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「レプリカかよ」
「本物はそれなりの施設に保存されている。うすうす感づいていると思うけど、ここには学術的価値、芸術的価値、資産的価値のあるもの、盗んで金銭的に潤うものなどは、一つもないよ。にしても、誰が手間隙かけてわざわざこんなものを作ったのかまでは知らないし、今現状ではそれはどうでもいいことなので調査もしてないけどね」
桜井は古書のレプリカを手に取り、上条に渡した。
上条はページを開き、中を見た。
「よ、読めねえ」
「文字を書いた人が違うから字体は多少変わっているけど、どちらにしても読み慣れない現代人には読めないだろうね。専門家でもない限り。そのために、こっちがある」
桜井は、今度はノートを手に取り、上条に渡した。
こんなノートをどこで売っているんだろうと思うほど、分厚いノートだった。
「これは?」
「その本を、子供でも判るくらいに判りやすい現代語に直したものだよ。三百年ほど前にこのあたりで起こったことが書かれてある。最初のほうは飢饉とか台風とか、天災ばかりがいくつか書かれているけど、後半の三分の一が、例の洞窟に封印されていた奴のことが記載されている。これまでにいろんなところでいろんな資料を見てきたけど、どれも役に立たなかった。なのにこれ一冊で、あれについて知りたかったことの大半が判ってしまった。ほんと、これを書いた人が目の前にいたら、抱擁してキスでもしたいくらいだよ」
上条はノートの最後のほうを開けてみた。
「ちっちゃ」
とても小さい字で、びっしりと書かれてあった。
改行もひとつもなかった。
これほど分厚いノートにこんなちいさな字でめいいっぱい書いてあるとは。どれほどの内容がここに書かれてあるというのか。




