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「あいつ、どれだけ休んだら単位がなくなるのか、きちんと言ってくれればいいのに」
「それは言わないだろうな。と言うか、きっちり何回とか、はっきりと決まってはいないんじゃないのか。ただ単に、目に付いた生徒を落としているだけとか。そんなところだろうな」
「えーーっ、そんなのありかよ」
「中途半端な私立大学の教授なんて、せいぜいそんなものだろ」
上条と木本で会話が続いているが、もちろん桜井もちゃんといる。
ただ口を開かないでいるだけだ。
木本が言った。
「まあ、犬田が単位を取れなかったとしても、俺には関係のないことだからな」
「それは俺も同じだ」
それはそうだろう。
害があるとは言えないが、できれば関わり合いたくない男なのだから。
次の週、犬田は講義にやってきた。
やって来たことはやって来たのだが、その姿はみなを激しく動揺させた。
まず顔色が異常と言っていいほどに青白かった。
病気などで顔色が悪くなることは珍しくないが、そんな可愛いらしいレベルではなかった。
とても生きている人間とは思えないほどに、悪かったのだ。
目は、死んだ魚のような目だ、と言う表現を使うことがあるが、そのままの目だった。
顔は人形のように無表情で、体の動きもなんだかギクシャクしており、壊れかけのロボットを連想させた。