第17話 すずめの話 その①
「今から五年前。私とお姉ちゃんは、家で留守番をしていたの」
話しながらすずめは、椅子に座り、テーブルに肘をついた。
「座って」
斜め前に立っている幸一に言う。
幸一は黙って椅子を引き、すずめの目を見たまま、座った。
「あのね、夕方、お姉ちゃんとテレビを見てたの。テレビの前に二人並んでしゃがんで。そして私がちょとトイレに行って戻って来たら、お姉ちゃんはいなかった」
「なにそれ?」
思わず幸一は言った。
「なにって、『大草原の小さな家』に決まってるでしょ」
「いや、番組じゃなくて。なにがあったの?なにが起こったの?」
「それが分らないの。私が手を洗ってトイレから戻ったら、とにかくお姉ちゃんは消えていて、今もって行方不明なの」
そこですずめは一呼吸置いた。
幸一は黙って、すずめがまた口を開くのを待っていた。
「ニュースにもなったし、警察も沢山来たけど、幸一君は知らないのね。なんでだろ?」
目を細め、幸一の顔を見ながらすずめは言った。
「ホント、なんでだろ」
そう言いながら、幾ら考えても幸一にはその事件はまるで記憶がなかった。
「佐藤可那さんは知ってた。何回か、その事で話をした」
「可那が・・・」
「なんでカナブンって呼ばないの?」
「えっ?」
「だって、夜の公園でそう呼んでた。可那さんのあだ名なんでしょ?恥ずかしい?」
ニヤニヤした顔ですずめが聞いて来た。
「聞いてたのか。幼馴染みだから、昔からのあだ名。人前では、そりゃ恥ずかしいだろ」
幸一は唇を少し尖らせて、恥ずかしそうに言った。
「かわいい」
そんな幸一を凄く嬉しそうな顔で見ながら、すずめは言った。
「なんだよ、かわいいって。それよりその話の続き。それとも終わり?」
幸一は恥ずかしさを隠す様に言った。
すずめは微笑むのを止めて、真面目な顔になり、話を続けた。
「ううん。それでね、お姉ちゃんは何処に行ったのか分らないまま行方不明。もう五年経つ。それは私が八歳、小学二年の頃の話。でもね、これで終わりじゃない。私はたまに、お姉ちゃんを見かけるの。風景に混じって、スケスケのお姉ちゃんがいたりするの。家の中でも、学校でも見た。いつも何かを探している様にキョロキョロしてる。それから突然、凄い近く、耳元で声が聞こえるの。お姉ちゃんの声が」
「それは、ポルターガイストって奴?」
少し怪訝そうな顔つきで幸一は聞いた。
「違う!もっとはっきりした出来事。お姉ちゃんは生きてる。幾つかの言葉は覚えてる。ヘッドルームって言ってた!」
そうすずめが叫んだ時だった。
ガラガラガラッ!
隣の部屋の引き戸を引く音がした。
つづく
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