第8話 そのあと
佐藤可那が消えてから、一週間が経とうとしていた。
地元警察では、佐藤可那失踪事件特別捜査本部が設置されたが、現場に於ける警察の捜索は打ち切られた。
何一つ手掛かりもなく、落ちたという川でさえも、本来一点に絞られる所を下流まで範囲を広げ捜索したのだが、何も発見されなかったのだ。そして他に探す当てもなかった。
そもそも白昼堂々と、連れの男の子の目の前で消失した事件だ。
可那の通う中学校では、自転車ごと川に流されて、今頃はもう死んでるだろうと言う話が大半を占めて、稀に神隠しだと言う者がいる程度だった。
そして唯一、直前まで可那と一緒にいた古川幸一はいつもの生活に戻っていた。
三日程警察に呼ばれ、聴取は受けたが、現実問題として幸一が関係する事件とは警察も考え難かった。
そもそもあの日、自転車で行こうと言ったのは可那だし、二人が自転車で走っているのを見たという目撃証言も多数寄せられた。中には、幸一同様、可那の自転車がガードレールの切れ間から、川へと飛んで行くのを後ろから見たと言う運転手の証言もあった。
中学二年の幸一が計画的に可那を殺害、遺棄したとは到底誰も思わなかったし、そんな事実もなかった。
そういった訳で、逆に幸一を可哀想だと思う生徒も学校の中にはいて、幸一は他の生徒達と比較的、今まで通り交流する事が出来た。
夜九時頃。
幸一は近所の小さな公園にいた。
此処は街灯の電球が切れているのか、明かりがなく、周りに高い建物もないので、夜に星空を見るのには近場では絶好の場所だった。
南の方向。秋の星座で唯一のみなみうお座の一等星。その星は、下のほうに一人ポツンと輝いている。
フォーマルハウト。
幸一は、あの日から可那と重ね合わせてこの星を見る為に、ほぼ毎日此処に来ていた。
「カナブン・・・」
つい声を漏らす。
「何してるの?」
突然後ろから声がして、幸一は振り向いた。
同じ学年で新聞部の、木野すずめがそこに立っていた。
つづく
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