第22話 自転車で行こう その②
「とりあえずそのまま、ペダルを漕いでみて」
「これ?」
可那の言葉にアルルはそう言うと、足をペダルに乗せ、静かにゆっくり、漕いだ。
スタンドで立てられ、浮いている後輪がゆっくり回り始める。
「そうそう、その感じ」
横でしゃがんで見ながら、可那が言った。
「それで、これをすると何かなるの?」
漕ぎながら、アルルは横の可那の方を向いて尋ねた。
それを聞いて可那は満面の笑みを浮かべると、立ち上がり、自転車の後ろにまわった。
「こうなるの!」
そう言うと可那はいきなり自転車を後ろから勢い良く押した。
スタンドが倒れ、自転車は勢い良く前に進む。
「あっ! ああ、あ・・・」
最初は勢い良く進んだ自転車は直ぐに勢いを失くし、ふらつき始め、アルルは思わず声を出した。
「ペダル!ペダルを漕いで!」
慌てて可那が声をかける。
「えっ、えっ?」
可那の言葉にアルルは慌ててペダルを漕ぎ始める。
ふらついていた自転車は持ち直し、真っ直ぐに走り始めた。
「へ~」
自転車が安定してくると、アルルは今まで体験した事のない、流れる景色や、顔や体に当たり、そして髪をなびかせる風の心地良さを感じた。
「気持ちいいかも」
思わず小声でそう呟いた。
どんどん遠ざかって行くアルルの背中を、可那は満足そうに眺めていた。
そしてポツリと呟いた。
「でもアルル、止まり方知らないんだよね」
それから三分後、70メートル程行った所で、アルルは人生初、自転車で転んだ。
「それでいいんだよ。自転車は転んで覚えるんだから」
そう言うと、可那は笑いながらアルルの元へ駆けて行った。
「アルル~!」
「痛った~い」
アルルは芝生の上にしゃがみ込んでいた。
ワンピースから出ている細い足は、膝に擦り傷ができ、赤く滲んでいた。
「はぁはぁ。大丈夫~」
息を切らせながら、可那がアルルの元へやって来た。
「カナブン。これ、どうやって止まるの?私怖かったよ」
可那の姿を見て安心したのか、アルルは少し泣きそうな声になって言った。
「ごめん!止まり方教えてなかった。それで、アルルの白くて柔らかくて、丸いお尻は大丈夫だった? 怪我したり凸凹になったりしなかった?」
可那の言葉にアルルは顔を真っ赤にして、そして本当に泣き出した。
「カナブンなんて嫌い~! エロガキ~」
「え、知らなかったの?中学生って男女とも、人生で一番エロい事言いたい時期なんだよ!」
可那は満面の笑顔のまま、爽やかにそう言った。
しゃがみ込んで泣いているアルルを、立って眺めている可那の影が、覆っていた。
つづく
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