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13話 深夜の街の奇妙な者



とある宿でコソコソと見たことない形をした暗器を揃えて服に取り付けては、今度はまた別の暗器を手にとって服のどこに入れるか考える男がいた。


ナナシは、昼の刻に聞いた『デザールハザール王国を騒がせる殺人鬼』を殺すためにその武器と調整を行っていた。


あの後、シャデアと別れてすぐに安い宿に泊まるとその一室でこの様な事を約1時間も行っていたのだ。

本来なら武器を選りすぐりすることはないが、今回ばかりは事情が違う。それはナナシ自身、とても興奮する事柄だからだ。


遠足に行く前の子供と同じ様に、ウキウキとはしゃぐ子供と同じ様な心境で武器を眺めるナナシは、さっき聞いた魔法とやらを思い出し、動かしていた手を一旦止める。


……果たして魔法とやらはどれほど脅威なものなのだろうか。


初めて見る異能に少しばかり心に引っかかる部分があるが、それは恐怖心だとナナシは気づいていた。

未知の領域……自分が多用する超能力とは違う法則で動き、人の身で怪物の領域に入れるであろうその魔法とは、一体どこまでの脅威になるのか。


もし今から殺しに行く殺人鬼がその魔法を使うとしてきて、果たしてどこまで自分の実力が通用するのか。

元の世界では、たとえ銃口が幾つも自分の方句を向き、弾丸が出たとしても『能力』を使ってすべてを避ける自身がある彼が、どこまで出来るかと不安になる。


しばらくの間手を止め、表情のない顔の目を細め、頭の中でとりあえず魔法を使った相手を想定したシミュレーションをしてみる。

時間にして数秒だったが、止めていた手を再び動かす。

シミュレーションの結果は出た。



「俺が負ける要素なんてないな」



そう嘯いて彼は最後の武器の確認を終える。

そして現在、この国だか世界の時間感覚では深夜の刻と呼ばれるころ。窓の外を覗くと、家々の窓から明かりがこぼれるが外には誰ひとりおらず。国全体が静まりかえっていた。


最後に調整と確認を終えた武器を腰に差し、彼はこの部屋に入ってすぐに脱いだスパイマスクの下の本当の顔、『顔のない黒い肌』をさらし。窓を開けるとそこからスルリと建物の屋上に向かう。


向かうは殺人鬼が出没する南西、ユーヴァン街。

思わず顔のない顔で笑みをこぼす『能力』持ちの殺人鬼の姿は闇夜に紛れる様にスーッと隠れてしまった。



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少女……酒場『マルリア』の店主であるマルリアの娘であり、幼いながらにウェイターをしているコローネは母からあることをお願いされていた。



「ごめんね、深夜の刻に特製スパゲッティを届けてくれって言われたんだけどまだ洗い物があるから届けてくれないかい?」



そう言って母から渡された熱々のスパゲッティをバスケットに入れると、冷める前に届けるべくすぐに店を出る。


街路はとても真っ暗で、自分の足元すらおぼつかない。


しかしコローネはこれが初めてだったわけではなく、迷うことなくスタスタと進んでいく。

もう少しで注文したお客さんの家に着く、その前であった。

軽快に走るコローネはその足を止め、急いで近くの路地裏に入り込む。

数十メートル先からランタンの明かりが見えたからだ。


おそらく灯りの主は見回りの騎士だろう。コローネは幼いながらに騎士達のめんどくささを知っている。一度見つかった際に家に送り帰され、冷めてしまった母お手製のスパゲッティ。


今回と同じお客さんが来店するたびにコローネに嫌味を言ってくるのが幼な心にはダメージが大きかった。


それ以降、夜の配達には神経を研ぎ澄まし、どう動くかを考える様になった。


今回は直前で騎士が歩いてきた。

なのでこの路地裏の奥に潜み、騎士達が通り過ぎるのを待つしかない。


ガチャガチャと鎧音が遠くから聞こえ。

バレないかどうかと心臓の鼓動を早くしてしまう。


ハァハァと少し荒い息が出る。

静かに深呼吸をして落ち着かせるが、どうも上手くいかない。

音が近く。

路地裏の小道に、ランタンの灯りが入り込み目の前を通ったのを確認できた。そこから姿が見える。

1人は金髪の男性。

もう1人は赤い髪の綺麗なお姉さんといったもの。


それは一瞬のことで、通り過ぎて灯りが見えなくなり同時に足音が遠ざかる。

それにホッとしてコローネは胸をなでおろす。あたりを見渡してようやく路地裏から出ようとする。







口元を手で塞がれるまでは。





「……ッッ!!?」


「……ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ー♪まさかこの様な年端もいかない幼き少女が逢い引きをしているというのでしょうか、まさにフシダラ♪」



あまりの出来事に何が起こったのか分からなかったが、耳元に囁く君の悪い声が心臓を止めたかの様にコローネの動きを止める。


それでもなんの躊躇いもなく、コローネの口をふさぐ者は小さく、しかし楽しげに語気を弾ませて少女に語りかける。



「お嬢さん♪ あなたはここでナーニをしていたのでしょうか?……さすがに幼なすぎるので逢い引きではないでしょう……」



そう言って何者かは分からない者が少女の持っていたバスケットに視線を向ける。

そうして「なるほど……」となぜか顎をこすって感心する。



「イヤイヤイヤイヤイヤイイヤイヤイヤイヤ……こいつは失敬でした♪ まさか御使いの最中だったとは思ってはいませんでしたよ、なるほどこれは良い子だ、私は良い子は殺すのを躊躇ってしまう……うん、躊躇いますね♪」



口を塞いでいた手をパッと離して勝手に謝る何者かに、咳き込みながらコローネはその姿を暗闇に慣れた目で見る。

全身を黒いコートで覆い、頭にはつばが長い帽子を被った奇妙な出で立ちの者だった。



「あ、あなたは何!!」



コローネが大声を上げるのも兼ねて聞こうとするが、突如として奇妙な者の胸元から伸びた【もう1つの手】によってまたも口を塞がれてしまう。



「ア"ア"ア"ア"〜、声は上げてはいけないわん! やっぱり悪い子でしたね、悪い子はどうしましょうか?どうしましょうか?どうしましょうか?どうしましょうか?どうしましょうかどうしましょうかどうしましょうか♪……………………」



手によって強引に奇妙な者の元まで引っ張られ、恐ろしくて涙をボロボロ溢すコローネを持ち上げて自分の目線にまで持ちあげる。

もう足も地につかず宙に浮かぶコローネに、奇妙な者は静かに言う。



「---------食べましょうか♪」



コローネはその言葉の意味がわからなかった。

食べるというのは母が作ったスパゲッティの事だろうか。

だが急に、どうして、母のを……。


現実逃避をする彼女の前で、奇妙な者は口を開ける。


開けるではない、裂き開く。

口はもちろん、裂けて裂けて首元まで裂ける。

そこには人間のものとは思えない歯と口内が広がっていた。


-いやだ、死にたくない。-


それを見て初めてそんな感情が浮かぶが、遅かった。


奇妙な者はコローネ自分の頭上まで持ち上げると大口を開けて一言。




「いただきます♪」





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