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いや正確には、口の中で何かを呟いていた。
それはあまりにも小さな声だったので、上条にも桜井にも何を言っているのか判らなかった。
上条が雅美を見つめていると、雅美が言った。
「聞いたことあるの。ご先祖様が、とんでもない化け物を封じ込めたって。洞窟が発見された時、ひょっとしてって思っておじいちゃんに聞いたんだけど、おじいちゃんは「場所が違う」って言ってたわ。だからうちには関係がないのかと思ってたわ。でも話を聞いたところによると、どうやら関係がありそうね。でもおじいちゃん、なんで場所が違うって言ったのかしら。間違えるわけは、ない筈なんだけど」
「ご先祖様が、化け物を封印したって?」
「そう。ご先祖様が知り合いの僧侶と協力して、封印したって聞いてたわ。大学のすぐ近くに、大井神社ってあるでしょう。あそこがうちの実家なのよ」
上条は大井神社のことは知っていたし、雅美の苗字が大井であることも当然知っていた。
しかし雅美がその神社の娘であるとは、想像もしていなかった。
上条は雅美に話しかけようとしたが、桜井がそれを手で制して言った。
「僕もうっかりしていたよ。雅美ちゃん、前から気にはなっていたんだけど、左目だけにコンタクトを入れているね」
「ええ、よく気がついたわね。気がつく人、あまりいないんだけど」
「ちょっと、取ってくれる」
「どうして?」
「とても大事なことなんだ。だからそのコンタクトを外してくれないか」
「ええ、わかったわ」
雅美がコンタクトを外した。
雅美の指のうえにあるそれは、灰色をしていた。




