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一頁目 召喚されたこの身


 その時、一体何が起きたのか。

 すぐには認識出来なかったけれど、目の前の光景が告げていた。

『お前は今、これまで生きてきた世界とは別の世界にいるのだ』と。

 時間が経つにつれて、頭が追い付いてきて、ようやく現状を正しく理解する事が出来た。


 つまりオレは、異世界にやってきたんだ。

 つまりオレは、ライトノベルやアニメや漫画で夢見た『異世界召喚』をされたんだ。


 そうとなったら話は早い。手始めに、今目の前で口をあけて呆然としている王様っぽいオッサンと魔女っぽい女に挨拶をしてみるとしよう。

 挨拶は大切だからな。


「……問おう。あなたがオレの召喚者か?」


 ……挨、拶? いや、召喚と言えばこの文言だろう。

 オレが発言したのを聞いて、目の前の二人は我を取り戻したようだ。


「い、いかにも。私はロガ王国第四十五代国王、アルグスタ・ロディエ・ネステ・ロガである。こやつは我がロガ王国の専属魔導師グロリア・クロムゼリアだ」


 王様っぽいオッサンが答え、ついでに隣の魔女っぽい女の紹介もしてくれた。ありがたい。

 しかし、出迎えが王様自らとは畏れ入る。おっと、魔女ではなく魔導師だったのか。


「召喚に応じ……たわけじゃないが、参上した。名は鬼灯。以後よろしく」

「こちらこそ……!」


 ライトノベルなんかで読んだ異世界モノには苗字+名前という構成の平民はいなかったから、それに倣って名乗りは苗字だけに止めておく。いらない誤解を招くのは嫌だしな。


「ところで……あー、国王様。オレは何のために召喚されたので?」

「それはアタシが説明するわ。一応言っておくけど、召喚魔法を使ったのはアタシだから。間違っても皇帝じゃないから」

「それは失礼した」

「わかればいいわ。……で、召喚した理由よね。先に訊いておきたいのだけれど、ホオズキは魔王や魔物って信じるかしら?」

「馴染みは全く無い存在だが、ここがオレにとって異世界なら、そういうのがいてもおかしくはないんじゃないか?」

「そ、なら話が早いわ。つまりアンタは、その魔王を討伐するために召喚されたってわけ」


 魔王……魔王か。ありがちな展開だが、悪くない。大きな目標があると、行動もしやすいというものだ。


「ともあれ、まずは私どもについてきて貰えるか。色々と知りたい事もあるだろう」

「ええ、よろしくお願いしたい」


 国王と魔導師に連れられ、おそらくはロガ王国の城と思わしき回廊を歩く。

 どうやらオレが召喚された空間は、何か大掛かりな魔法を行使するために他の部屋などとは隔離された場所にあるらしかった。実際、今歩いている回廊はかなり長い。


 まあ、それよりも気になる事がある。異世界召喚とかいう非日常な現象に頭が混乱して気に留めていなかったが、何故オレの視界には、数年前まで遊んでいたMMORPGと同じようなユーザーインターフェースがあるのだろうか……。

 視界の右側、縦に並んだステータスやスキルの文字があるボタンのようなもの。まさかこれで、今の自分を確認出来るのか?


 とりあえずステータスから見てみよう。

 頭の中で、MMORPGでそうしていたように、カーソルをボタンのところまで持っていき、クリックするイメージをしてみる。

 すると、何やらウインドウが開いて、オレの名前、レベル、ステータスが表示された。



 【名前】 ホオズキ

 【職業】 異世界転移者

 【年齢】 21

 【レベル】1

 【HP】 150/150

 【MP】 120/120

 【STR】 95

 【DEF】 85

 【INT】 90

 【MR】 80

 【DEX】 85

 【AGI】 85

 【所有スキル】 鑑定&分析(アナライズ)無限倉庫(インベントリ)

 【固有スキル】 鬼ノ力(オニノチカラ)



 鬼ノ力……? なんだそれは。

 もしかして、いつか母さんが

『坊や。坊やは信じぬかも知れぬがな、坊やは儂の……鬼の血を受け継いでおるのじゃ』とか言っていたが、本当の事だったというわけか?


