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木本が無理をして話を振ったが、そのかいもなく話はすぐに途絶えた。
結局犬田は午後の授業の始業ベルが鳴ると、それに反応するかのように学食を出て行った。
もちろん遅刻だ。
犬田の姿が見えなくなると、木本がいつも以上の大きな声でしゃべり始めた。
「まったく、犬田のやろう、いったいどうしたんだ。あの顔色見ただろう。気持ち悪いのってなんのって。あんな顔色、今まで一度も見たことがないぜ」
「声が大きい」
「そうだ」
犬田が出て行った後も、当然のことながら引き続き三人は、みなの注目の的になっていた。
犬田がいない今、犬田から連れ内の三人に関心が自動的に移動したのだ。
木本もそれにようやく気付き、小さな声で話し出す。
「それにしてもあの顔、あの目、あの態度、どう思う」
「わからんなあ。俺も今までにあんな顔色の奴、見たことがないぞ。なんか特殊な病気とか」
「それってうつるんじゃねえの」
「そんなの知るかよ」
それまで黙っていた桜井が口をはさんだ。
「ドラッグかな?」
上条と木本は顔を見合わせた。
「そおかあ、ドラッグかもしれんな。それ、いい線かも」
「木本、声が大きい」
「さーせん。ちょっと興奮しちまって。で、ドラッグだったらどうするよ」