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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
国連軌道宇宙軍編
9/77

撃墜王ムナカタ・カオル




カオル「なん…だ?」




エレノア「…これは」




ミカ「綺麗…」




ショーン「すげえよ…、マジすげえ」




観測ドームに辿り着いた4人。

半球状の狭い空間で、肩を寄せ合いながら、初めて見る景色に驚愕する。




カオル「綺麗…だ…」




ミカ「写真で見たのと違う。…地平線が丸くない」




ショーン「ヤバい…、涙が出そう」




エレノア「今、夜明けだったのね。私達にとっては就寝時間だけど」




キンゼイ艦長「ははは、太陽嵐を避ける様に、地球の夜間地域を周回してたからね」




それにしても…と、

息を飲みながら、地球の大きさ、陽が昇る直前の朝焼け、地上の豊かな緑に見とれるカオル達。


暗黒の宇宙空間で生まれ、育ち、極めて狭い生活空間が生存空間だったカオル達にとって、

いきなり目の前が開け、【人類が誕生した世界】を目の当たりにしたのだから、

目が釘付けになったとしても、やむを得ない話ではある。


何故カオル達が観測ドームに来たのかを、忘れそうになっていたその時、

キンゼイ艦長が耳につけていたインカムに、いよいよ無線通信が入って来た。

キンゼイ艦長は、その交信相手とのやりとりをカオル達に聞かせたいのか、

耳から外し、スピーカーに切り替える。




『…リスキー・ビスキー…、聞こえますか…リスキー・ビスキー。

…こちらAPE訓練部隊、ユニフォーム6小隊、朝霧大尉です』




キンゼイ艦長「こちら教育実習艦リスキー・ビスキー、艦長のキンゼイだ。

朝霧大尉、協力を感謝する」




スピーカーから聞こえて来た声。


(パイロットは女性だ!)

若々しい張りのある女性の声に、カオル達は軽い衝撃を受ける。




朝霧大尉『こちらこそ光栄であります、キンゼイ艦長。未来の撃墜王に我らが勇姿を見せる事が出来て』




エレノア「あら、有名人になっちゃったね」


ミカ「艦長、話したんだ(笑)」


ショーン「カオル、うらやましいやつ(笑)」


カオル「?」




撃墜王と言うキーワードに全くピンと来ないカオル、

キンゼイ艦長もニヤニヤしながら、カオルの肩を軽く叩く。


そしていよいよ、カオル達の目の前に、APEがその姿を見せる瞬間が迫って来た。




朝焼けに向かい飛行を続ける実習艦リスキー・ビスキーのはるか後方、高空に、小さな火球が三つ現れる。

朝霧大尉が指揮する、ユニフォーム6小隊がいよいよ、大気圏突入を終えて、自由落下状態に入ったのだ。




朝霧大尉『…背部ブレーキスラスター噴射2秒3回!ヘマして編隊を崩したらメシ抜きだぞ!!』




多少、雑音の混じる無線からは、朝霧大尉が僚機の部下を叱咤激励しながら、

的確な操作を命じ、姿勢制御を促す様が聞こえて来る。




朝霧大尉『よし、進入角を修正!リスキー・ビスキーの右舷を目標に、隊列を維持したまま降下!』




ミカ「来たっ!!!」


ショーン「わあお!」




小さな三つの点が、どんどんとリスキー・ビスキーに近づき、大きくなって来る。




朝霧大尉『3番機、もっと私に接近しろ!未来の撃墜王が見てるんだ、隊に恥をかかせるな!』




カオル「…かっこいい…何もかも」




両手の拳を握り締め、まばたきすら忘れたかの様に、ただひたすら見上げるカオル。

「しびれる」「しびれてる」。まさに、今のカオルに当てはまる言葉なのかも知れない。




朝霧大尉『減速!減速!全ブレーキスラスター、脚部スラスター噴射5秒2回!

推進剤残量に注意を払え、海に落ちても助けんぞ!』




来た!目の前に!

公にはまだ発表されていない、極秘の最新鋭武装化PEEVAが…いや、【APE】が。




朝霧大尉『バリュートウィング展開!よぉし、風に乗れ!!リスキー・ビスキーに並ぶぞ』




ゴウッ!!!


