53
三人で何も言わずに、学食の粗末な椅子に腰掛けている。
机の上には例のレポートがあり、そして桜井の左頬にはしっかりと赤い手形が残されている。
手形の主は雅美だ。
上条は、あのおっとりとした雅美が怒るところを初めて見た。
一時は食堂のおばさんたちも参戦して、けっこうな騒ぎとなっていた。
が、上条と桜井でなんとかなだめすかして、雅美にレポートを読んでもらった。
桜井の補足の説明を聞きながら。
雅美がレポートを読み終えた後の状況が、今だ。
上条も桜井も雅美が何か言うのを待っていた。
しかし雅美は目を閉じ、首をうなだれて黙ったままだ。
上条は考えた。
吸鬼を封印するには、雅美が犠牲にならなければならない。
しかし雅美が断ったとしても、結局あいつに命と魂を吸い取られてしまう。
もし自分がそんな立場になったとしたら、あっさりと「わかりました。みんなのために喜んで私が犠牲になります」なんて言えないだろう。
理屈では理解していたとしても、感情がそれを拒むはずだ。
雅美だってそうなのだろう。
それが人間と言うものだ。
二人は待った。
とても余計なことを言い出せる雰囲気ではないし、何よりも決めるのは雅美なのだから。




