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14話 対峙(前編)

奇妙な者はコローネを掴んでいた手を離した。


少女はまるで奈落につながっているかの様な口に落とされる。


【死】


実感も経験もないはずのそれを肌で感じ、コローネは自らの運命を呪う。

やがてコローネは力無く、残酷な運命に従いながら重力に沿って落ちる。



そう思っていた。


その時だった。



「……ハァ!!」



女性のものと思われる声が聞こえたかと思うと、「ぐぅ」とくぐもった声を奇妙な者が出した。

ふと誰かに受け止められて、顔を見上げる。

そこにはさっきの金髪の青年騎士がいた。



「……ック、危なかったなガキンチョ! この私が助けたのだからお礼を言っても良いぞ!」


「テラス、あなたはそんな子供にまで素直になれないの?」



周りを見ると他にも剣を構えているさっきの赤髪の女騎士もいる。

なぜだか分からないが、どうやら助かったらしい。



「ど、どうして分かったの?……声も音もしなかったのに……」



コローネの疑問に、振り返って微笑む赤髪の女騎士。シャデア・パテルチアーノは答える。



「そこのバスケットに何か美味なるものが入っているのでしょう、その香りに気付いたんです。……まぁ戻ろうとしたらテラスと口論しましたが、間一髪で何よりです。 お怪我はありませんか?」



それにハッとして、地面に放り投げられたバスケットに視線を移す。そこにはせっかくの料理が地面に投げられて無残にもばら撒かれてしまっていた。


母が作った料理のおかげで助かった。


今ごろ洗い物で忙しく手を動かしているであろう母に、少女は感謝した。その反動で自然と涙も溢れる。



「おいおい、泣くではない! わ、私の鎧に涙が付いては格好がつかない!!」



あたふたと、払いのけることもせずにどうしようか困った顔を浮かべる金髪の青年騎士。テラス・デルゴラ・サージだったが、ガサリと何かが地面に擦れて蠢く音がするのと同時に少女を抱えて後ずさる。



「……おいおい、確か化け物の腕を落として首を切ったはずじゃなかったのか?」


「……えぇ、ちゃんと切ってますね。でも動いています」



彼らは路地裏の奥まで吹き飛ばした奇妙な者に対して敵意と気味の悪さを向ける。


シャデアは、少女を食べようとしていたソレを見て間髪入れずに剣を抜き、上を見上げていた化け物の首を切って、そのまま利き腕であろう右腕を切り落としていた。

そしてその体にテラスが体当たりをかまし、少女を受け止めたのだ。


すぐに起き上がることなど、普通の人間ならできない。

むしろ地面にのたうち回ってそのまま息耐えていなければおかしい。



「……ア"ア"、これはこれわ……わたしの血は久しぶりです……本当に久しぶりです……成る程ナルほどなるホド……これは良い経験ですね♪」



奇妙な者……帽子が外れその顔を露わにした化け物は、ボサボサの白髪を乱雑に揺らし、口元からどす黒い血を垂れ流しながらシャデア達を笑顔で見ている。


その顔に恐怖よりも疑問が浮かぶシャデア。



「……あなたが魔獣だというのは騎士団長から聞かされています。でも、なぜこのような事をするのでしょうか? あなたは知恵も体の作りも私たち人間や他の種族を上回るようですが、せっかく侵入したというのにこの所業は理解ができません」



この疑問を抱いたのは今が初めてではない。

ナナシとの稽古の後、兵舎に戻ると騎士団長から人攫い事件の犯人は魔獣である事を知らされた。

騎士達はみな魔獣の侵入とその強さに慄くが、シャデアだけは違っていた。


もしこの魔獣が知恵を持ち、なおかつ強大な魔力を持つとするのなら、どうして共存という道を選ぼうとしないのか?と。


魔獣は化け物と言ってしまえば簡単だが、それでは生というものに対する侮辱にも思える。

魔獣を狩って生計を立てる魔獣ハンターもその点では無駄な殺戮を楽しんでいるように思えた。


だからこそ、今目の前にいる知性がある魔獣に少なからず希望を望んでいた。

しかし、魔獣はそれには答えない。



残った左手に禍々しい装飾を施したナイフを握るとそのまままるで飛び上がるような跳躍をしてシャデアに襲いかかってくる。


なんの唐突もない奇襲に、それでも対応する。

シャデアはナイフを剣で受けると、魔獣が今度は地面に足をつけようとする瞬間を狙い、腹に蹴りをかます。


それが入ったのか、魔獣は小さく呻くとまたも距離を開かせて警戒する。



「……なんだなんだナンダ!? わたしの奇襲に反応して反撃なんて今時の騎士じゃありえない!!騎士長クラスの実力か!? いやだいやだいydかdksんf♪」



そう呻きながらジリジリと後退する魔獣。


それもそのはず、なぜなら今の攻防は近くにいるテラスやコローネの目には一瞬に見えていたからだ。


本来ならば、常人では反応できないはずの攻撃に、見習い騎士のシャデアが反応した。それだけでも驚くべきことだが、そこに追加攻撃を加えた。


驚いていたのはシャデアも同じだった。

考えるよりも先に、体が先に魔獣の動きに反応したかのように思えたからだ。



「……どうやら、あなたは残念な知性の持ち主のようでしたね。ではもう良いです」




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