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異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました  作者: 瀬木御ゆうや
第2章 結婚する相手はどんな人を選ぶべきだろうか
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31話 気遣い(前)

兵舎に戻ったテラスは仲間が全員忙しく動いている姿を目にして不思議に思う。


(今日は夜間の訓練などなかったはずだが)


疑問に思った彼は近くで武器を荷馬車に積み込む同僚に尋ねる。

同僚から詳しく話を聞いてから彼は一目散に団長を探しに騎士団の施設を次々と訪ねて行く。


話を聞くとジゴズ騎士団は明朝、他国での襲撃事件の解決のために騎士団総出で出陣するそうだ。

それを聞いて急いで準備に参加しようとするが、どうやらテラスだけは休暇扱いとしてこの遠征軍の参加リストに載ってないそうだ。そのため同僚からは「いいから休んでおけ」と言われたが、テラスはそうはいかない。


急な話と参加されていない事もあってテラスはすぐに鎧を装備し、ジゴズのいる会議室に向かう。


バン、と大きな音を立ててドアを開けるとそこにはジゴズ騎士団長とその右腕である参謀長、テパルマ・リオスがいた。


二人は急に入ってきたテラスに顔を向けて尋ねた。


「何か用かテラス・デルゴラ・サージ。貴殿はまだ休暇の途中だが」


ジゴズの威厳のある一声にテラスは二人に駆け寄る前にすぐに立ち止まり、彼らに対して言う。


「騎士団長殿、参謀長殿、私は休暇の身でありますが、どうして今回の遠征名簿のリストに入っていないのですか?国家間の問題であればどのような事情があれどそれに赴かなければいけないのが騎士の勤めと思います」


「左様、騎士は王国と隣国の民を守るのが勤め。友好国の危機に馳せ参じるのが私たち騎士の勤めだ」



参謀長のテパルマがテラスの問いに同調し答える。

だがそれではテラスは納得できない。


「ではなぜ私を今回の遠征から外してあるのですか? 私は見習いですがデザールハザール王国の騎士でもあります。このような休暇の時でさえも召集されるべきだと思っております」


テラスが意見するとテパルマが何か返そうとする。

だがその前にジゴズが彼の前に立ち、テラスの問いに答える。


「それはこの俺の嫉妬によってだからだ」


ズンっと響く声でテラスに理由を告げる。

テラスはその解を聞いて驚いて後ずさる。


「ジ、ジゴズ騎士団長殿!! それは一体どういうことですか!?」


テラスは退いた足を前に戻して再度尋ねる。

だがジゴズは先ほどと同じように冷たい目で答える。


「テラス・デルゴラ・サージ。貴殿は先の事件の際に私を出し抜いて強大な悪である魔獣を単身で倒した。私を出し抜いてだ」


ジゴズは、なおも低く重く冷たい声でテラスに言う。


「私の面子は汚れ、権威も落ちた。だから貴殿にはこの遠征任務には外れてもらう、今回の事件の黒幕も同じ知性のある魔獣のはず、私が討伐して名誉の挽回をするのだ」


「で、ですが、それでは私としても納得が」


「以上だ。貴殿は残りの休暇を謳歌するのだ」


「しかし……」


なおもジゴズに言いかけようとするテラスだったが、ジゴズが鞘に手をかけて剣の塚を握り抜刀の構えをとった事でやめた。

ジゴズはその姿勢のまま、なおも言う。


「早く出ていけ」



すごすごと逃げるように引き下がったテラスはそのまま会議室から出て行く。

外で鎧が掠れた音が遠ざかって行くのを聞いてから、ジゴズは「フッー!」と大きく息を吐く。

その姿に、地形図をまとめる作業を再開したテパルマが手を動かしながら聞いておく。


「あんなこと言ってよろしかったのですか? 」


「まぁな、とは言っても俺はいまにも心が張り裂けそうで胸を痛めている。心にもないことを言ったからな」


ジゴズは言ってからすぐに顔のシワと表情を緩める。

そこにはいつも民衆から慕われる彼の顔があった。


「あいつは魔獣を倒す程の力量を隠し持っている。おそらく未来有望の少年だ」


「では尚更連れて行くべきでは? 私が見る限りでは彼の騎士のあり方は彼の同期たちの中ではもっともなことだと思いますが」


テパルマがジゴズに質問を投げかけると、彼はそれには首を振って答える。


「…だからこそだ。あいつと…あいつの友も何かに焦って葛藤していたように俺は見えた。この2週間の休暇のうちにあいつにはもう少し考える時間を与えようと俺は思った。遠征から外したのもそういった配慮からだ」


ジゴズが語るそれにテパルマは覚えがあった。

それはテラスと今はないないシャデアが入団した当初。

2人はよく稽古に励んでいたこと。


夜遅くまで二人で剣の稽古をしていたのを見て、もう休むようにと忠告すると彼らはまだ続けると言って木刀をぶつけ合う。

彼らの姿は傷だらけだったが、それでも木刀を振るい続ける。テパルマもこれではいけないと思ってすぐに二人を止めて叱ったが、彼らは何かに焦っているかのような目をしていた。

それからは彼らに目を向けるようになって、テパルマの視線に気づいた彼らも段々と落ち着いて稽古をするようになった。


彼らは違う。

信念が根本から違っている。


テラスと、ここにはもういない少女シャデア。

テパルマはそれを踏まえてジゴズに答える。


「もしも…もしも彼が成長したらきっと良い騎士になれると私は思います」


「仇だけで魔獣を倒すやつだ、きっと俺よりも強くなる」


「ルミエル殿と同じく整った顔ですし、そうなれば貴方より女性の評判は良くなるでしょうね」


とテパルマの皮肉にジゴズは「こいつ…」と少し笑いながら言って小突く。


少しだけだが場の空気が和らいだのを機に2人はすぐに元の作業に戻る。


会議室の外では、去っていったかのように見せかけて戻ってきていたテラスが2人の会話を聞いて泣いていた。

団長の気遣いに、感謝しながら。


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