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上条もそうだが、顔を見たところ桜井も知らなかったようだ。
考えてみれば、雅美と少しでも突っこんだ話をしようものなら、いつも真亜矢が口と体で邪魔をするので、ろくに話をしたことがなかった。
今度は桜井が言った。
「実家って、どこなの?」
「大学のすぐ西よ。無理をしたら、歩いて通えるわ」
「そうか。僕は地元と言ってもずっと東だから、校区が違ったんだね。それで知らなかったんだ」
「桜井君も、地元なの?」
「そうだよ。歩いて通うには無理があるけど、一応地元だよ」
「そうなんだ。で、上条君は違うわよね。夏休みの真っ最中なのに、地元に帰らなかったの?」
「いや調べていたんだ」
「何を調べていたの?」
「吸鬼のこと」
「吸鬼って、なに?」
「洞窟に封印されていたやつだよ」
「洞窟? 洞窟ってあの崖崩れで見つかった洞窟のこと?」
「そう、その洞窟のことだ」
「そこに吸鬼というのが封印されていたの?」
「そう、そいつが原因で犬田をはじめ、何人もおかしくなった。木本も今頃は……」
上条は雅美が何か言うと思ったが、雅美は黙ったままだった。




