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8話 深夜の見回りと奇妙な者

どうも瀬木御 ゆうやです。

今回はいつも以上に拙い文章になってしまいますが、楽しんで読んでいただけると幸いです

深夜となってデザールハザール国の街の明かりが消えていく。

人々も自分の家に帰り、酒場も宿屋でさえも店先の明かりを消していく。残った明かりは街路を照らす街灯のみとなっていた。


人がいなくなり静まり返る街に、ガシャガシャと2人の男女の騎士が徘徊していた。


男の方はテラス・デルゴラ・サージ。

女の方はシャデア・パテルチアーノ。


ジゴズ騎士団所属の見習い騎士として彼らは街の見回りを行っていた。


ナナシと別れた後すぐにフィンをお屋敷に連れて帰ったのだが、刻限と魔獣の件で右大臣であるフィンの父親にこっぴどく怒られてしまい、彼らの騎士団長であるジゴズに深夜の見回りを任されてしまった。


疲れた体に鞭打って、暗い夜道をランタンで照らしながら歩く二人。

シャデアは不審な人物がいないのか熱心に辺りを見渡すが、テラスの方はこの見回りにあまり納得がいかないのか、ムスッとした表情でシャデアの後ろを歩く。



「まったくフェルド様に怒られて、さらにジゴズ騎士長にまで怒られてこのような罰を受けるだなんて、歩いて疲れた体に対してこのような仕打ちはいささか納得がいかないぞ!」


