1 お水ちょーだい。
4月のとある土曜日の午後。
自室のベッドで惰眠を貪っていた僕の耳にその音は届く。
ガランガラン。ガラゴロガラゴロ。さっきから何かを転がすような音が聞こえる。音がしてるのは庭。そして音の原因も分かってる。
だけど行ってやるもんか!
眠いんだよ。無視しよう。その内諦めるはずだ。
だけど、そうは問屋が卸さないらしい。ガラゴロという音は、心なしか大きくなった気がする。
このままだと、理緒が怒鳴りこんでくるな。仕方ない。
ちなみに僕の部屋は、1階にあって、庭に面してる。
それをわかってて、あの悪魔は、ガラゴロやってるに違いない。
耐えかねた僕は、窓明けて怒鳴ってやる。
「あーもう。うるさい!水あげるから、ガロゴロやめてくれ!おにゃんこさん!」
「んなーん」
と鳴くグレーと黒のしましま模様のポチャッリ悪魔。いや我が家の飼い猫おにゃんこさんは、ジョウロから前足を出しお座りする。
僕は、自分の部屋から庭へ出て、おにゃんこさん専用ジョウロへお水を入れてやる。
なんで暖かくなったとたん、水を外で飲むんだ?
しかも、ジョウロからじゃないと飲まないし。
そもそも、外でお水を飲むようになったのって、母さんと理緒のせいなんだよな。たまたま、花に水やりするつもりで、用意していたジョウロ。
その中のお水をおにゃんこさんが、飲むのを目撃した母さんと理緒が、飲む姿が可愛いからと、外で飲むように誘導したのがきっかけだ。
ただし、水を入れたジョウロが重いっていう理由で、おにゃんこさんに、水をあげるの僕の仕事だし。
パシャパシャと呑気に水を飲むおにゃんこさんに、文句を言ってみた。
「おにゃんこさん。なんで、わざわざ外でお水を飲むんだ?しかもジョウロで。家の中にも、水を用意してるんだから、そこで飲めばいいじゃないか。人の昼寝の邪魔してまで、お水を要求するな」
「んな〜」
おにゃんこさんは、不満気に鳴いた。直訳するなら、「別にいいじゃん。ケチ」と言いたいのか。まったく、最近、いっちょまえに文句たれるようになってきたな。
ホントに猫か?人間の言う事は理解してるし。文句をたれるし。そんなに文句を言うんなら、僕にだって考えがある。
「んな〜じゃないよ、んな〜じゃ。まったく。母さんが余計な事するから、おにゃんこさんが、外でお水飲むなんて事覚えるんじゃないか。いいか、おにゃんこさん。今度から、外でお水飲むの禁止!ジョウロは、隠すからな」
「んなーん」
おにゃんこさんの悲痛な鳴き声を出すけど、無視だ。無視! 今の光景を母さんや父さんが見たなら、「虐待してる。か弱いおにゃんこさんを虐めてる」とか言って、騒ぐだろうな。だけど、これからの季節、暑い中、外へ強制的に出されたり、眠いのに朝の四時とか五時に叩き起こされる事を考えたら、おにゃんこさんのジョウロを隠した方がいい。僕の貴重な睡眠時間が、確保出来るし。大体、今昼寝してたのだって、朝の三時にご飯くれーって起こされたせいなんだ。とか考えながら、僕はおにゃんこさん専用のジョウロを物置へ隠した。
その夜、おにゃんこさんに復讐されるとは知らずに。
ーーー
夜。夕食の片付けを済ませた僕が、脱衣場で服を脱いでると
「んな!んななん!」
と鳴き声とともに、ドアをカリカリひっかくおにゃんこさん。入れてと騒いでるんだ。
おにゃんこさんは、猫だけどお風呂が大好きだ。
ただし、おにゃんこさんが入った後は、毛まみれになるから、浴槽内を洗わなくてはいけない。
そのせいじゃないけど、おにゃんこさんは、最後の人がお風呂に入るのを見計らってやってくる。
「ほら、おにゃんこさん」
と、おにゃんこさんを招き入れ、浴槽のフチまで連れてくが、ジタバタと暴れる。
「んななん。んなーん」
「なんだよ。お風呂じゃないんなら、何なんだ?」
「うみゅ〜」
「はぁ?お水くれって?」
「んな〜。うみゅ〜」
間違いない。おにゃんこさんは、お水が欲しい時、「うみゅ〜」と鳴く事がある。
僕は、仕方なくおにゃんこさんを下ろして、おにゃんこはん専用の洗面器にお水を入れてやる。ちなみに、お風呂場もおにゃんこさんの水飲み場だ。だから専用の洗面器がある。
「ほら。お水」
とおにゃんこさんの前に置いてやる。
「さて、入るか」
と言って、気づく。おにゃんこさんがいるから、頭や体洗えないじゃないか。
おにゃんこさんに、シャンプーや石鹸が散るとマズイもんな。
まぁ僕で最後だしいいか。
とはいえお湯をかけるぐらいは、やってから入るか。
湯に浸かってる間に飲み終えるだろ。
「なあ、おにゃんこさん。いつになったら、飲み終わるんだ?」
と訊くけど、ずっとピチャピチャ飲んでる。給湯リモコンの時間表示を見たら、五分近くたってる。お湯の温度は、40度。最初は、ちょうどよくとも、五分近く浸かってると辛い。のぼせてきてるのか、頭がぼんやりとする。
「おにゃんこさん、僕、倒れそうなんだけど」
「うみゅ〜、んなな」
やっと満足したか。若干フラつきながら、風呂場からおにゃんこさんを出し、かなり大雑把に頭と体を洗うと、風呂場から脱出した。
翌日。おにゃんこさんのジョウロを庭へ戻した僕だった。 あまり考えたくないが、おにゃんこさんの復讐だったのかもしれない。
現に、ジョウロを戻してからは、僕が風呂に入ってる時に、お湯に浸かりはしても、お水を要求する事はなくなったからな。
めちゃくちゃですみません。一応前作のスピンオフとなっております。




