第3話 現実にようこそ
あ、1000字ちょっと超えちゃった。
その頃、佐藤可那が自転車ごと消えた国号288号線、舞木付近のカーブでは、ガードレールの切れた地点から、下の川に向けて、警察の捜索が続いていた。
1980年代。まだ、今の様な携帯、スマホは存在していなかった。
朝九時頃大越町を出発して、事件が此処で起こったのは午前十時頃。
幸一は恐る恐る川を覗き、可那と自転車が見えない事に慌てて、近くの公衆電話まで自転車を走らせた。
十時半頃には警察に連絡し、警察が現地に着いたのはお昼少し前だった。
警察の人数は最初二人。
その後、事態を重く見て増員を呼び、午後四時現在、警察の数は十人以上。
付近を捜索する者、胸まである防水ゴム製の胴付き長靴で、川を捜索する者、付近一帯、様々な場所が捜索された。
しかし、依然として、佐藤可那はおろか、自転車の部品すら、発見されなかった。
ガードレールに手を掛け、幸一は震えながら、下の川を見ていた。
「君、もう一度話いいかい」
後ろから声を掛けられ、振り向くと警官が立っていた。
「はい」
返事をして、パトカーの方に警官と向かう。
既に四回目の事だった。
何か抜け落ちてる事はないか。その度に幸一は警察にも聞かれ、自分でも考えた。
しかし何もなかった。
トラックが寄って来たので、避ける様に大きく左にハンドルを切った。そして、ガードレールが丁度切れている所から、佐藤可那は、自転車ごと川に落ちた。
ブレーキを掛け、止まって後ろから見えた事はそれだけだった。
暫くして、連絡の付いた可那の両親と、幸一の両親も、現地に到着した。
可那の母親は、震えながら、自力では立っていられないのか、夫に捕まって、川を覗いていた。
幸一の母親は、幸一を抱きしめながら、川を眺める可那の両親の方を心配そうに眺めていた。
幸一の父親は、可那の両親の側に行き、父親同士で何か話し始めた。
幸一から見ても、自分の父親が、何度も頭を下げて、謝っているのが分かった。
そして幸一は気付いた。
『僕が悪いんだ。そうだ、僕が一緒に行かなければ。カナブンは一人では行かなかったかも知れない。そしたらこんな事に・・・カナブン、何処にいるんだよお』
幸一は涙が出て来た。
涙を腕の服で拭った。
午後八時、灯光器を使った捜索も今日は打ち切られ、明日の朝、再度捜索される事が決まり、一同はお開きとなった。
幸一は自転車を両親の車のトランクに積み、一緒に帰る事になった。
後部座席のドアを開ける時、フッと、南の空の下に光が見えた。
星だった。
一人ポツンと、みんなに離れて寂しそうにしてる星。
秋の一つ星、フォーマルハウト。
幸一は、可那と重ねて、また涙が出て来た。
つづく
読んで頂いて、有難うございます。
なんか、ファンタジーじゃないですよね。やっぱり。