「そう言わないでちゃんとやろうよ、テラスってば騎士長に怒られて泣きそうだからってそう悪態つかずにさー」


「だ、誰が泣きそうになっただ!この私がそのようなことなど!!」


「はいはい、ほら行こー」


「っったく……」



二人楽しそうに会話をしながら見回りをしていたが、そこで少しおかしなものを見つけた。


露店商。

人通りがなくなった街路の端にひっそりと佇むそこに老婆らしき人物が簡易的な店を開いていた。


デザールハザール王国では、金のおかげで産業も人々の暮らしも発展した反面、商家を狙った犯罪も起こり出した。

そのため建国200年のこの国では、深夜の時間帯には一部の店を限り全ての商いは法律で禁止されていた。


もちろん露店商も例外ではなく、二人は露店商に近づくと老婆の顔を覗き込んで丁寧にお願いする。



「おばーちゃん、今の時間は商売出来ないからすぐに立ち退こうか。何だったら手伝ってあげるけど」



シャデアがお願いするように店をたたむよう促す。

しかし老婆は、「フフフ…」と不気味に笑うだけでこちらの言っていることには何も答えてはくれなかった。



イラつくテラスの前で、屈んで虚ろな目をした老婆と視線を合わせるシャデアは少し言葉を変えて言ってみる。



「おばーちゃん?早くしないとこのお兄さんがイラついて、剣を抜いておばーちゃんの事斬っちゃうかもしれないから、早くしようか」


「おい待て! 俺がいつ剣を抜こうと…」


「抜刀の構えしてるテラスがそれ言う?」



実際テラスは剣の柄を握っていた。

元々、こういった仕事はあまり好きではなく、疲れているので早めに済ませようと脅かそうとしていたのだが、シャデアに嫌そうな顔で見られ、すぐに柄から手を離す。


そして、テラスは老婆に対して高圧的に命令する。



「さっさと立ち退かないかこのババア、こちらは護衛の任を終えてからの見回りなのだ、疲れているのだ。だからとっとと店を畳んで残りの余生を考えながら帰るんだな」



老婆に対して暴言ともいえる言葉をぶつけ睨みつける。

呆れたようにシャデアはため息をついて、再度老婆の目をみる。



「ほら、手伝ってあげるから帰ろうね」



----------------------------------------



出店の骨組みをバラしたり、商品として並んでいたネックレスなどの装飾品を老婆が持ってきていた小さめの荷車に詰め込み、ひと段落ついておでこを擦って汗を拭うシャデア。

老婆はもちろんの事、嫌々やっていたテラスも手伝っていたのだが、それでも作業スピードはシャデアの方が早く、老婆よりもテキパキと動いていた。



「いやー、良い運動しましたよ!」


「……お前は、本当に昔からこーいったことは得意だよな……つか、騎士がこういったことをやるのは格好がつかないんじゃないか……」



満足げなシャデアに渋い顔でテラスが言うが、笑顔でシャデアは言う。



「騎士といえども戦いなどがない平穏な時代、こうも動かなければ騎士の見習いである理由はないですからね!」


「……ふん、戦いなんてあんまりやってほしくはないがな」


「大切な人を守る、フィンお嬢様をお守りできれば私は本望ですけどね」



そう言ってシャデアは老婆と向き合う。



「さぁおばーちゃん、これで良いかな?」


「……フフフ、お嬢ちゃんはええ子だねぇ…」


「いやー、よく言われますよあははは…」


「…あの右大臣様の令嬢を守るんだって……フフフ、わたしゃ応援しとるよ」



老婆はそう言って懐から何やら取り出すとシャデアに差し出す。

1枚のクッキーだった。



「これは?」


「フフフ……お礼さね……体がうまく動かなくて店をたためなかったわたしゃの代わりに片付けてくれたことにねぇ……どうさね、食ってみんかぇ?」



差し出されたクッキーを手にとってマジマジと見る。

色はもちろん美味しそうな茶色いで、匂いにも特に変わったところはない。むしろ食欲をそそるような香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

