アイーシャ・和泉艦長の爆弾発言
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カオル達に対しての、朝霧少佐の判断。「素人に毛が生えた程度」
そしてそれを純然たる理由として、作戦行動には参加させないと言う判断を、
朝霧少佐は堂々とメリルに言い放つ。
だが、メリルはそれに動じる事無く、笑顔をたたえて会話を続ける。
メリル中佐「朝霧少佐の判断、尊重致します」
朝霧少佐「その余裕のおっしゃり様。私の異議など、さして影響は無いと言われてる様に見受けられますが」
メリル中佐「いえいえ、こう見えても保護者のはしくれ。叶うならば、普通の少年少女として、人生を謳歌して欲しいと願っています」
(白々しい…)
口にこそ出さないものの、朝霧少佐の瞳は、モニター画面に反射するメリル中佐の顔を、冷ややかに見詰めている。
朝霧少佐「しかし、解せませんね」
メリル中佐「何が解せないのです?」
朝霧少佐「彼らの生還率を上げたいなら、何故最新鋭に搭乗させようとしないのです?
あなたの権限を行使すれば、あんなプロトタイプなど、容易に新型に換えられるはずだ」
メリル中佐「あの4機は必ず彼らの命を守る、私はそう考えているだけです」
朝霧少佐の挑発…情報を引き出そうとする、ひっかけの質問に踊らされる事無く、
メリルは深く答えないまま、それでいて誤魔化しようの無い真実を述べる。
朝霧少佐「何を根拠にすれば、そんな答えが出てくるのですか?」
(…まるで宗教じゃないか)と、眉間にシワを寄せる。
メリル中佐との、真意の見えない問答にイラつき始めた朝霧少佐。
いよいよもって、怪訝な顔付きで振り返り、メリル中佐と目を合わせるのだが、
アイパッチで片目を隠し、一つしかないメリル中佐の瞳は、全く濁っておらず、
底知れず澄みきったまま、穏やかに朝霧少佐を見据えている。
メリル中佐「いずれは、全てお話しします。それまでは、朝霧少佐は朝霧少佐の流儀で、彼らの生存確率を上げて頂きたい。そういう事です」
二人の視線が交差する。
CICに詰めている職員達は、その光景を見詰めながら、ハラハラしている。
その中には、ジョーカー1訓練小隊付けのCICオペレーター、伊達庸子とエレノア・シグニスの姿もある。
彼女たちももちろんの事、沈黙を保ちながら、二人の動向に「それとなく」注視していた。
朝霧少佐「私の流儀でと言う事は、未熟な兵士は絶対に戦場に出さない…。
もし如何なる命令が下達されても、それを私が全力で阻止する事も含めての【私の流儀】で宜しいですか?」
メリル中佐「そうはならないと思います」
朝霧少佐「そうはならないとは…!」
メリル中佐の言葉を侮辱と捉えたのか、いよいよ朝霧少佐の鼻息が荒くなって来た。
朝霧少佐「あなたは…っ!私が、あんな年端もいかないガキどもを、喜んで戦場へ送り出すとでも思っているのか!」
朝霧少佐の怒声が、静まり返ったCICに響く。
言われた方のメリル中佐は、一瞬たりとも動揺せず、表情すら変える事はない。
メリル中佐「誤解なさらないでください、少佐。いずれお話しすると、私は言いました。
それを理解して頂ければ、私は少佐の名誉を傷つけてはいない事が、理解して頂けると思います」
朝霧少佐「つまり、私がその話を聞けば、少年少女に向かって戦場で死んで来いと、命令するのですね?」
メリル中佐「あなたの資質を問うているのではありません。あくまでも、あの4人に関して、お話ししているのです」
堂々めぐり
何を言った所で、メリル中佐のスタンスは変わらない。
朝霧少佐の激しい怒りに、無力感が混ざり始めた時、
いきなりCICの扉が開き、軍服をパリッと着た将官が入室して来た。
朝霧少佐「艦長!」
現れたのはリスキー・ビスキー2艦長、アイーシャ・和泉大佐 。
元、亜宇宙戦術空母ヤマトタケルの副艦長で、今は統合宇宙軍の最年少大佐。
燃える様な真っ赤な髪とソバカスが印象的な、見る者によっては実年齢よりも若く見られる細身の美女である。
和泉艦長「あらら、何か空気が冷えてますね(笑)」
CICに詰めている職員は、口を開こうとしない。
張り詰めた空気の原因である、朝霧少佐とメリル中佐を見詰めつつ、
この若い艦長に、事態の収集を空気で訴えるのが精一杯。
