1乗っからないで。
私は、幼い頃から、原因不明の病気で高い熱を出す事がしばしばある。
今日も、昨日から熱が出てるからベッドの住人なんだけど、目が覚めた。
だって、私の上に何か乗ってる。ズッシリ重い訳じゃないけど、それに布団が軽く踏まれてるっぽい。人間の足じゃない何かの小さな足で、フミフミとリズミカルに踏んでる。犯人
寝返りをうつ不満気な声が聞こえる。
「んにゃ〜」
「ニコちゃん!もうなんで、いっつも私の調子悪い時に乗るんよ!乗らんといてって言うとるじゃろ!」
ムクリと体を起こすと、私の上にいた白い子猫が、「別にいいじゃない」と、言わんばかり睨んでくる。
「睨んでも、駄目なもんは駄目!お願いじゃけぇ、寝かせてや。ニコちゃんが一緒だと寝られんのよ!じゃけ、おりんさい」
「みゃー!」
文句を言うニコちゃんを、抱っこして、ベッドから降ろす。
だって、ニコちゃんが一緒だと、ゆっくり寝てらんない。
人の胸の上とか、股ぐらとで寝ちゃうんだ。寝返りうつたんびに、「みゃー!」って怒られるし。しかも、ニコちゃんを潰すかとヒヤヒヤもんだし。
だから一緒に寝ないのだ。
「はい!ニコちゃんの寝るとこは、ここ!ええね!」
「みゃ〜」
私は、かまくら型のニコちゃん用のベッドに、ニコちゃんを入れると、再びベッドへ入る。
みゃ〜みゃ〜騒いでるけど、無視しよう。
この後、ちょっとしたハプニングになるとは、私はこの時思ってなかったけど。
−−−−
胸の上なんかある? ぐにぐにと触られてるような。またニコちゃんかな?
もう!せっかく寝たのに!
「もう!ニコちゃん!いい加減に、って拓人さん?」
「イヤその。これには、深い訳があって」
しどろもどろに答える拓人さん。良く見たら、掛け布団は退けられ、そして拓人さんが、思い切り私の胸をわしづかみしてるじゃないか。
「拓人さんのエッチ!バカ!嫌い!」
と、枕を投げつけてやる。彼氏とはいえ、寝込みを襲うなんて最低だ。
半泣きで頭から布団を被っていたら、第三者の声が聞こえてきた。
「全く!このおてんば娘。おとなしく、自分のベッドで寝てろって、拓人さん何やっとるん?また転けたん?」
ハスキーな声で男の子っぽい喋り方をする女の子。私のお姉さんである晶だ。
「イヤ、夕陽に枕投げ付けられた」「枕。ははあ」
と晶は、私の布団を剥ぎ取る。私を除きこむ晶の顔は、むちゃくちゃ呆れてる。なんで呆れられなくちゃいけないんなだろう?
「おい、夕陽。何勝手にはぶてとん?(すねてるんだ?)」
「はぶてとらんもん。(すねてないよ)」
「いや、はぶてとるし。お見舞いに来た拓人さんにニコちゃんが、いきなり飛びついて、驚いた拓人さんが、夕陽の上にコケちゃったんだよ。胸揉まれたのは、事故だよ。事故!」
「じゃあ、布団が捲れとったのは?」
「それは、ただ単に、夕陽の寝相が悪いだけ」
晶にすっぱりと言い切られてしまった。
うぅ恥ずかしい。完全な早とちりじゃないか。
「拓人さん、ごめんなさい」
「いや、コッチこそごめん。胸触ったし」
恥ずかしくて、布団から顔を出せずにいたら、頭をポンポンとされた。
今度お詫びに、拓人さんの好きなジンジャークッキーを作ろう。そう思った私だった。