第29話 きっと急展開
「おお~」
二台のヘリコプターと化したマンドラゴラによって、空へと登って行くアルル。
可那は思わず驚嘆の声をあげた。
どんどん上って行くアルルは可那の背を越え、更に1メートル、2メートルと登って行き、いつしか可那を見下ろしていた。
「次の町で待ってるからね。必ず来てね」
そんなアルルの言葉に可那は、上を見上げながら、恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「アルル・・・丸見えだよ。ホント、パンツ買ってね」
しかしそう呟く可那の言葉は、飛んで遠く去って行くアルルの耳には、届かなかった。
そうして可那は暫くの間、遠ざかって小さくなる水色のワンピースを眺めていた。
「カナブン・・・」
「こうなったのは、ヘッドルームの意思ですよ。お姉さん」
少し寂しそうに可那の名を呟いたアルルに、フタバンが頭の草を勢い良く回転させたまま、優しく言った。
「そうね」
遠ざかる可那と自転車から、目線を上げ、真正面に見える青い空を眺めながら、アルルは答えた。
取り残された可奈那は辺りをキョロキョロ眺め、相変わらずの不安そうな顔で、佇んでいた。
「どうすりゃいいのさ。こんな所で放り出されて。私まだ中学生だぞ!昨日からずっと同じパンツで同じ服着てるんだぞ!そんな子置いてって、どうすんのさ!アルルの馬鹿ぁ~!」
そう叫ぶと可那は、左横に一直線に走り出した。
「うあ~~」
叫びながら何処までも真っ平らな草原の上を全速力で走る。
可那は不安に押し潰されそうで、無駄な事、意味の無い事に力を注ぎたかった。全てを忘れる為に、自暴自棄の様に。
100メートル程全力で走った所で、可那は立ち止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息が切れたのだ。
肩が大きく上下に揺れる。
そして見渡した景色は、先程までいた場所と何も変わらない景色だった。
「くそっ!」
そう叫ぶと思わず可那は、抱えていたデロロを思い切り前に放り投げた。
PON!
「あれ?」
投げたデロロが何かにぶつかって跳ね返って来た。
「あれれれれ」
可那は跳ね返って落ちているデロロの側に行くと、拾い上げ、更に前に歩いた。
目の前には何もない。ただの見慣れた景色があるだけだった。
しかし、
可那はデロロが何かに当たった辺りの空中に手を伸ばす。
何かに触れた。
「あーー!」
可那は大声をあげた。
「壁だ!これ壁だ!」
そう、そこには壁があった。
何処までも続いて見える草原は、写真の様なカモフラージュで、実際は壁で止まっていた。
「何これ?どういう事?」
訳が解らなくなった可那は壁を、コンコンッと、叩いてみる。
あまり厚くはない様で、音が軽い。
「なんだこれ。ベニヤ?張りぼて?」
怪訝そうな顔で可那がそう言った時だった。
バギッ!
可那の直ぐ脇の壁に、大きな穴が開いた。
15ミリ程の厚みの木の板の破片が可那側の方に飛び散っていた。
「ふ~」
そしてその穴から、大きなかけやを手に持った少女が現れた。
「あ、あ、」
突然の事に声にならない声を出して驚く可那。
その少女は白のタンクトップに、紺のパーカーを羽織り、カーキ色の短パンを履いていた。長い髪を後ろで一つに束ねてある。
「君が、壁を叩いたの?」
少女は可那の方を向いて、にっこり笑ってそう言った。
「あ、あ、そ、そうです」
驚きがおさまらない可那は、なんとかそう答えた。
「ふーん。私は木野つばめ。君は?」
つばめはそう言うと、かけやを持っていない方の手を、可那の方に差し出した。
つづく
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