第23話 自転車で行こう その③
「ほれ」
可那がそう言って差し出した手に摑まり、アルルは腰を上げ立ち上がった。
「痛かった。ここ怪我した」
擦り剝いた膝を指差しながらアルルは言った。
しかし、そんなアルルにはお構いなく、既に可那は倒れた自転車の側に行き、起こし始めていた。
「もお」
それを見てアルルは少し拗ねた。
自転車を起こした可那は、自転車を押しながらアルルの側に来た。
「それぐらい大丈夫大丈夫。はい!」
そう言って可那はアルルの方に自転車を寄せた。
「なに?」
「もう1回」
ニヤニヤしながら可那が言った。
「えー、怪我したんだよ。痛かったんだよ。嫌だよ」
「アルルは馬鹿だな~。最初から何でも出来る人はいないよ。みんな努力して上手くなっていくんだよ。人生も同じだよ。自転車で転んで止めた奴は、人生でも躓いたらそこで人生辞めちゃう人間になっちゃうよ。アルルはそれで良いの?」
「う・・・」
可那の巧みな話術に、アルルは少し考えた。
「わかった・・・やるよ」
若干渋々ながら、アルルは自転車に再び乗る事を決意した。
「よしよし」
可那は満足そうに微笑んだ。
自転車のスタンドを立てて、再びアルルはサドルに跨った。
そして今度は後ろの荷台に可那が座り始めた。
「なに?」
後ろの可那の方を振り返り、アルルが尋ねた。
「いいからいいから。いくよ!」
言うと同時に可那はスタンドを足で蹴り倒した。
不安定になる自転車。
急いでアルルはペダルを漕いだ。
思いの他スムーズに進む自転車。
「お、上手い上手い」
後ろから聞こえて来る可那の声に、アルルは満更でもない気持ちになり、ほくそ笑んだ。
「そう」
「うん、これなら大丈夫!普通に乗れてるよ。・・・それからアルル。ホントにノーブラなんだね。しかも意外とおっきいい」
「えっ?」
少し顔を赤らめて恥ずかしそうに言う可那の言葉に、アルルは一瞬なんの話しか分らないでいた。
「あ~!ちょっと!なに胸に摑まってるの!」
「だって、何処かに摑まらないと危ないじゃん」
「じゃあ、腰にしてよ!手を下げて、腰に手を回して。あっ!こら!揉むな!」
可那はアルルの両胸を、鷲掴みにして揉み始めていた。
「お、そして意外と柔らかい。読者の皆様、これはなかなか良品ですぞ」
「あ、また何処に、あっ・・・向かって話してる、あっ・・の」
そんなこんなで、二人を乗せた自転車は、順調に走り始めた。
暫くすると飽きたのか、可那は普通にアルルの腰に手を回した。
「ところでさ。これって、カナブンは漕いだりしないの?」
「しないよ~」
「なんかね。私だけ漕ぐのって、変な気がするんだけど。カナブン、ズルしてない?」
「ああ~!アルルひどい!私折角アルルが自転車乗れるように練習させてるのに!後ろだってね、自転車が横倒しにならないようにバランスとるの大変なんだよ~それなのにアルルは~!」
今にも泣き出しそうな声で可那はそう叫ぶと、アルルの腰をギュッと締めた。
「ヒィー!痛い!分った!分ったから!やめて!お願い~!」
「そお?分ってくれればいいんだけど」
そう言うと可那は腰を締めるのを止め、小さく舌を出して微笑んだ。
つづく
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そろそろ、可那サイトも新キャラ?登場、動き始めます~