第5話 こちらのはじまり その②
「どうやら、もう随分この世界の空気を吸っちまったんだな」
やれやれという顔で、おんじは言った。
「頭の中に霧が張っていないか?ん?」
おんじは辺りをキョロキョロ見ている可那に聞いた。
「ん?そういえば少し」
可那はおんじの方を振り向いて言った。
「やはりか・・・」
おんじは少し、何か考え事をしてから、再び口を開いた。
「自己紹介がまだだったな。わしは、オウンジ。トマツ・オウンジだ」
「おー、トマツ?日本人の名前みたい!」
「ニホンジン?何の事だ?」
「何でもない」
説明するのが面倒なので、可那はそう言った。
「オウンジと、呼んでくれ。ほれ」
そう言うとオウンジは、右手を可那の前に差し出した。
「よろしくな」
可那も右手を差し出して、二人は握手した。
「へへ、よろしく」
握手の習慣は同じだったらしい。
そして、おんじは、オウンジだった。
「さてさて、それでは君に色々説明しなくてはならないのだが、君はなんて呼べばいい?」
オウンジが話している間、好奇心に駆られてか、また可那は辺りをキョロキョロ眺め始めた。
「おい。聞いてるのか?」
「ねー、あの空を飛んでる黄色い丸いの何?羽が生えてるけど?鳥?」
可那は空を見上げ、群れになって飛ぶ黄色い塊を指差した。
「あー、アレか。ナシ鳥だ。ナシに良く似てるだろ」
「梨!梨があるの!」
嬉しそうな顔で可那はオウンジの方を見て言った。
「ああ、あるさ。食べるナシだろ?」
「そう。可那、梨だーいすき!」
可那が喜んでそう言うのを見て、オウンジは困った様な顔をした。
「困ったな。なかなか説明が進まない・・・」
つづく
いつも読んで下さる方、有難うございます。