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3話 蜘蛛の魔獣

何事だと音がする方に目をやると、さっき感じた2人の気配のものであろう、男女の騎士が走ってこちらに向かってくる。


「フィン様、魔物です! この強さは私たち2人では手に余ります。急いでお逃げください!」


「馬はどうしたの?」


「喰われました!ですので徒歩での逃走になりますが、我慢してください!」



二人の騎士、1人は金髪で格式の高そうな少年。もう1人はそれとは相まって少年と同じ鎧以外は少しボサリとした赤髪の少女だ。


彼らはフィンと呼ばれた少女の元に着くと、そのすぐ向こうの森に入ろうとしていた男に気づく。


容姿も相まって、彼ら少女を自分たちの後ろに移動させ腰すぐに携えていた剣を抜き、男に切っ先を向けた。



「何者だ貴様!? 人間ではないだろう」


「いや俺は人間だ、それにそこのお嬢ちゃんに道を尋ねただけだ」


「嘘をつくな! その格好、その顔を見れば魔族だと分かるぞ! ……この薄汚い悪意め!」


「貴様まさか、フィンお嬢様の遠出の先を知って我らにあの化け物をけしかけたのか!!」



何やら切羽詰まってるのか勝手に決めるつけようとする2人の騎士に、めんどくさいのでこの場で殺してしまおうかと考えていると、3人の後方から森の影で隠れていた何かが姿を表す。


それは、大きな蜘蛛だった。

正確にはタランチュラというのが良いだろう。

フサフサの毛の様なものが頭から生え、その口元にはさっき言っていた馬の脚が見える。


騎士たちもさすがに追いかけてきた化け物と目の前の男にどうすれば良いか迷っていたが、男の方はそれどころではなかった。



未知の生物、いや、地球にあんな蜘蛛がいるとは思えない。見たことがあるとするならば映画館内での暗殺でチラリと見た映画の作り物くらいだ。


しかし、現にあれは生物として動き、蜘蛛特有の動き脚の動きを見せている。


だとすればここは、どこだ?

ここはなんだ?

この3人は、現代人か?


男が小難しいことを考えていると、その大蜘蛛が馬の脚を美味そうに口の中に入れ咀嚼し、今度はこちらの方に向かってきた。



「こうなったら俺が奴とこの男と戦う。シャデアはフィンお嬢様をお連れして早く逃げろ!」


「しかしテラス1人ではこの化け物達に敵うわけないです! 私も残ります!」


「バカやろう!先輩の言うことは聞いとけ!! あと俺が弱いみたいな言い方やめろ!」


「ですが……」


「いいから行け!!」



テラスと呼ばれた少年は、2人の少女に逃げろと言う。

命をかけて強敵と戦う光景。


しかし、男の目には滑稽に映って仕方がない。


だからこそ、一歩、また一歩と花畑に戻っていく。



「貴様! フィンお嬢様に近づくな!」



女騎士、シャデアがフィンの盾になる様に男の前に立ちはだかる。

だが、男はその横をなんの気も無しに通り、2人を無視する。


やがて、地響きを立てて向かってくる蜘蛛に対して剣を構えていたテラスという騎士の横も通り過ぎる。


テラス自身、敵だと思っていた奴が急に前に出てきて驚いていたが、そんなの男が気にすることはなかった。


彼らの前に立ち、向かってくる化け物と見据え、対峙する。



「なんの真似だ!? 貴様はあの蜘蛛の仲間じゃないのか!」


「俺は人間だって言ってんだろ、それとは別に、お前らが死のうがどうでもいいんだよ」



そう、別にこの人間たちを守る気などない。


あるのは期待とそれに対する挑戦のみだった。



「……人間以外の殺害ってのは初体験なんだ、牛や豚じゃない必死の抵抗ってのが見てみてぇよ!」



腰と服の内側に入れておいた暗器を取り出し、目の前の獲物に興奮を覚える。



向こうも何やら野生の勘が働いたのか、その脚を止めてゆっくりと八つの脚を動かしながら近づいてくる。


端から見ている3人にとって、それは死ぬか生きるかといった緊張感のある戦いだが、男にはそんなもの感じなかった。



蜘蛛とあと数メートルといった時だった。

突如として蜘蛛が突っ込んできたのだ。


あまりの動きの速さにビクつく彼らだったが。



蜘蛛はその巨体にも関わらず男見あたるどころかその横を通り過ぎていった。

蜘蛛の方も何かに気づいて振り返るがもう遅かった。


8つある目のうち、2つにナイフが刺さったからだ。



「まず6個も目はいらないだろ、ほら苦しめ」



あまりの出来事に蜘蛛は驚き、あまりの痛みに悶絶する。


だがそこは化け物、やはりこの程度では死ぬわけがない。

自分の目にナイフを投げつけてきた男を殺すべく、残った目で探す。



しかし、男はそこにはもういなかった。



蜘蛛が残った6つの目でキョロキョロと辺りを探すが、見つからない。


大きな体を動かし辺り一帯を探そうとするが、それは半ばのところで叶わなかった。


蜘蛛の脚、そのうち右脚の3本が切り落とされており、脚が残り一本となった右側にドサリと倒れ出す。

斬られたことを認識していなかったのか、蜘蛛は斬られた脚を見て、ようやく悲鳴のような雄叫びをあげる。



「認識しなかったら痛みなんてなく死ねたのに、残念だ」



男はいつの間にか蜘蛛のすぐ目の前に立っており、うるさかったのか耳に手を当てて蜘蛛の顔を見ていた。



急に現れた男に、さっきまで捕食していた捕獲者と獲物の立場が変わっていることを考えたのかいないのか、蜘蛛はすぐ近くにいる男を咀嚼しようと強靭な顎を左右に広げて迫るが、またしても男が消えた。


男を食えなかった代わりに、花の中に落ちていた四角くねずみ色の小さな物を咀嚼してしまう。



「それが敗因だな。もっと骨があると思ったら脚も柔らかいし、殺しごたえがない。まだ逃げる虫を殺した方がマシだ」



そう言って、蜘蛛から数メートル後方に背を向けながら離れていく男を、ようやく見ることができ。


蜘蛛の頭部が爆発飛散した。


蜘蛛が口にしたのは男が持っていたc4。もっとも、固く閉ざされた扉などの爆破の際に使うあまり威力の強いものではないが、この程度の柔らかそうな生物なら難なく吹き飛ばせる威力を持っている。


頭部を失い、ピクピクと脚を痙攣させる蜘蛛を2人の騎士は見つつ、こちらに戻ってくる男に少しばかり気圧される。



「な、何なんだあんたは!? あの魔獣を倒すなんて……」


「倒したなんてそんな大層なもんでもない、ありゃ害虫駆除の一環だ。目の前の害虫を殺すのは当たり前だろうが」



そう答える男に、2人の騎士はお互いに顔を見合わせる。


彼らの目には、男は悠然と蜘蛛の周りを歩いてたり、何の気なしに脚をどこからか取り出した細長いロングソードのようなもので一刀、ゆったちと斬り落としていたからだ。


蜘蛛はそのことに気づいていなかったのか、ずっと何かを探しているように見えた。


この時、男は『能力』を使っていた。


痛みと視覚の認識、他に時間の認識を狂わせていた。


そのため、蜘蛛は素早く動いていたつもりが、端から見ると倒れる間に脚を3本も切られているのにも関わらず、ゆったりと男を探していたのだ。



これが、男の力だった。




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