撃墜王ムナカタ・カオル
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カオル「なん…だ?」
エレノア「…これは」
ミカ「綺麗…」
ショーン「すげえよ…、マジすげえ」
観測ドームに辿り着いた4人。
半球状の狭い空間で、肩を寄せ合いながら、初めて見る景色に驚愕する。
カオル「綺麗…だ…」
ミカ「写真で見たのと違う。…地平線が丸くない」
ショーン「ヤバい…、涙が出そう」
エレノア「今、夜明けだったのね。私達にとっては就寝時間だけど」
キンゼイ艦長「ははは、太陽嵐を避ける様に、地球の夜間地域を周回してたからね」
それにしても…と、
息を飲みながら、地球の大きさ、陽が昇る直前の朝焼け、地上の豊かな緑に見とれるカオル達。
暗黒の宇宙空間で生まれ、育ち、極めて狭い生活空間が生存空間だったカオル達にとって、
いきなり目の前が開け、【人類が誕生した世界】を目の当たりにしたのだから、
目が釘付けになったとしても、やむを得ない話ではある。
何故カオル達が観測ドームに来たのかを、忘れそうになっていたその時、
キンゼイ艦長が耳につけていたインカムに、いよいよ無線通信が入って来た。
キンゼイ艦長は、その交信相手とのやりとりをカオル達に聞かせたいのか、
耳から外し、スピーカーに切り替える。
『…リスキー・ビスキー…、聞こえますか…リスキー・ビスキー。
…こちらAPE訓練部隊、ユニフォーム6小隊、朝霧大尉です』
キンゼイ艦長「こちら教育実習艦リスキー・ビスキー、艦長のキンゼイだ。
朝霧大尉、協力を感謝する」
スピーカーから聞こえて来た声。
(パイロットは女性だ!)
若々しい張りのある女性の声に、カオル達は軽い衝撃を受ける。
朝霧大尉『こちらこそ光栄であります、キンゼイ艦長。未来の撃墜王に我らが勇姿を見せる事が出来て』
エレノア「あら、有名人になっちゃったね」
ミカ「艦長、話したんだ(笑)」
ショーン「カオル、うらやましいやつ(笑)」
カオル「?」
撃墜王と言うキーワードに全くピンと来ないカオル、
キンゼイ艦長もニヤニヤしながら、カオルの肩を軽く叩く。
そしていよいよ、カオル達の目の前に、APEがその姿を見せる瞬間が迫って来た。
朝焼けに向かい飛行を続ける実習艦リスキー・ビスキーのはるか後方、高空に、小さな火球が三つ現れる。
朝霧大尉が指揮する、ユニフォーム6小隊がいよいよ、大気圏突入を終えて、自由落下状態に入ったのだ。
朝霧大尉『…背部ブレーキスラスター噴射2秒3回!ヘマして編隊を崩したらメシ抜きだぞ!!』
多少、雑音の混じる無線からは、朝霧大尉が僚機の部下を叱咤激励しながら、
的確な操作を命じ、姿勢制御を促す様が聞こえて来る。
朝霧大尉『よし、進入角を修正!リスキー・ビスキーの右舷を目標に、隊列を維持したまま降下!』
ミカ「来たっ!!!」
ショーン「わあお!」
小さな三つの点が、どんどんとリスキー・ビスキーに近づき、大きくなって来る。
朝霧大尉『3番機、もっと私に接近しろ!未来の撃墜王が見てるんだ、隊に恥をかかせるな!』
カオル「…かっこいい…何もかも」
両手の拳を握り締め、まばたきすら忘れたかの様に、ただひたすら見上げるカオル。
「しびれる」「しびれてる」。まさに、今のカオルに当てはまる言葉なのかも知れない。
朝霧大尉『減速!減速!全ブレーキスラスター、脚部スラスター噴射5秒2回!
推進剤残量に注意を払え、海に落ちても助けんぞ!』
来た!目の前に!
公にはまだ発表されていない、極秘の最新鋭武装化PEEVAが…いや、【APE】が。
朝霧大尉『バリュートウィング展開!よぉし、風に乗れ!!リスキー・ビスキーに並ぶぞ』
ゴウッ!!!