もちろん、すきま風一つ入って来ない、完全に密閉された観測ドームではあったのだが、

何故かカオルには、カオル達には、リスキー・ビスキーの背後から現れ、そして右側に並んだ3機のAPEが、

風を切り裂きながら舞い降りた、猛禽類の様な錯覚に陥る。




ショーン「すげえ、すげえ。こんなの見た事無え」




ミカ「…鳥…いや、天…使?」




エレノア「露骨すぎるけど、有りね」




カオル「…」




もはやカオルは口を大きく開けたまま、ただただリスキー・ビスキーの隣に舞い降りたその存在を、

力いっぱい見詰める事しか出来なかった。




キンゼイ艦長「APEはあくまでも総称。あの機体の正式名称は、タイプ14APE【銀嶺ぎんれい】だ」




エレノア「ふうん、去年…2414年度製だからタイプ14。14式武装強化外骨格【銀嶺】。

そういうの嫌いじゃないけど、懐古主義はなはだしいわね(笑)」




キンゼイ艦長「まあ、そう言うな(笑)そういう風潮を残したい者達もおる」




カオル (リュックサックを背負ったゆで卵に、手足をざくざくと付けて、武器を装備させる。

船外ポッドにアームつけた程度…正直、その程度だと思ってた。

これは…違う、全くの別物。それに、美しい…)




カオルの頬が紅潮する。


胸部、上半身がポッド…操縦席になっており、その上にちょこんと乗った各種カメラ群をまとめた【顔】。

そしてポッドの左右から伸びた【腕】、右手にはもはや趣味ではないかと思う程の、大口径ライフルが握られている。

ポッドの下部に付けられたら下半身から、下方に向かって伸びる二本の【足】がバランス良く配置され、

それはもう、「艇」ではない。「人型兵器」と評しても、過言ではなかった。


更に、この人型兵器を見るカオルに、神秘的な印象を与えていた理由は【羽】。

空気を切り裂き、そして空気に乗る、バリュート(減速具)をウィング状にした、

空気抵抗を受ける役目も、空気に乗り揚力を得る役目もこなす、背中に生えた6枚の羽。

特殊素材で成形されているのか、風になびき、しなっていた。


無言のまま【銀嶺】を見詰めるカオルに対し、【銀嶺】三機編隊から、

カオルに向かって直々の呼び出しがかかる。




朝霧大尉『こちらユニフォーム6小隊、朝霧大尉だ。そこに未来の撃墜王はいるか?』




「ん?んん?」




挙動不審げにキョロキョロを繰り返すカオル。


「バカ、お前の事だよ(笑)」「早く返事して差し上げなさいな(笑)」と、

仲間にゴンゴンと小突かれながら、カオルはキンゼイ艦長の表情をうかがう。

艦長はニッコリと微笑みながら、顔を縦に一度振る。




カオル「あ、あの…!四日市東高等学校一年、教育実習生のムナカタ・カオルであります!」




朝霧大尉『そうか、君が未来の撃墜王か。ムナカタ君、撃墜王になるなら、APEを乗りこなせないと無理だ。

APEに乗ってみたいか?』




カオル「は、はい!是非!誰よりも上手くなってみせます!」




朝霧大尉『そうか、ならばとことん勉強して、とことん訓練して、

早く私達の部隊に来い!楽しみに待っていてやる』




ムナカタ「ちょっとだけ時間をください。必ず、必ず大尉の訓練部隊に!」




朝霧大尉『約束だからな(笑)それと、ほかにも実習生はそこにいるんだろ?』




朝霧大尉とカオルの会話を大人しく聞いていたショーン達も、何故か頬が紅潮している。


声からして「若い女性」であろう朝霧大尉の、軍人らしい言葉遣いと、

その言葉の根底に見え隠れする、他者への…後進者への優しさに、

少年少女達はいたく参ってしまったのだ。


つまり、強烈な尊敬と、憧れを抱いてしまったのである。




ショーン「ショーン・カザマ!同じく実習生。撃墜王ムナカタ・カオルの、愛機の整備担当です!」




ショーンがカオルに向かってウィンクする。


撃墜王に便乗した訳ではない。カオルの【仲間達を守る】と言う信念と、

そして今のこのシチュエーションで生まれた高揚感が、ショーンを自然に、この言葉を発せさせていたのだ。




ミカ「ミカ・カートライト、同じく実習生です。撃墜王ムナカタ・カオルが乗る艦の航宙士です。

私が撃墜王を迷子にさせずに生還させます!」




およよ…


こうも他者から持ち上げられる事が無かったのか、

動揺し、赤面し、視点の定まらないカオル。




エレノア「エレノア・シグニス、同じく実習生。

ふふふ、撃墜王もみんなも、生かすも殺すも艦隊司令官の私次第」




無線の向こうから、カラカラと軽快な笑い声が聞こえる。




朝霧大尉『ショーン、ミカ、エレノア、貴様らも私と約束するか?

