多分、我々が倒せなければこれで終わり。人類は滅亡します
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2416年、8月
国民投票で、「四季」の温度設定を選択した日本国。
地球軌道上に存在する、日本国所有の無数のコロニーでは、今まさにTシャツ一枚でも汗が噴き出す、夏の季節。
薄着で軽装の人々が活動的に、コロニー内を闊歩し、行き交うその中の一つに、
首都コロニー【東京】がある。
そして、首都コロニー【東京】から、連絡艇で5分と経たない宙域に、統合宇宙軍の軍港が存在していた。
昨年までの名称は、国連軌道宇宙軍日本国方面軍(方面団)基地。
そして今は、【統合宇宙軍第3軍総司令部】
統合宇宙軍は、国連軌道宇宙軍と、国連月宇宙軍が合併した際、細々とした部署が点在する組織を大幅に改造。
縦割りと横並びで硬直した組織を、ダイナミックに運営出来る様に「軍団」形式へと変化させた。
もちろん、第一次南極侵攻作戦で壊滅的打撃を受けたのは確かだが、この春より、再編成を重ねた統合宇宙軍は、
ジョシュア・カリー准将率いる第1軍から、第4軍までの組織構築に成功した。
その中の、第3軍。
曽ヶ端少将率いる第3軍の本拠地が、この日本国の軌道上にあるのだ。
第3軍の基本兵力は、軍団構成員総勢1600名で、今の軍隊規模で表現すると、
大隊規模と言ういささか小粒な構成となっているが、
最新鋭の新造艦や最新鋭APEが優先配備された、少数精鋭の軍団とも言える。
・仮装護衛艦(輸送艦を改装した護衛艦)3隻
・多目的輸送艦1隻(リスキー・ビスキー2)
・APE56機
(12機は、最新鋭の16式APE【震竜】)
・亜宇宙戦術空母ヤマトタケル(大規模改装工事中)
・機械化装甲歩兵1中隊600名、1小隊100名。
これらの戦力以外にも、フリゲート航宙艦2隻が第3軍に所属している。
そして今、この【東京】に隣接する、第3軍の本拠地である軍港のドックには、
ただの1隻も停泊していない。
亜宇宙戦術空母ヤマトタケルは大規模改装工事のため、統合宇宙軍所有の別のドックに寝ているが、
それは別として、1隻でも軍艦が停泊していても良いはずのこの軍港が、完全に空っぽになっているのだ。
「何故なら、第3軍は出撃しているから。」
そう
今、【曽ヶ端軍団】こと第3軍は、初陣を飾る為、分厚い大気圏の中にいた。
場所は、赤道直下
ポールシフトで赤道直下までせり上がって来た、南国の熱帯の大陸…南極大陸よりも、
やや西方の海洋上。高度15000メートル。
船体にでかでかと表示された【OUNSF】、統合宇宙軍所属の艦艇が4隻が、
推進材航行とジェット航行を併用し、低速ホバリングで、高空をぐるぐると旋回している。
その4つの艦艇は、先頭から、仮装護衛艦【金剛】、仮装護衛艦【ガネーシャ】、
多目的輸送艦【リスキー・ビスキー2】、そして、仮装護衛艦であり、第3軍旗艦の【出雲】の順である。
そして場所は、リスキー・ビスキー2艦内。
ブリーフィング・ルームに集められた、士官やパイロットスーツの兵士達が、
演壇に立っている艦長、アイーシャ・和泉大佐と、
CIC戦術士官のヒューゴー・バレンタイン中佐に、視線を集中させていた。
和泉艦長「…時間かな?」
バレンタイン中佐「そのようですな」
左手にはめている、年代物の腕時計を覗き、和泉艦長はバレンタイン中佐に同意を求める。
そして、兵士達に向き直りながら、声高らかに言葉を発した。
和泉艦長「全員、傾聴!ブリーフィングの最後に、曽ヶ端少将からのお言葉を頂く。全員そのまま、モニターに注目!」
ニコニコしながら、和泉艦長は後ずさる。
すると、ブリーフィング・ルームの電灯が消され、
中央の大型モニターのスイッチが入った。
画面いっぱいに、統合宇宙軍の記章が広がり、見る者にとっては、
それが統合宇宙軍公式の映像だと理解出来た。
そして、画面が切り替わり、どこかの小さなオフィスの映像が。
その画面中央、机を前に鎮座する初老の男性が、画面では見えない、
フレームの外に向かって話しかけている。
「えっ、もう良いの?」「つながった!?」
どうやらそれは生放送だったのか、いきなりの中継開始に男性は混乱している様にも見えた。
「うんっ!!!」
耳を赤くしながら、一度咳払いをし、改めてその初老の男性がカメラに視点を合わせた。
「戦士諸君、ご苦労!第3軍総司令官の曽ヶ端です。」
