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桜井は広間まで足を入れた。
すると黒いものが反応して桜井に少し近づいたが、すぐに離れて元の位置に戻った。
「ほらね。大丈夫だよ」
桜井は離れたそいつに、自ら近づいて行った。
上条は正直怖かった。
しかし好奇心と、こいつを観察すれば何かわかるかもしれないという考えから、中に入り桜井の横に立ってそいつを見つめた。
近くで見ても、そいつはただ黒かった。
見ていると吸い込まれそうなほどに。
上条はそいつから、実物は見たことのないブラックホールを連想した。
基本的には1メートルあまりの球体である。
それが人の目の高さのあたりに浮かんでいる。
球体ではあるが、その表面がアメーバーかなにかの軟体動物のように、うねうねと蠢いていた。
そしてわずかばかりだが、全体から何かを放出していた。
上条にはそれは最初、煙に見えた。
しかしよく見ると、細かく小さな粉のようなものを吐き出しているのだと判った。
もちろんその粉も真っ黒だった。
桜井が顔を更に吸鬼に近づけた。
吸鬼と桜井との距離は20センチもないだろう。
そしてそのままそいつをじっと見ている。