もちろん、すきま風一つ入って来ない、完全に密閉された観測ドームではあったのだが、
何故かカオルには、カオル達には、リスキー・ビスキーの背後から現れ、そして右側に並んだ3機のAPEが、
風を切り裂きながら舞い降りた、猛禽類の様な錯覚に陥る。
ショーン「すげえ、すげえ。こんなの見た事無え」
ミカ「…鳥…いや、天…使?」
エレノア「露骨すぎるけど、有りね」
カオル「…」
もはやカオルは口を大きく開けたまま、ただただリスキー・ビスキーの隣に舞い降りたその存在を、
力いっぱい見詰める事しか出来なかった。
キンゼイ艦長「APEはあくまでも総称。あの機体の正式名称は、タイプ14APE【銀嶺】だ」
エレノア「ふうん、去年…2414年度製だからタイプ14。14式武装強化外骨格【銀嶺】。
そういうの嫌いじゃないけど、懐古主義はなはだしいわね(笑)」
キンゼイ艦長「まあ、そう言うな(笑)そういう風潮を残したい者達もおる」
カオル (リュックサックを背負ったゆで卵に、手足をざくざくと付けて、武器を装備させる。
船外ポッドにアームつけた程度…正直、その程度だと思ってた。
これは…違う、全くの別物。それに、美しい…)
カオルの頬が紅潮する。
胸部、上半身がポッド…操縦席になっており、その上にちょこんと乗った各種カメラ群をまとめた【顔】。
そしてポッドの左右から伸びた【腕】、右手にはもはや趣味ではないかと思う程の、大口径ライフルが握られている。
ポッドの下部に付けられたら下半身から、下方に向かって伸びる二本の【足】がバランス良く配置され、
それはもう、「艇」ではない。「人型兵器」と評しても、過言ではなかった。
更に、この人型兵器を見るカオルに、神秘的な印象を与えていた理由は【羽】。
空気を切り裂き、そして空気に乗る、バリュート(減速具)をウィング状にした、
空気抵抗を受ける役目も、空気に乗り揚力を得る役目もこなす、背中に生えた6枚の羽。
特殊素材で成形されているのか、風になびき、しなっていた。
無言のまま【銀嶺】を見詰めるカオルに対し、【銀嶺】三機編隊から、
カオルに向かって直々の呼び出しがかかる。
朝霧大尉『こちらユニフォーム6小隊、朝霧大尉だ。そこに未来の撃墜王はいるか?』
「ん?んん?」
挙動不審げにキョロキョロを繰り返すカオル。
「バカ、お前の事だよ(笑)」「早く返事して差し上げなさいな(笑)」と、
仲間にゴンゴンと小突かれながら、カオルはキンゼイ艦長の表情をうかがう。
艦長はニッコリと微笑みながら、顔を縦に一度振る。
カオル「あ、あの…!四日市東高等学校一年、教育実習生のムナカタ・カオルであります!」
朝霧大尉『そうか、君が未来の撃墜王か。ムナカタ君、撃墜王になるなら、APEを乗りこなせないと無理だ。
APEに乗ってみたいか?』
カオル「は、はい!是非!誰よりも上手くなってみせます!」
朝霧大尉『そうか、ならばとことん勉強して、とことん訓練して、
早く私達の部隊に来い!楽しみに待っていてやる』
ムナカタ「ちょっとだけ時間をください。必ず、必ず大尉の訓練部隊に!」
朝霧大尉『約束だからな(笑)それと、ほかにも実習生はそこにいるんだろ?』
朝霧大尉とカオルの会話を大人しく聞いていたショーン達も、何故か頬が紅潮している。
声からして「若い女性」であろう朝霧大尉の、軍人らしい言葉遣いと、
その言葉の根底に見え隠れする、他者への…後進者への優しさに、
少年少女達はいたく参ってしまったのだ。
つまり、強烈な尊敬と、憧れを抱いてしまったのである。
ショーン「ショーン・カザマ!同じく実習生。撃墜王ムナカタ・カオルの、愛機の整備担当です!」
ショーンがカオルに向かってウィンクする。
撃墜王に便乗した訳ではない。カオルの【仲間達を守る】と言う信念と、
そして今のこのシチュエーションで生まれた高揚感が、ショーンを自然に、この言葉を発せさせていたのだ。
ミカ「ミカ・カートライト、同じく実習生です。撃墜王ムナカタ・カオルが乗る艦の航宙士です。
私が撃墜王を迷子にさせずに生還させます!」
およよ…
こうも他者から持ち上げられる事が無かったのか、
動揺し、赤面し、視点の定まらないカオル。
エレノア「エレノア・シグニス、同じく実習生。
ふふふ、撃墜王もみんなも、生かすも殺すも艦隊司令官の私次第」
無線の向こうから、カラカラと軽快な笑い声が聞こえる。
朝霧大尉『ショーン、ミカ、エレノア、貴様らも私と約束するか?