だが、テラスがシャデアの肩を叩いてそれを止める。



「……やめろ、もしそのクッキーに毒なんかが入っていたらどうする気だ? それにこの老婆の素性もよく分からんのだぞ」


「……騎士は国の盾で剣です。この国に住む者の言葉が怪しいと思っては、守る騎士としては失格になります。ですから……」



心配そうにテラスは言うが、シャデアには聞く耳持たずだった。

パクリ、と美味しそうにクッキーを頬張るとボリボリ噛んでいく。



「ここふぁあふぇてたふぇるのが正解なんでふ……んん………うん、毒は無さそう……ん……っていいますか、美味いですねこのクッキー」



そう言って残りも美味しそうに平らげるシャデアをテラスは若干だが羨ましく思う。



「フフフ……ありがたいねぇ…あたしゃその菓子を食べてくれる人がいる事が何よりも嬉しいよ……」


「おばーちゃんこんな美味しいクッキー作れる腕を持ってるのに、どうして装飾品なんて売ってるの?」


「フフフフ……あたしゃ別に料理が好きなわけじゃないからねぇ、それにその菓子は特別だからねぇ……」



老婆の答えに首を傾げるシャデアであったが、老婆はそれ以上は何も言わず、荷車を引いてゆっくりと去っていく。



「何だったんだあのババアは、気味が悪い……というかシャデアは大丈夫なのか?どこか身体に異常がないか? 頭がフラフラするといった事はないか? 吐き気とか…」



老婆が帰ったのを見届けてからテラスがシャデアの肩を掴んで必死に心配そうに聞いてくる。

だがシャデアの方は何の変化もないので大丈夫だと言う。


「心配しすぎだよテラス、私は平気だって。ほら体も動くしさ」



腕をブンブンと振って元気アピールをする。

……とりあえずは身体に異常はみられない。

確認してホッと安心するテラスだが、次の瞬間には怒鳴っていた。



「怪しい者からもらったものは今後は食べるな!! たとえ騎士であろうと命を無くせば守るべきものも守れないんだぞ! それぐらいは考えろ!」



テラスに怒られてシャデアはしゅんと落ち込み、すぐに頭をさげる。



「その通りですね……私が早計でした。確かに命なくしては騎士ではないですね……以後気をつけます」



丁寧に謝られその姿にタジタジと驚くテラス。

少し言い過ぎただろうか……そう考え、バツが悪いくなってそっぽを向く。



「……これ以後は気をつけろよ」


「……やっぱり優しいねテラスは」



シャデアは舌をちょこんと出して悪戯っぽく笑う。

それを見て謝罪が演技だと気づいて少しばかり恥ずかしくなったテラスが、腹いせにシャデアの頭にゲンコツでもお見舞いしようと捕まえようとする。

しかし、それをかわしてシャデアは走り出す。



「あははははは、こっちだよー!」


「お前ふざけんな!このくそったれ!!」



デザールハザール王国

深夜の街、通行人などもちろんいない街路で二人の若い騎士が追いかけっこをする様子を、見ている者は誰もいなかった。






------------------------------------------------------------


所変わって、デザールハザール王国南西の商店街。


人も皆寝てしまい誰もいないはずの街中に、ひっそりと動く影があった。

それは長いつばのシルクハットを被り、黒い厚手のコート、黒いブーツをカツカツと鳴らした奇妙な者だった。


シルクハットのつばを右手てあげて、を何かを探しているかのようにキョロキョロと辺りを見渡す。

やがて探し物が見つからなかったのか、項垂れてガッカリしたような形になる。

そして、何かを諦めて建物の間に続く路地裏の闇に姿を消そうとした。

その時だった。



「おい貴様、今の時間帯、商店の周りをうろつくのは禁止されているんだぞ。もし商店の関係者だったとしても、出来るならすぐ用事を済ませていただきたい」



背後からか話しかけられ、奇妙な者は振り返る。

そこには3名ほどの鉄の甲冑を着た騎士がいた。


彼らはデザールハザール王国『ルミエル騎士団』所属の騎士達だ。

彼らは夜の見回りをやっており、現在商店街でウロウロしていたこの奇妙な者を見つけて注意をしようと呼び止めたのだ。



「おい貴様聞いているのか?」


「……」



しゃがれた声の騎士の質問に奇妙な者は答えず、ただ黙って騎士達の顔や体を舐め回すように見る。

それに気味悪がったのか、後方にいた一人の騎士が剣を抜いて奇妙な者に突きつける。



「怪しいな……もしかしてここ最近、この国で女性を中心に起こる人攫い事件の関係者だったりするのか?」



【人攫い事件】


デザールハザール王国では夜な夜な家を飛び出した若い女性が行方不明となる事件が起きている。

元々、見回りの騎士に出会わなければ深夜に出歩いても問題なかったのだが、それっきり家に帰ってこないという事が起こり始めた。

現在では被害者の数は45名以上。

その大半が若い女性で、わずかだがその女性と交際していた男性も入っていた。


被害現場はほとんどが南西の商店街付近で、これに対して王国も頭を抱え始めている。

そのためこの辺りの治安を務める『ルミエル騎士団』は騎士の見回り人数を2人から3人に増やして何とか被害を抑えようと努めていたが……。


どうやら、その容疑者に出会えたようだ。



「……そういえば、こんな星が明るい日によく起こっていたよな」


「……ちょっと同行してもらいましょうか」



そう言って先頭の騎士が男に触れようとする。

だが触れる直前、背筋がぶるりと震え伸ばしていた手を止める。

何か違う。



「……ィヒヒヒ、人攫いダァ〜?俺はただ、夜の街で男と密会してまぐわる淫らな女どもに対してお仕置きヲォしていただけだよぉ〜ン♪」



初めて聞く奇妙な者の声。

弾んだテンションが一気に弾けたように喋り出すその様子に先頭の騎士はすぐさま後ずさる。

そして、急いで剣を抜き奇妙な者に対して構える。

同時に後ろに控えていた二人もも距離をとってすぐさま剣を抜く。



「……貴様ぁ、攫った者達はどうした! 生きているのか!!」


「ン"ン"ン"〜〜♪ そんなの知らないよ〜ん、攫うだなんて、そんな馬鹿が行うようなマネするわけないンじゃないですか〜」


「なら一体どうした!」


「そ・の・ば・で……喰〜〜べましたよん♪」



その言葉に、ゾッとする騎士達。

人を喰った。

その事実だけでも驚きだが、彼らは被害者達が消えた現場を捜索した事があるから分かる。

路地裏にも何処にも血の跡などない。

暴れた形跡は有れど、暴行で出た血の跡が何処にもない。

その結果から被害者達は生きており、人攫いによるのにだと断定したのだ。

食べたということは、殺したことになる。

攫って食べたのではなく、その場で食べたと言った。





では、目の前にいる奇妙な者はどうやって被害者達を食べたのだ?





違和感と恐怖を悟った先頭の騎士は、急いで後方にいる騎士に叫ぶ。


「この者は私が相手をする! お前達は詰所に戻って増援を呼んでくるのだ!」


二人は言われてすぐにどうするか互いの顔を見合うが、「行けッ!」と先頭の騎士に言われすぐに踵を返して元来た道を走っていく。


それで良い。


先頭の騎士がそう安堵しつつ、目の前の奇妙な者を増援が来るまで足止めできるか考える。……が。



「では……いただきますねン♪」




------------------------------------------------------------



ルミエル騎士団の詰所に戻って仲間を10人以上連れて戻って来た二人の騎士は、目の前の光景に唖然とした。


さっきまでなんともなかった商店街の建物全てに、まるで潰れたトマトのように赤黒い何かが飛び散っており、見覚えのある甲冑とその装備一式がが街路の中央に傷もないままポツリと置かれていた。



騎士の影と形はもちろん、奇妙な男は何処にもいなかった。

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