魔王様お外に出ましょう
今回はちょっと甘め、かな?
「魔王様、今日は城外にお出かけしましょう」
人間の国の姫が魔の国の王に言った。
「「え?」」
魔の国の王と魔の国の宰相は、その言葉を飲み込むのに少し時間がかかった。
魔王はいかにも眼鏡の好青年、といったような見た目だ。ちなみに宰相はどう見ても子供だ。
「いや姫、多分無理無理です」
「あら、どうしてですか?」
魔王の返答に心底意外そうな顔をする姫。
「今日も僕は仕事がありますし、終わったとしても城外に出る時間は確保できません」
魔王は目の前にある書類の山と格闘していた。
「そうですの?おかしいですわね……」
魔王の当たり前、と言えるような答えに姫は疑問を呈する。自分が何かおかしなことを言っただろうか、と考える魔王に姫が予想外の答えを放つ。
「今日の魔王様のご予定はお休みのはずでしたのに」
「え?」
魔王は自分が間抜け面を晒していることを理解していた。したし、それを止めることもできないほどの衝撃を受けていた。
「魔王業に休みなんて無いですよ?ねぇ、宰相?」
「いえ、有りますよ。魔王様は自分で予定見てなかっただけなので、簡単に仕事押し付けられたから楽でした」
魔王は宰相の放った一言に衝撃を受けた。宰相の言ったことが本当なら、今日は本当なら仕事がない日、ということになる。
「え?じゃあこの書類の山は?」
「もちろんボクや他の大臣達の書類です」
魔王は目の前の書類の山を見て唖然とした。自分が部下から仕事を奪っていたとは。
「じゃあ今日は魔王様をお借りしても」
「全く問題ありません。というわけで魔王様、さっさと行ってきてください」
「え?口悪……、だから姫引っ張らないでください!転、転ぶからっ」
姫は魔王の腕を掴んで部屋を出ようとする。それに魔王は逆らえない。それを見て宰相は口の中で“リア爆”と短く効果のない呪いの言葉を呟いた。
「行ってらっしゃ〜い」
その呪いとは裏腹の言葉を口にしながら。
▽
「さすが城外、色々なお店がありますね」
「ええ、ところで姫……」
今、魔王と姫は城下に下りて商店の並ぶ通りにいた。
「なんですか?」
「その、腕にくっつくのは遠慮して頂きたく……」
「なんでですか?」
魔王の腕に胸が当たるからからだ、とはこの初心な魔王には言えない。この姫は羞恥やらデリカシーやらを、人間の国に置き忘れたに違いない、と魔王は思っている。
「その……、傍目から見たら、なんだか、こ、恋人……、みたいじゃないですか」
魔王は繋ぎ繋ぎの言葉を、やっとの事で言った。しかし姫がその思いや言葉を理解するとは限らないのだが、と魔王が考えていると本日一番の衝撃を魔王が受けることになった。
「いいんじゃないですか?」
姫のその一言に魔王は何も考えられなくなった。
姫は人間の国では女神と例えられる程に美しい。その姫が魔王に放った一言は魔王のメンタルやら思考やらを打ち砕く程の破壊力を持っており……。
「魔王様?顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」
「え?あ、えええええええええぇぇぇぇぇえぇぇえええ‼︎‼︎⁉︎⁇⁇⁇⁇」
ざんねん、魔王は壊れてしまった。
このようになってしまう。しかし城下の者たちは騒がない。この二人のこの類のやり取りは最早恒例であり、それは城下にも伝わっているからだ。しかしそれと野次馬が集まるのとでは別なのだが。
「え?姫、自分の言ったことを、理解して、言ってます?」
魔王はなんとか立ち直り(まだダメージは深いが)姫に訂正を求めるようにその一言を放った。しかし、すぐに後悔することになる。
「ええ、いいじゃないですか。それとも私と恋人は嫌でしたか?」
そう言って少し俯く姫。そんなものを見せられたら初心で紳士な魔王は、
「い、いえ‼︎寧ろ光栄でふゅ‼︎」
とテンパってしまう。それを見て野次馬達は失笑を禁じえない。この魔の国には不敬罪などというものは存在しない。現魔王が廃止したからだ。
「そうですか。では行きましょう。あのお店とかどうでしょう」
魔王は腕を引っ張られ大人しくされるがままにする。なんか上手く丸め込まれたような気がする、が魔王はそれに気づかない。そのまま魔王と姫は商店街に溶け込んでいった。
▽魔王が盛大にテンパってる頃
「どこだ魔王‼︎姿を現しこの勇者と勝負しろ‼︎」
魔王城では、一際煌びやかな剣を携えた男が廊下を駆けていた。そして書類の山を抱えた少年と出会う。
「あ、君魔王がどこにいるか知らないか?」
「魔王様なら今、姫様と一緒に城外に出てていないです」
「そうか。手間を取らせてすまなかった」
そう言って勇者はまた走り出した。その後ろ姿を見て宰相は思った。
(人畜無害って魔王様だけかと思ってたけど、ああいうのもそう言うんだろうな)
魔「姫?幾ら何でもそろそろ離れていただきたいのですが……」
姫「そんなに嫌ですか?(しゅん)」
魔「いえ‼︎嫌じゃないです。寧ろ光栄でふゅ」
姫「まぁ、よかった(ニコッ)」
姫が天然なのか計算でやってるのかは微妙なところです。
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