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第28話 早々の別れ

 勝敗は一瞬にしてついた。

 可那は負けて、一時的にアルルを失う事になった。

 「たかがジャンケンなんだから、こんなの無効だよね」

 可那は少し強がって、周りを見回しながら言った。

 「駄目よ。公式ルールの対決なんだから」

 アルルは可那の方を見ながら、静かに言った。

 その言葉で強がった顔から心配そうな顔に表情を変えた可那は、アルルの顔をまじまじと眺めた。

 アルルはそんな可那の顔を、表情一つ変えず、無表情でじっと見ていた。

 「そんな・・・」

 「馬鹿っ」

 可那の言葉にアルルはもう一度、そう言った。


 マンドラゴラのキッキョーとフタバンは満足そうな顔で、そんな二人を見ていた。

 「さすがお姉さん。わかってる」

 「そーそー、約束は約束だもんね。これでセクハラ少女からお姉さんを解放出来る!僕達はお姉さんを助け出せた!」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!でも私一人じゃどーすれば良いかも分からないよ」

 マンドラゴラ達の言葉に、慌てて可那がそっちを向いて言った。

 「大丈夫。この道を真っ直ぐ行けば町に着きます。十日もあれば着くでしょう」

 「十日!そんなに一人で歩くの?道に迷うかも知れないし。夜はどーするの?パンツの着替えは?シャワーやお風呂はないの?十日も経ったら、私、汚い子になっちゃうよ!」

 「そこかよ」

 可那の話にフタバンが冷静な顔で言った。

 「道に迷う事はないわ。一人になって色々歩いてみれば分る。夜は野宿になるけど。そうね、これを」

 そう言うとアルルは持って来た皮製のリュックから、超肥満猫、クズレとデロロを出した。

 「夜寒いから。どっちがいい?」

 可那はクズレとデロロを交互に見比べた。

 「若い方がいい」 

 「じゃあ、デロロね」

 アルルはデロロを可那に渡して、クズレをリュックに戻した。

 可那はデロロを両腕で抱き抱えながら、まだ心配そうな顔でアルルを見ていた。

 「お風呂は我慢しなさい。汚くなってもカナブンはカナブンだから。それから食べ物は、食べられそうな物を取って食べなさい。多分大丈夫」

 「なんだよそれー!」

 アルルの食べ物についての話があまりにもいい加減に聞こえて、可那は思わず声をあげた。

 「あのね、カナブン。この世界にいる限り、多分私もあなたも、死ぬ事はないわ。この世界の創造主は全てを見ている。全てを知っている。あなたが私にセクハラをして、マンドラゴラ達が私を助けようとして、あなたがジャンケンに負けたのも、全て創造主の予定通りなのよ。ここであなたと私を引き離すのは、きっと意味がある。そして次の町で必ずまた会える」

 「アルル、ヤバい宗教やってる?」

 可那はつい冷静な声で言った。

 「信じてくれなくてもいいわ。でも私は、この世界ヘッドルームで生まれたの。この世界の創造主を感じるわ」

 腕を広げ、悦に入った表情で、アルルは言った。

 「相当ヤバいよ」

 もはや可那はアルルの言葉を信じようとは思わなかった。

 

 「そろそろいいですか」

 「お姉さん、そろそろ行くよ」

 マンドラゴラのキッキョーとフタバンが言った。

 「そうね。じゃあ私は先に町に行ってるけど、最後に何か頼みたい事ある?」

 アルルは優しく可那に尋ねた。

 「とりあえず町に着いたら、ブラとパンティ買って。それでちゃんとつけて」

 「ブラとパンティ?」

 「ああ、分らないか。んじゃ、パンツ。薄い水色のパンツを買って履いて」

 「何故に色指定?」

 「水色のワンピースに映えると思うから」

 何故か可那は頬を赤く染めて、厭らしそうにニヤニヤ笑いながら言った。

 「いいわ、分ったわ」

 アルルは快諾した。

 「それから」

 「まだあるの?」

 「ナシ鳥の丸焼き買っといて」

 「ナシ鳥?」

 「そう。オウンジに最初に教わったんだ。美味しそうだった。町まで着いたら、ご褒美に食べたい!」

 目をキラキラさせながらそう語る可那に、アルルは溜息をついた。

 「いいわ」

 

 「話はつきましたね」

 キッキョーが言った。

 「それではお姉さん。僕らの体を掴んで下さい」

 フタバンの言葉にアルルは屈んで、キッキョーとフタバンを掴んだ。

 「そうしたら腕を高く、私達を掲げて」

 「こお?」

 キッキョーに言われたようにアルルはマンドラゴラ達を掴んだ腕を、空高く掲げた。

 可那は黙って見ていた。

 「はい。それで結構です」

 「それでは行きますよ」

 マンドラゴラ達がそう言うと二人の頭部の草の部分がクルクルと回り出した。

    ビュンビュン  ビュンビュン

 風を切る音がする。

 それはまるでヘリコプターの羽根の様に回り、徐々にアルルの足は地面から離れ始めた。




        つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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