第18話 すずめの話 その②
隣の部屋の引き戸を引く音に、二人は一瞬身をすくめた。
それから静かにすずめは立ち上がり、幸一においでおいでと、手招きをした。
幸一も静かに立ち上がった。そして、すずめの側へと静かに歩いた。
側に来た幸一の耳元に、すずめは手をかざして、小さな声で言った。
「スパイかも」
「えっ」
幸一の口から小さく声が漏れる。
「シッ」
すずめは自分の口の前で人差し指を立てた。
それから上を指差し、
「上から覗けるから」
と、言った。
幸一は隣の部屋との境の壁を見上げた。
確かに壁は天井まで上がってはおらず、天井と壁の間には四十センチ程の隙間があった。
大きな部屋を後から二つに分けたのか、向こうの天井が見えた。
「その壁に手を掛けてしゃがんで。私が肩に乗って覗いて見るから」
「でも、スパイとは」
「シッ」
またも、口元に人差し指を立てて、すずめは幸一の話を遮った。
すずめの目が鋭く幸一を睨んでいる。
渋々、幸一は壁に手を掛けて、しゃがんだ。
上履きを脱ぎ、静かにすずめは幸一の肩に足を乗せる。
壁に手を付き、両足とも肩に乗るとすずめは小さな声で言った。
「いいよ。静かに立って」
幸一はすずめを肩に乗せて、ゆっくりと静かに、立ち上がった。
「それから今は昼間で、パンツ見えるから、上は見ないで」
「!」
幸一はすずめのその言葉に思わず逆に、一瞬上を見てしまった。
当然直ぐに下を向いたが、頭にははっきりと、白地に大きなピンクのウサギのイラストの描かれたパンツが残った。
一瞬、すずめは幸一の変化に気付き下を見たが、幸一は既に下を向いていたので、直ぐに視線を前に戻した。
途切れた壁の天辺に手を掛けて、すずめは隣の部屋を覗いた。
見えたのは、部屋の片隅で激しく抱き合う男女。
生徒会長と副会長だった。
二人の顔は重なり、キスをしていた。
すずめはそれを暫く、固唾を呑んで眺めていた。
二分ほどしてすずめは、踵で幸一の肩をトントンと叩いた。
それが合図の様に幸一はゆっくりと腰をおろす。
完全にしゃがむとすずめが肩から足をおろして、床の上に立った。
「どうだった?」
立ち上がった幸一が、小さな声ですずめに聞く。
「生徒会長と副会長がいた。まさかあの二人が関わっているなんて・・・」
すずめはキスの事には触れずにそう言った。
「何の話?関わるって?」
話が見えない焦りからか、幸一は直ぐに飛びついて聞いた。
「まだ、実態は見えないけど。もしかしたら学校全体がグルなのかも知れない。私達は、とんでもない事に関ろうとしているのかも知れない」
すずめの言葉に、事の大きさを感じた幸一は、生唾をゴクリと飲み込んだ。
つづく
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