第9話 守ってあげたい
あ、1000字超えちゃった!
「木野さん。・・・星を見てた」
幸一は少し躊躇しながら言った。
「フーン。夜にこんな街灯の切れた公園に一人でいると、不審者だと思われるよ」
木野すずめは少し笑いながらそう言って、近くにあったジャングルジムに手を掛けた。
古いジャングルジムなので、ペンキが剥がれかかっており、手を掛けるとポロポロと、落ちる。
すずめは中学の紺色のセーラー服、スカーフは黄色。のまま、低いパイプに足を掛け、ゆっくりとジャングルジムを登り始めた。
「家に帰ってないの?」
幸一は、そんなすずめを見ながら、制服のままなのが気になり、聞いた。
「はてさて、すずめのお宿はどちらでしょ?」
幸一の方は見ず、ジャングルジムの天辺を見ながらそう言うと、クスクスと、すずめは少し笑った。
「いい夜空だね。満天の星空だ。君が星を見ながら物思いに耽っているとは思わなかったよ。幸一君」
そう言うとすずめは制服のスカートを靡かせながら、体を回して、幸一の方を向いた。
幸一は少しドキッとした。美しさとかではなく、微笑んでいるその顔に、怖さを感じたからだった。
「木野さん?」
思わず幸一はそう声を出す。
「幸一君は、佐藤可那さんの事を、想っていたんだね」
幸一はすずめの話し方に中性的なものを感じて、木野すずめの自分の中の記憶を思い出す。
新聞部に所属していて、放課後は直ぐ部室に行っていない。クラスではいつも休み時間一人で本を読んでいて、目立たない子。つまり、幸一は一度も話した事がない事に気付いた。
『ああ、こういう喋り方だったのか』
「幸一君。何か私の事を、考えてる?」
幸一の考えを察したのか、すずめは首を傾けてそう言った。
幸一は黙っていた。
「幸一君は、可那さんの最後の目撃者だもんね」
そう言うと、すずめはまた、ジャングルジムの方に向きを変え、登り始めた。
「ところで幸一君。私の事知ってる?私の記憶ある?」
「えっ」
「今さっき、考えていた事言ってみて」
幸一は焦った。全てはお見通しなのか。
「同じクラスで、いつも本を読んでて、新聞部員だろ」
慌てて幸一は言った。
「ホントにそうかな?例えばそれは作られた記憶で、私が佐藤可那さんと入れ違いにこの世界に来たとしたら?幸一君が此処にいることも知っていて、それで今、私が此処にいるとしたら。なにか、辻褄が合わない?」
幸一は驚いて動けなかった。
『何を言ってるんだこいつは?そんな事があるのか?』
幸一が驚いて動けない間にも、すずめはどんどんジャングルジムを上がって行き、直ぐに天辺に着いた。
「あんなに低い、下の方にポツンとある星でも、此処からではやはり、届かないね」
フォーマルハウトの方向に手を伸ばしながら、すずめは言った。
「何を言ってるんだ木野さん。悪い冗談はよせよ」
幸一は、それだけ言うのが精一杯だった。
「どうだろう?幸一君、一緒に可那さん探してあげるよ。その代り、可那さんの代わりに私に幸一君を守らせて」
ジャングルジムの天辺から、幸一を見下ろす様に、すずめは言った。
つづく
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