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上条は桜井を見た。
木本も桜井を見た。
桜井は二人の顔を交互に見た後、言った。
「まだドラッグと決まったわけじゃない。それに……」
「それに、なんだよ」
「ドラッグだったとしても、僕たちに出来ることは何もない。今まで通りだ。ただ、病気で伝染性がある可能性もあるから、なるべく近づかないようにしたほうが、いいかな」
木本が言った。
「でもよう。風邪みたいにうつる病気なら、あんな近くで授業を受けたら、うつるんじゃねえの?」
「空気感染のことだな。それだったらすでに手遅れだよ。もううつっているはずだ」
「そんなあ」
「でもそれはないような気がするよ」
「どうして」
木本の問いに桜井が再び答えた。
「少なくとも僕の知っている限り、あんな異様な顔色になる病気なんて、存在しないよ。あの顔色は……」
「あの顔色は?」
「まるで死人だ」
上条と木本は、もう一度お互いの顔を見た。
次の週、犬田は来なかった。
犬田だけではない。吉木も仲良く欠席していた。