自分の夢を叶える為に、努力し続ける事を!』




ショーン「もちろんです!」


ミカ「はい!」


エレノア「もとより承知の上」




朝霧大尉『ははっ!良い答えだぞ』




朝霧大尉『さて、推進剤がこころもと無い、そろそろ時間にしよう。キンゼイ艦長どうぞ』




キンゼイ艦長「私だ」




朝霧大尉『良い生徒をお持ちですな』




キンゼイ艦長「言うは易し、このガキンチョ共はこれからですよ(笑)」




朝霧大尉『あら、手厳しい(笑)ならば我ら若造も、群狼のキンゼイから叱られる前に、早々と退散します♪』




エレノア「あ、また言った」




キンゼイ艦長「…(笑) 朝霧大尉、貴官らの健闘を心から祈る」




朝霧大尉『リスキー・ビスキーの無事なる航海と、子供達の輝く未来を祈って』




互いの別れの挨拶が終わる。

すると、朝霧大尉は僚機の訓練兵に指示を出し、帰投の準備を始める。




朝霧大尉『全機水平、そのままでアフターバーナー!大気圏脱出シークエンスプログラム起動!4分で空に昇るぞ』




ゴオオオオッ!!!


【銀嶺】が背負っているバックパック、

ロケット推進機関とは別に、独立して左右に設置されているジェット推進機関。

空気を吸い込み、燃料と混合燃焼させて推進力を得ていた、そのジェットエンジンが唸る。

ノズルがどんどんと絞られ、白熱した高温の排気炎が鋭く後方へ噴出される。


リスキー・ビスキーの速度に合わせていた【銀嶺】の編隊は、リスキー・ビスキーを置いてけぼりに、

ぐんぐんと速度を増し、やがては小さな三つの光点となって、視界から消えて行った。




カオル「…行っちゃったね」




ミカ「かっこ良かった♪ホントかっこ良かった」




ショーン「声からして、朝霧大尉って美人なんだろうな。出来る女性って…カッコ良いなあ♪」




エレノア「あら、もしかしたら、行き遅れかも知れないわよ」




ミカ「寂しい青春を、APEにぶつけてるのかもね」




カオル「おいおい、そんな事言って、ホントだったら可哀相じゃないか」




悪意は無いのだが、ミカ達の冗談話にとどめを刺すカオル。

思わず話が脱線するカオル達の会話を聞いて、キンゼイ艦長は苦笑している。


すると、




朝霧大尉『…こん…マセガキ共が!覚え…いつか…いつかとっちめて…!』




スピーカーから聞こえて来たのは、朝霧大尉の激怒。




エレノア「あら、無線生きてたのね」




ジェットエンジンからロケットブースターに切り換えられ、もうもうと白煙を吹きながら、

全力で上昇して行く、最新鋭APEの【銀嶺】三機。




朝霧大尉『だ…誰が行き遅れ…コラアッ!!!』




雑音に紛れつつ聞こえていた、朝霧大尉の悔しさ溢れる言葉も、

銀嶺が上昇すればするほど、聞き取りにくくなって来た。




カオル「艦長、ありがとうございます。改めて…やる気が出てきました」




首が痛くなるほど高空を見上げていたカオル、振り返り艦長に一礼、深々と頭を下げる。

それに刺激されたのか、他の少年少女も次々に艦長に向かい、

有り得ないチャンスをくれた艦長に、丁寧に礼を述べる。




キンゼイ艦長「ふむ(笑)これで実習キャンセルのまま、コロニー3に戻っても、許してくれそうだね」




そう言いながら、艦長は操舵室へ。

少年少女は食堂へと引き上げて行く。




【極秘開発中のAPE】

少年少女達は結局、APEの構造から何から、気が遠くなるその将来性までも、

コロニー3【中京】に寄港するまで与えられた、余る程ある、たっぷりの時間の中で、

結論の出ないまま熱心に…喧々囂々といつまでもいつまでも語り合っていた。


国連軌道宇宙軍主催の奨学コース、教育実習生の4人。

市立四日市東高等学校一年生、入学して早々の春の出来事。


彼らが彼らなりに、教育実習艦リスキー・ビスキー滞在中に抱いた夢。

それを実現させる為に、今後は互いに切磋琢磨しながら努力して行くだろう。


ただ、努力すればするほど、


時が経てば経つほどに、時代はまるでジェットコースターの様に激変して行く。




今は彼らにとって夢の入口。

ほんの入口に過ぎなかった。






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