自分の夢を叶える為に、努力し続ける事を!』
ショーン「もちろんです!」
ミカ「はい!」
エレノア「もとより承知の上」
朝霧大尉『ははっ!良い答えだぞ』
朝霧大尉『さて、推進剤がこころもと無い、そろそろ時間にしよう。キンゼイ艦長どうぞ』
キンゼイ艦長「私だ」
朝霧大尉『良い生徒をお持ちですな』
キンゼイ艦長「言うは易し、このガキンチョ共はこれからですよ(笑)」
朝霧大尉『あら、手厳しい(笑)ならば我ら若造も、群狼のキンゼイから叱られる前に、早々と退散します♪』
エレノア「あ、また言った」
キンゼイ艦長「…(笑) 朝霧大尉、貴官らの健闘を心から祈る」
朝霧大尉『リスキー・ビスキーの無事なる航海と、子供達の輝く未来を祈って』
互いの別れの挨拶が終わる。
すると、朝霧大尉は僚機の訓練兵に指示を出し、帰投の準備を始める。
朝霧大尉『全機水平、そのままでアフターバーナー!大気圏脱出シークエンスプログラム起動!4分で空に昇るぞ』
ゴオオオオッ!!!
【銀嶺】が背負っているバックパック、
ロケット推進機関とは別に、独立して左右に設置されているジェット推進機関。
空気を吸い込み、燃料と混合燃焼させて推進力を得ていた、そのジェットエンジンが唸る。
ノズルがどんどんと絞られ、白熱した高温の排気炎が鋭く後方へ噴出される。
リスキー・ビスキーの速度に合わせていた【銀嶺】の編隊は、リスキー・ビスキーを置いてけぼりに、
ぐんぐんと速度を増し、やがては小さな三つの光点となって、視界から消えて行った。
カオル「…行っちゃったね」
ミカ「かっこ良かった♪ホントかっこ良かった」
ショーン「声からして、朝霧大尉って美人なんだろうな。出来る女性って…カッコ良いなあ♪」
エレノア「あら、もしかしたら、行き遅れかも知れないわよ」
ミカ「寂しい青春を、APEにぶつけてるのかもね」
カオル「おいおい、そんな事言って、ホントだったら可哀相じゃないか」
悪意は無いのだが、ミカ達の冗談話にとどめを刺すカオル。
思わず話が脱線するカオル達の会話を聞いて、キンゼイ艦長は苦笑している。
すると、
朝霧大尉『…こん…マセガキ共が!覚え…いつか…いつかとっちめて…!』
スピーカーから聞こえて来たのは、朝霧大尉の激怒。
エレノア「あら、無線生きてたのね」
ジェットエンジンからロケットブースターに切り換えられ、もうもうと白煙を吹きながら、
全力で上昇して行く、最新鋭APEの【銀嶺】三機。
朝霧大尉『だ…誰が行き遅れ…コラアッ!!!』
雑音に紛れつつ聞こえていた、朝霧大尉の悔しさ溢れる言葉も、
銀嶺が上昇すればするほど、聞き取りにくくなって来た。
カオル「艦長、ありがとうございます。改めて…やる気が出てきました」
首が痛くなるほど高空を見上げていたカオル、振り返り艦長に一礼、深々と頭を下げる。
それに刺激されたのか、他の少年少女も次々に艦長に向かい、
有り得ないチャンスをくれた艦長に、丁寧に礼を述べる。
キンゼイ艦長「ふむ(笑)これで実習キャンセルのまま、コロニー3に戻っても、許してくれそうだね」
そう言いながら、艦長は操舵室へ。
少年少女は食堂へと引き上げて行く。
【極秘開発中のAPE】
少年少女達は結局、APEの構造から何から、気が遠くなるその将来性までも、
コロニー3【中京】に寄港するまで与えられた、余る程ある、たっぷりの時間の中で、
結論の出ないまま熱心に…喧々囂々といつまでもいつまでも語り合っていた。
国連軌道宇宙軍主催の奨学コース、教育実習生の4人。
市立四日市東高等学校一年生、入学して早々の春の出来事。
彼らが彼らなりに、教育実習艦リスキー・ビスキー滞在中に抱いた夢。
それを実現させる為に、今後は互いに切磋琢磨しながら努力して行くだろう。
ただ、努力すればするほど、
時が経てば経つほどに、時代はまるでジェットコースターの様に激変して行く。
今は彼らにとって夢の入口。
ほんの入口に過ぎなかった。