旗艦【出雲】に搭乗している総司令官の曽ヶ端少将が、
艦隊の兵士達に向かい、同時中継で映像を送って来たのだ。
ごま塩頭の壮年の男性。年相応の威厳よりも、軍人としての厳格さよりも…、
何か学者の様な雰囲気を感じさせる、そんな人物。それが第3軍の総司令官、曽ヶ端誠少将であった。
曽ヶ端少将「え~、各艦の皆さん。ブリーフィングで説明は受けたと思いますが、そうです、そう言う事です」
総司令官がどんな発言をするのか…。
固唾を飲みながら緊張する兵士達とは対照的に、曽ヶ端少将は額に汗を浮かべながら、何か苦笑いの様な、
根本的に、人前に出る事を苦手としている様な雰囲気を醸し出しつつ、ぎこちなく話し続ける。
曽ヶ端少将「我々人類が地球に帰還するにあたり、一番の障害となっている最大の敵…、神格型を撃破する時が来ました」
旗艦【出雲】から、第3軍艦隊に向かって発信される同時中継。
もちろん、ここリスキー・ビスキー2のブリーフィング・ルームでは、
ジョーカー1訓練小隊のAPEパイロット、ムナカタ・カオル、美田園恭香、
カスミ・レイモンド、ヒロノブ・レイモンドの4人も、
食い入る様な真剣な顔付きで、曽ヶ端少将のスピーチを見ている。
曽ヶ端少将「我々じゃなくて、誰か別のところでやってくれれば良いのですが、そうも言ってられません。
何故なら、私達にしか、神格型を倒せる手段が無いからです」
曽ヶ端少将はまるで、他人事の様な口調で言葉を続ける。
しかし、それが曽ヶ端少将の本意では無く、曽ヶ端少将の性格的な問題である事は、
この映像を見ている全ての兵士達が肌で感じていた。
何故なら、淡々と語られるその言葉の中に、メラメラと燃え上がる曽ヶ端少将の決意を、誰もが感じたからだ。
曽ヶ端少将「多分、我々が倒せなければ、これで終わり。人類は滅亡します、間違い無く滅亡です。だけど、それじゃマズい。
地球を取り戻すとか、そんなプロパガンダ臭いセリフじゃなくて、神格型ぶっ潰して地球上に我々の生活圏を構築しなければ、
もう我々は35年くらい先に、滅亡するしか無いんです」
ここで、一旦曽ヶ端少将はふさぎ込み、呼吸を落ち着ける。
最後の締めの言葉に向かって、力を溜めているかの様だ。
曽ヶ端少将「失敗は許されません。何故なら、神格型には学習能力がある。必ず仕留めないと、我々のチャンスは減るばかりになる」
ヒュイイイン!!
APEのバックバックに取り付けられた、ジェットエンジンが、高音域の唸りを上げる。
仮装護衛艦の艦橋より、やや下方に取り付けられたカタパルトデッキに、APE…アーマード・パワー・エグゾスケルトンが、
大空に向かって解き放たれるのを、今か今かと待っている。
曽ヶ端少将は、作戦前のスピーチで、最後の締めくくりに、こう述べていた。
『間に合った準備、間に合わなかった準備。色々と事情もありますが、思うようにいかないのが戦争です。
この後、第二次南極大陸侵攻作戦が開始される。その為にも我々が、神格型を今の内に叩く!
…戦士諸君、とにかく死にはやるな!生き延びて、前に進もう!』
その曽ヶ端少将の言葉を、兵士一人一人がどう捉えたかなどお構いなしに、
今、いよいよ作戦が始まる。
『こちらリスキー・ビスキー2CICよりズール1小隊へ、エルアラメイン少佐だ。
出撃まで後二分、ズール1はカタパルトで待機せよ』
リスキー・ビスキー2CICからズール1小隊に指示を出す、小隊指揮官のエルアラメイン少佐。
高い身長を誇るルナリアンの黒人士官には、もう一つ秘密がある。
全世界で最も有名な無重力スポーツである、グラビティ・ブースト。
そのグラビティ・ブーストのプロチーム、【TEAM・GALAXY】のスコアメーカー、リコ・エルアラメインの兄なのだ。
兄は統合宇宙軍屈指のトップガンで、今はAPEを降りて小隊指揮官に。
妹は現役トップのグラビティ・ブースター。それも爆発的に人気を誇るチームのアイドル。
才能溢れた兄妹だと、周囲の注目を常に浴びて来た二人だったが、
二人ともそれを誇る訳ではなく、常に軍人として、常にアスリートとして、
模範的に行動し、その誠実な人柄で、周囲から愛されて来た。
エルアラメイン少佐「よし、総司令部からシグナル来るぞ!ズールリーダーとズール1!エンジンホット、
シグナルグリーンで一気に飛び出せ!!」
APEカタパルトの前方に位置された、赤シグナルが点灯を始め、たった今グリーンに変わった。
【物体E】神格型撃破作戦が、今幕を開けたのだ。




