第16話 もう少しで1日目、終了。
すずめの話かと思った方、残念でした。
カナブンの話です。
「ほー、知り合いにつばめと言う子がいるのか」
オウンジは可那に聞いた。
「知り合いって程じゃないよ。話した事ないし。妹のすずめちゃんとは少し話した事あるけど」
可那はオウンジの方を向いて言った。
オウンジはそんな可那の顔を見ながら、暫く何かを考えて、口を開いた。
「ところでカナブン。それは大事な事か?」
「えっ?」
オウンジの顔を見たまま、キョトンとした顔で可那は言った。
「その、つばめの話は重要な話か?」
「ん~」
可那は暫く腕を組んで、目を閉じて考えた。
「今は重要じゃないかな!」
可那の言葉にオウンジは顔を明るくした。
「そうか。じゃあその話は又にしよう。お腹が空いた。アルル、食事を持って来てくれ」
オウンジがそう言うと、アルルはソファーから立ち、台所の方の、大き目の電子レンジの様な所に行き、正面の扉を開けた。
「あ、電子レンジみたい」
「なんだ、そのレンジとは?あの箱はこの世界を作った神様が与えた箱だ。この家と一緒に初めからあった。レンジというのか?」
可那の言葉にオウンジが不思議そうに言った。
「なんでもない。オウンジには分らないよ。私には少し分ってきたけど」
ニヤニヤした顔で可那は言った。
「なんだその人を馬鹿にした言い方は。全く、霧のかかったままにしとくんだった」
オウンジは不機嫌にそう言った。
アルルは何も聞こえなかった様に微笑みながら、ハンバーガーの様な物が数個載ったトレイを持って、テーブルの方に戻って来た。
「開けると必ず食べ物が入ってるの。便利でしょ」
三人は食事をしながら、これからの話をした。
暫くしてオウンジが窓を見ると空はもう暗くなって来ていた。
「ここも、夜はあるんだ」
オウンジの目線を追い、窓を見上げた可那が言った。
「あるよ。夜は寒くなるんだ。クズレかデロロを抱いて寝るといい」
「クズレ?デロロ?」
「猫よ。これ」
そう言うとアルルは足元に転がっている白いボールの様な物を二つ、片手ずつに持ち、持ち上げて見せた。
「え、それ猫?サッカーボールかと思った」
可那がそう思うのも無理はなかった。
その猫は毛むくじゃらで、一見すると球にしか見えなかった。しかし良く見ると確かに毛に埋もれた様に小さな目・鼻・口が見てとれた。そして手足、尻尾も、小さいが確かにあった。
「これを抱いて寝ると、凄く温かいの。どっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
アルルの問いに可那は即答した
「カナブンって、記憶戻ったら態度悪いのね」
詰まらなそうにアルルはオウンジの方を向いて言った。
「わしもそう思う」
「煩いな~!私は記憶のあるうちに色々考えたいの!」
可那は叫んだ。
「おー、怖」
「しょうがない。アルル、カナブンを部屋に案内してあげろ。一人でゆっくり色々考えるといいさ。夜は長い」
そう言うオウンジの言葉で、可那はソファーから立ち上がり、アルルに案内されて、リビングから出て行った。デロロの方を抱いて。
可那の異世界に来て最初の一日がもうすぐ終ろうとしていた。
つづく
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