死神
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「ところで、ゆうこはどうやってここまで来たんだ?」
「どうって……?」
気が付いたらここにいたのだ。
質問の意図が分からない。
「あそこにいるような、現世風の奴と一緒に来たんじゃないのか?」
ハナに視線を促され見てみれば、
死装束姿のひと――これは亡者だろう、と一緒に黒スーツ姿でサングラスをかけている男性が立っていた。
現世風の奴とはあのスーツ姿の男性を指しているのだろう。
「あのひとは…?」
「あれは死神だ」
「死神…?」
漫画や小説…ファンタジー色の強い娯楽によく登場する存在だ。
しかし黒衣にガイコツ姿の異形ではない。
普通にスーツを着ている、年齢は30代前後にみえる。社会人風の男性だった。
いや…ふつうと言っては語弊があるようだ。
彼の手にはおおよそスーツ姿にふさわしくない、
――身の丈よりもさらに大きな鎌の柄が握られていたのだ。
光にぎらぎらと反射して妖しく光るその得物は、
彼が『ふつうの男性』であることを真っ向から否定していた。
心なしか隣にいる亡者も怯えているようだった。
「現世で死んだ者は、死神に連れられて霊界へ来るのが普通だ。
その後私のような閻魔庁の者に引き継ぎをし、死者は閻魔庁へ行く。
…おまえを現世からここまで案内してきた死神がいれば、詳しい死因とかが聞けると思ったのだが…」
ハナの言葉を聞きながら、
先ほどの亡者を担当していた死神と、黒い官服姿の男性が話しているのを視界の隅で確認した。
彼らは無事合流できて、死者の引き継ぎを行っているようだ。
それにしても…とゆうこは疑問に感じた。
「あの死神のひとは…ハナさん達とは随分恰好が違うね」
先ほど彼女は自分のことをハナと呼べばいいと言ってくれたが、
4つも年が離れている人を呼び捨にするのには抵抗があった。
ハナは呼ばれた名前については特に気にした風をみせず、
ゆうこの質問に答えた。
「死神は冥王の部下で、霊界の者ではないんだ」
ハナは歩き始めた。ゆうこもそれについていく。
「彼らの主な仕事は、現世の魂を回収することと、回収して霊界へ連れてくることだ。
後はまぁ…荒っぽいこともする。抵抗されたり、死者の霊が悪霊になる場合もあるからな。
そういった際に備えて、得物を所持しているんだろう」
「どうしてスーツなの?」
死神の制服だろうか?
「奴らは現世に行くのが仕事の一環だから現世の流行に敏感なんだ。
魂の回収の際に死者に馴染みのある衣装を着ている方が、死者には抵抗が少ないらしい」
ハナの言った答えに、ゆうこは疑問に思った。
果たしてそうだろうか…
スーツにサングラスをかけた人物に「おまえを回収しにきた」と言われれば…
――胡散臭いを通り越して恐怖すら覚える。
そんなことを考えているゆうこを知ってか知らずか。
「まぁ、趣味で好んで着ている奴が多いのも事実だな」
とハナはこともなげに断言した。
(…死神はファッションを重視するオシャレな人達なんだ…)
ゆうこはそんな人物とあの場で倒れる以前、会ったのだろうか。
思い当たる人物を頭の中で探そうとしたのだが……
「やっぱり自分がどうやってここまで来たのかわかんない」
そんな人物は見いだせなかった。
「先ほども言ったろう?ゆうこはまだ死のショックが大きすぎて思い出せないだけだ。
…確かに死神に回収される前に迷わず霊界に来る魂もなくはないが、稀だな」
「じゃあ私をここに連れてきた死神はどこに行っちゃったの?」
ハナはほんとにな、と苦笑していた。
「死神は…霊界や天上界の人間を毛嫌いしているんだ」
「なぜ?」
「冥界は、現世――人間界よりもさらに地下にある」
「そうなんだ」
「光が差さないその世界は、常夜国とも呼ばれているのだが、
生前の罪が重い死者が住まう国だ」
「うん」
「先ほどの発言には語弊があったな。
…冥界以外の幽世の民は、そんな冥界を自分たちより下に見ている節があるんだ。嫌悪といってもいい。
死神だけでなくお互いがお互いを嫌いあっている状態だ」
最も天上界の民…貴族たちは、天帝を筆頭に自分たちを至高の存在だと思っている。
冥界の民や死神だけではなく霊界人のことも自分たちより格下であると考えていることだろう。
ハナはそんな選民思想にまみれた貴族は嫌いだったし、
何より冥界や死神に対しても何ら悪感情はないのだが。
「おまえを連れてきた死神は、よほど我々らのことが嫌いな奴で、
引き継ぎとして会うのも嫌だったらしい。…まぁこういうこともよくあることだ」
歩き続けるうちに革靴が埃で白っぽくなっていた。
黒々とした水の上に、ぽつんと浮かんだ渡し舟が見えた。
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