によれば貴女は【X判定(ランク)】のはずですが」

「さっき私が放った電撃を見てなかったの? 《暗号符(サイパースペル)》よ」

「……、なるほど。タレントに依存せずに魔力を放出する《暗号符(サイパースペル)》を起用しましたか。考えましたね」

「アンタに言われると皮肉にしか聞こえないわね」

「そんな事ありませんよ。これでもかなり関心しているんです。良くできた人形だな、ってね」

「ッ……、いい度胸してるわねぇ、アンタッ!!」


 ダンッッ!!!! と、それが床を足で蹴った音だとは誰も分からないであろう轟音が響き、気が付けばレイティアドールの体は凄まじい速さで駆けていた。一直線に、目の前の敵を逃さぬように。


 グニャリ。


 さらには加えて霧熊の《幻覚魔法(イリュージョニズム)》。

 猛スピードで突進してくるレイティアドールが三人、六人、九人と増え、その動きも不規則になる。

 純白の光の糸を携え、渾身の一撃を振るうレイティアドール。

 しかしその力強い小さな拳が振るわれると同時に、トンガリ帽子の少女の姿がまるで無数の小さな生き物が分散するようにその場から消え去った。


「《幻覚魔法(イリュージョニズム)》は、別に貴女だけの特権ではありません」


 聞こえたのは、レイティアドールの遥か後方。

 正確には、霧熊の立つ位置の後ろ。


 咄嗟にレイティアドールは霧熊のもとへと戻ろうとしたが、既にその時にはスチール製の杖先が、霧熊の後頭部を捉えていた。


 ズパァァンッ!! という轟音と共に、レイティアドールにかけられた《幻覚魔法(イリュージョニズム)》が解かれる。

 それは一瞬だけ、霧熊の魔力に揺らぎが生じたためだ。

 そして、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 先ほどの轟音の答えは、霧熊の右手が握っていた。

 それは最近、警備会社に普及された末広がりの銃口を持つプラスチック製の拳銃だった。

 《ハイウェーブガン》。

 人工魔力が凝縮されたその銃弾で撃たれた者は、自分のものと異なる魔力を体内に注入されることで、魔力の波紋が乱されて一時的な昏倒状態に陥る。

 霧熊は先ほどの美術館で警備員が所持していた物をひとつ盗んできたのだ。

 それを、わざわざ近距離に寄ってきてくれたトンガリ帽子の少女に対して発砲した。

 防御する暇さえ与えなければ例えどんなに強力な『想い』があっても、柘榴石(ガーネット)はそれに答えてはくれない。


「また何かしらの方法で魔法が使えなくされた時のために一丁持ってきたんだけど、大正解だったみたいだねー」


 霧熊はそのトンガリ帽子に銃口を向けたまま距離を詰める。

 この特殊な銃弾は一発目の被弾では気絶で済むが、二発目以降は生命の危険を伴う。

 しかしそれを知ってもなお、霧熊は引き金から指を外そうとはしない。

 流石になにかしらの情報も聞き出せぬまま死んでもらっては、自分達の真の敵を把握できない。

 とどめを刺そうとしている霧熊を止めようとするが、彼女の豹変っぷりにレイティアドールは気圧されてしまっていた。


「待って霞美、ソイツにはまだ聞くことがある」


 至って平然と、むしろいつも通りのキョトンとした顔を向けながら、霧熊はこう答えた。


()()()?」


 レイティアドールは、この目を知っている。

 これはかつて彼女と初めて出会った日にも垣間見た獣の目。

 自分以外は例え肉親であれど信じるな。さもなくば生き残ることはできないとまで言われた《スラム》を知る者の目。

 さらには殺伐とした無法地帯に身を置き、加えて女でありながらその世界の頂点の一角に君臨していた者の目だ。


 彼女の中には、他者の命を奪うことこそが自らの生き残る方法としてその生存本能のプロセスに書き込まれてしまっている。

 しかしだからこそあのシルビアは、彼女をその掃き溜めから救い上げたのだ。

 彼女は、霧熊霞美は、あんな闇の中にいてはいけない。

 人間性を失ってしまうからだ、と。


「その手を、下ろしなさい」


 レイティアドールは一歩も動くことなく、まるで獣を威嚇して自らの立ち位置を分からせるように重たい声を放つ。

 それは再び無意識の内に闇の中へ自ら歩み寄ろうとする、無邪気な殺意を呼び止めるため。

 主たるシルビア=ローゼンクロイツが望んだことだから、レイティアドールは従順にその意志を尊重する。


「……、分かったよ。れいちーがそこまで言うなら」


 霧熊は不満そうな顔をしながらそっと銃口を下げ、レイティアドールの命令に従う。

 その時。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「テメェら……、姉さんに指一本でも触れてみろ……、全身に風穴開けて愉快なオブジェにしてやんぞ!!」


 《暗号符(サイパースペル)》の効果でレイティアドールはなんとか吹き飛ばされずに済んだが、霧熊ははるか後方の柱までノーバウンドで飛び、背中を打ち付けてしまう。

 怒号を発したのは正面から教会へ踏み込んできた新たな人物。

 先ほど霧熊が意識を奪ったはずのグラハム=オルブライトが、ボロボロの姿でそこに立っていた。

 美術館に捨て置いてきた猫目石(キャッツアイ)のネックレスもしっかりと着けて。


「諦めの悪い野郎ね」

「ホザいてろ雑魚が」


  グラハムは床に崩れる赤毛の魔女のもとへと近づくと、片膝をついてなにやら呪文を唱えた。


「グラ、ハム……?」

「助けに来たぜ姉さん。全部、手筈通りだ」

「いえ。予定よりかなり遅れています。だからあれほど気を引き締めて下さいと言ったんです」

「ああ。それはもう重々自覚したからよ。ほら、立てるか?」

「当たり前です」


 昏倒状態から復帰したトンガリ帽子の少女はグラハムに手を引かれながらもゆっくりと立ち上がる。

 そして改めてレイティアドール達と対峙する。

 その間にレイティアドールも霧熊を引き起こす。

 二つの勢力が、明確に敵対した。

 そして、闘いの火蓋は唐突に切って落とされる。


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