 考えてみれば、この二十一年間、母さんは全く老いていない。

 つまり……人ならざるモノ。その血を受け継いでいるから、この固有スキルというわけか。


「……………」


 まあ、いいか。深く考えたところで、答えは母さんにしか出せないだろうし。

 それにしても、レベル1でこのステータスは平均的なんだろうか。それとも高い? 低い? 他の人のステータス、見れたりはしないものか……。


「……ホオズキ様」

「なんでしょう、国王陛下」


 回廊を歩き続けてしばらく、皇帝が何やら歯切れ悪そうに口を開いた。声が纏う空気は重々しい。


「陛下はやめてください。私はそのように大層な人間ではないのです」

「……では、なんとお呼びしましょうか」

「アルグスタ王。大抵は、そう呼ばれています」

「それでは、アルグスタ王。何か気になる事でも?」

「気になる、と言うより、私は申し訳ないのです。ホオズキ様にしてみれば、魔王に脅かされている異世界など、まさしく蚊帳の外の話。それを、召喚魔法などという代物で強制的に呼びつけ、あまつさえ我々の世界を命を賭して救って欲しいなどと……」

「その魔王ですが、一体どういう風にこの世界を脅かしているのでしょうか?」

「はっきりとした事は何も。ただ、魔王は一定の周期で蘇り、その時代の勇者の手によって滅される、と」


 一定の周期で甦ると聞くと、不死鳥の話を思い出す。

 寿命を迎えると自ら火に飛び込み、そしてまた灰の中から生まれるという伝説の鳥。

 魔王の復活システムが同じようなものだとして、討伐と言うからには魔王は殺されて、そして何十年か何百年か、あるいはそれ以上のインターバルがあって復活する。

 そして、その魔王殺しを為すのが――。


「勇者、ですか」

「勇者とは、ホオズキ様のような、異世界から召喚された者を指します。つまり、こうした召喚は今まで幾度となく行われてきたという事です」

「……なるほど。そして、心優しき王である貴方は、戦闘能力があるかどうかもわからない異世界の住人を呼びつけ、魔王討伐に命を懸けさせる事を申し訳なく思っている、と」

「そうです。それに……」

「それに?」

「……時代や国によっては、勇者を捕らえ、戦争の道具として利用した事もあったそうです」

「しかしそれは飽くまで一例でしょう。そういう時代、そういう国、そういう人間がいたというだけの話です」

「ですが……っ!」

「まったく、いつまでもウジウジと煩いヤツね。泣いたって喚いたって、もう呼んでしまったものは仕方ないじゃない。そんなだから、周りの国からバカにされんのよ」


 それまで黙って歩いていた魔導師グロリアが、もう我慢ならないといった勢いで口を開いた。とても王国お抱えの魔導師とは思えない態度だが、声からは呆れや心配、怒りなどが入り雑じった感情が聞いて取れた。


「悪いわね、ホオズキ。こんな情けない王のいる国に呼んじゃって」

「構いません。アルグスタ皇帝のように心優しい王こそ、王に相応しいと思いますから」

「……アンタも大概お人好しなのね。アタシの事はグロリアって呼んでちょうだい。アタシもアンタは呼び捨てにするから。敬語も要らないわ」

「……それは有り難い。お堅いのは得意じゃなくてな」

「アタシもよ。王国専属魔導師なんてやってると肩が凝るのよね。そうそ、今どこに向かってるのか気になってるだろうから言っておくわね。アタシ達はこれから謁見の間に行くの」


 閲覧の間と言えば、往々にして、その国のトップが玉座でふんぞり返って客人と対面する部屋だな。

 まあ、肝心の国のトップは今まさにオレの前を歩いているわけなのだが。


「そこで何を?」

「簡単に言えば、アンタの紹介ね。王国を支える権力者や、他国の使者なんかに顔見せってところ」

「勇者の存在は広く知らせておく必要があるわけか……」

「そうです。何かあった時に、他の国が勇者の顔や存在を知らないのでは困りますから」

「ふむ……。そういえば、オレ以外には召喚された人間はいないのですか?」

「大国であれば召喚魔法を使って召喚する事はあるようです。今回は……まだそういう話はどの大国からも聞いていませんね」


 つまり、現状召喚されて魔王を討伐する使命を帯びているのはオレ一人だけか。他にも特殊なスキルか何かを持った奴が召喚されていたら苦労が減ると思ったが、そう上手くはいかないか。


「――ついたわ。ここが謁見の間」


 魔導師グロリアとアルグスタ王が立ち止まって視線を投げた先には、五メートルを越えるであろう高さの、大きく豪奢な扉があった。


「ホオズキ。この部屋にいる奴の中には、頭が固かったり顔が厳つかったりする奴がいるけど、アンタはロガ王国の勇者で、ロガ王国の後ろ楯があるわ。アンタがどういう世界でどんな生い立ちかは知らないけど、あんまり緊張しなくていいわ」

「……ありがとう、優しいんだな」


 ツンツンとした態度でありながら確かな優しきを感じて、思わず笑みが零れる。


「――ッ!! 入るわよ!」


 魔導師グロリアが顔を真っ赤にして怒鳴るように言いながら、重そうな扉を開ける。

 なんだ? 何か気に障る事でもしてしまっただろうか。初対面の相手を怒らせてしまったとは……。以後気をつけよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皇帝と王をごっちゃにするな。全くの別モンだぞ。
[気になる点] 王国なのか帝国なのか。 国王なのか皇帝なのか。 よくわからない。
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