第15話 すずめのお宿
今回は、現実パートのお話です。
次の日の中学は何事もなく。
木野すずめはいつも通り、休み時間は一人、机に座り読書していた。
それを幸一は拍子抜けした顔で眺めていた。
昨日の夜の公園とは一変した日常。
授業中も静かにゆっくりと、時が流れている様だった。
その間も幸一は、左斜め前、窓側の席のすずめを見ていた。
変な様子は微塵もない。すずめは普通に授業を受けていた。
気にし過ぎていたのかも。っと、幸一が気を抜いたのは丁度お昼休みだった。
すずめから目を離し、廊下に出ようとした時、事は起きた。
「幸一君」
声がした。
振り返り、教室の方を見る。
その時間、その瞬間、教室にいたのは何故か、すずめだけだった。
しかしすずめは前を向いて、相変わらず本を読んでいる。
空耳かと思い、幸一は再び廊下に出ようとした。
「私から離れないで」
二度の声にビックリした幸一は再び振り向き、教室を見る。
今度はすずめが席に座りながら、笑って幸一を見ていた。
「離れると、守れなくなるから」
「なんだよ!」
すずめに驚いた幸一は思わず声をあげた。
そんな幸一を嘲笑うように、すずめは立ち上がり、幸一の方へと歩いて行く。
そして幸一の側まで来て、耳元に顔を近付けた。
「昨日の約束覚えてる。付いて来て」
そう言うとすずめは幸一とすれ違い、廊下へと出て行った。
慌てて幸一も、数歩遅れて付いて行く。
「ねー、何処いくの?」
後ろから幸一が聞く。
「何処へいこう」
すずめの答えに、幸一は聞くのを止めた。
階段を下りて暫く行くと、すずめは新聞部部室の前で止まって、幸一の方を振り返った。
「すずめのお宿へどうぞ」
そう言って、部室のドアを開けた。
昼休みの部室は誰もいない。
促されるままに幸一は中に入った。
六畳程の狭い部室の真ん中に、大きなテーブルと囲む様に椅子が置いてある。
そして壁には幾つかの棚が置かれ、その中にはファイルがぎっしり詰まっていた。
幸一が入ると、すずめはドアを閉めた。
「ここなら安全。何から話そうか」
そう言うすずめを、幸一は振り返り、見た。
「最初はお姉ちゃんの話かな。失踪した私のお姉ちゃん。木野つばめの事」
すずめは少し微笑みながら、そう言った。
つづく
いつも読んで頂いて、有難うございます。
ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります。