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10話 反射的にやった



夕方になり、ナナシは昼頃から入っていたエルフが経営する喫茶店から出る。


武器が見つからず、この広い国のどこに行けば良いか分からなかったので時間つぶしの為に入店していた。


一杯200ユルのお茶をチビチビ飲み、店員のエルフたちから「まだいんのかよ……」といった視線を浴びてたので、能力を使って存在をなかったことにし、彼は日が沈むのを待っていたのだ。


店を出た彼が向かうは国の門前。


昨日シャデアと稽古をすると約束しており、その為持っていた短剣を腰に差して待つ。


待つこと20分、夕陽で明るい空が赤くなってきた頃だ。

向かって前から鎧をガチャガチャと鳴らして一人の少女がこちらに走ってくる。



「お、遅くなってすいません!」


「いや大丈夫だ、俺も今来たところだから」



ハァハァと息をつかせながら彼女、シャデアはナナシに謝る。

ナナシにとっては時間などどうでも良いで頭を上げるように言う。シャデアは赤い髪をなびかせて笑顔でナナシの顔を見る。



「いやー、昨日の夜更けに別の騎士団で騎士が一人殺されたって報が早朝に届いて、こちらは朝から事件の捜索をしたりでさっき仕事が終わったところなんです」


「あぁそれでか、お前らも大変なんだな……んで犯人は捕まったのか?」


「まだですね、現在も国の騎士団あげての全力で捜索中です」



シャデアのその情報に「そうか」と相づちを打って何か考え事をするナナシ。


内容は、その正体不明の殺人犯を殺したいといったものだ。

犯罪者なら殺したところで困ることもない。

むしろ歓迎されるだろうか。


深夜の外出が禁止されているこの国で闇夜に紛れて犯人を探すのも良い運動になる。

それどころか死体を騎士団とやらに差し出せば報酬も貰えるはずだ。

タヌキの皮算用のように、いつも通りチャッチャと有意義で楽しめそうな殺人劇を考える。

ふと気付くと、ほおを不満そうに膨らませて不服そうな顔をシャデアがナナシに向けていた。



「……言っておきますが、夜間の外出は禁止されています。まぁ今夜の見回りの最中に同じことを考えている有志の人達が多数目撃できると思いますけど……ナナシさんをしょっ引きたくないのでやめて下さいね」


「でも捕まえたら絶対報賞金が出るだろ? 今のままじゃ生活が苦しくなるだろうし、それにもし見つかっても俺は逃げれる自信があるから気にするな」


「いやいやそー言うわけじゃなくてですね……はぁ、分っかりました。では犯人が出没する南西のユーヴァン街で勝手にやっていてください。くれぐれもここ【フェルド街】ではやんないでくださいよ」



シャデアはやれやれと手を振って呆れながら言う。

その姿に殺意が湧くが、とにかくさっさと稽古とやらを終わらせて夜に備えることにする。



「おし、そんじゃ稽古してやるか」


「はい! おねがいします!」



稽古の事になるとさっきまで不満そうな顔もパッと変わって笑顔になる。

元気そうに笑顔で返事をするシャデアの顔は、まだ子どもで無邪気だ。


さっきまでの殺意は何処へやら、二人は並んで稽古をする空き地までシャデアに連れらて歩いていく。




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剣の稽古というものをどう指導すれば良いか分からなかったので、取り敢えず実力を図ることにした。

お互いに剣で打ち合う……つまり試合というものだ。


しかし、冷静に構えるナナシに、シャデアは震えた声で言う。




「あ、あのナナシさん……ほ、ほほほんとうにやるんですか?木刀でやった方が良いんじゃないですか? 真剣で本当にやるんですか?」


「大丈夫だ、問題ない」




今の現状はこうだ。

まずシャデアが持ってきた木刀を受け取るや否や投げ捨て、「何をするだ」と疑問を口にするシャデアに小型のナイフで腰に差してある剣を指し、それでやろうと提案したのだ。


つまり……チュートリアル無視の間違えれば生死が問われる稽古だった。


このいきなりすぎる真剣での稽古には理由があった。

まずこの国はもちろん……おそらく周辺の国も同じだろうが……争いがなさ過ぎる。

街ではもう少し喧騒が響きそうなものだがそれも無く。

路地裏には挙動も姿も怪しい者はいるが、そいつらですら真っ当な商売をしている始末。


これにはこの国の治世が高く、社会に対する政策が上手くいっていることが要因だろう。

無限に摂れる金とは、またなんとも良いものだ。


しかし、その反面この国は危機感が軽弱にも思える。


例の人攫いの殺人者、ナナシから見ると『落第点を免れた劣等生』というイメージで、殺人はおろか、その類には入らずに興味が湧かなかったのだが、問題はその対処だ。


どうしてここまでのさばらせていたのか……と。


捜索の手がかりもなしという話は聞いたものの、それに対して武装した騎士が敗れたというのがナナシには納得がいかないものだ。

なので、この平和ボケした精神を正すところから始める。



「ですがもし剣でナナシさんを傷つけたら……」


「国のみんなを守るんじゃなかったのか?そんなへっぴり腰で戦えないようだったら騎士には向いてないと思うが」


「……その言葉にはカチンときました、本当に良いんですね」



さっきまで躊躇していたシャデアは、ナナシの発言に顔色を変えて睨みをきかせる。

どうやら、今のワードのどこかにシャデアの機嫌を損ねる言葉があるようだ。

数秒黙ってどの言葉か選び、推測だがそれを口に出す。



「……人も斬れないで何が騎士だ、このへっぴり腰が」



さっきまでにこやかだった少女は何処へやら。

眉間にシワまで寄せて怒るシャデアは、ナナシが言い終わる前にバッと前に飛び出たと思うと、剣を下から上に突き上げるように斬ろうとする。


だが、ナナシにはそれをナイフで受けて流すように躱す。

その際に1発、シャデアの脳天に拳を叩き込んだ。



「ぎゃ!!?」



短い悲鳴をあげて、そのまま倒れるシャデア。

それを見てやってしまったと慌てるナナシ。


いつもの癖で、反射的に意識を奪ってしまったようだ。見ると本格的に奪ってしまって白目をむいて倒れている。



「やっちまった……どうすっかな」



脳震盪はそんなに深くやってはいないので、彼女が起き上がるのを待つことにした。


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