その、二つの台風の目が、艦長入室に気付き、敬礼をした。
和泉艦長「伊達少尉、シグニス准尉。着艦プログラムの更新データよ、インストールして♪」
周囲の視線、朝霧少佐とメリル中佐の視線などお構いなしに、
和泉艦長は微笑みながら、淡々と事務処理をCIC要員に指示する。
そして、ふわふわと無重力に身を任せながら、朝霧少佐とメリル中佐の前へと進んで来た。
和泉艦長「朝霧少佐、次の訓練飛行予定は?」
朝霧少佐「あっ、はい。次の予定は13時間後の早朝0430、スクランブル即応訓練を計画しております」
和泉艦長「なるほど、了解しました♪2時間以内に訓練計画書の提出を願います」
朝霧少佐「はっ!」
明らかに歳下の和泉艦長に向かい、ビシッと敬礼を決める朝霧少佐。
「では」
と、言いつつ、朝霧少佐がCICを退出しようとした時、和泉艦長が手のひらを上げて退出を制止する。
不審に彩られた表情で和泉艦長を見詰めた、朝霧少佐には何も言わず、
和泉艦長はメリル中佐に振り向き、笑顔のままメリル中佐に切り出し始めた。
和泉艦長「メリル特務中佐、リスキー・ビスキー2所属のAPE2個小隊は、
作戦総司令部が他艦や旗艦に創設されない限り、CICの作戦・管理責任は艦長の私に帰するものです。
朝霧少佐の訓練計画に異論があるならば、それを承認した私に言って頂かないと」
和泉艦長はまるで含む所を見せず、あくまでも笑顔。
朝霧少佐とメリル中佐が何を口論していたかは把握しないまま、ズバリと本質を切り出した。
メリル中佐「訓練計画に異論はありません。もちろん、差し出がましい事を言う積もりもありません。
全ては見解の相違。ボタンの掛け違いであり、言葉遊びの部類に属するものです」
超然と構えていたメリル中佐は、口元にわずかではあるが、
挑戦的な笑みをたたえ、双方の誤解であると謝罪した。
和泉艦長「よろしい、この場はこれにて終了。朝霧少佐とメリル特務中佐には、この後の夕食について私から提案があります」
朝霧少佐「艦…長?」
メリル中佐「?」
和泉艦長「朝霧少佐とメリル特務中佐は、1800時に艦長室に出頭。艦長と共に夕食をとる事を命じます」
悪戯っぽい、少女の様な笑みを浮かべながら、和泉艦長は高らかに宣言した。
呆気に取られるメリル中佐と朝霧少佐。
和泉艦長「宣言した以上は、従って頂きますからね♪それではお二方とも、ディスミスト(退出せよ)」
何をどう反応して良いのか、釈然としないまま、CICを退出しようとした二人。
その片方、メリル中佐の背中に向かい、和泉艦長は声をかけ呼び止める。
和泉艦長「あ、メリル特務中佐」
メリル中佐「は、何でしょうか?」
あくまでも超然とし、表立って感情を見せないメリル中佐に、和泉艦長は微笑みながら、爆弾の様な言葉を投げかける。
和泉艦長「私と食事なんて、憂鬱かも知れませんが、安心してください。【プロジェクト・フォー・ホースマン(Four Horsemen)】について、
内容を質そうなどとは、思っていませんから♪」
【プロジェクト・フォー・ホースマン(Four Horsemen)】
この言葉が、和泉艦長の口から出た瞬間、今まで超然としていたメリル中佐の表情がガラリと変わる。
アイパッチに隠された左目、そして右目からは苛烈な射る様な視線。
周囲のCIC職員も易々と気付く程の、殺意を含んだ激しい憎悪の表情に変化したのだ。
メリル中佐「それは何よりの事、私も食事は楽しみにしておきます♪では」
ガラリと表情を変えたのも、ほんの一瞬。メリル中佐は再び自己のコントロールに成功し、笑顔でCICを退出して行く。
伊達「プロジェクト・フォー・ホースマン…?」
エレノア「聞いた事の無い計画ね」
朝霧少佐とメリル中佐が退出した後、ざわつくCIC。
エレノアと伊達も、互いに顔を近付け、ひそひそ声で会話している。
すると、「ぱん、ぱん」と和泉艦長は手を叩きながら、
和泉艦長「は~い、お喋りの時間おしまい。各小隊の訓練結果を、報告にまとめなさい」
和泉艦長は笑顔のまま、職員達に作業再開を命令する。
慌てて端末に触り作業を始めるエレノア。
だが、作業を進めながらも、エレノアの脳裏では、和泉艦長とメリル中佐のやり取りを考察し、
彼女なりの結論を導き出していた。【和泉艦長は爆弾発言をしたのではないか?】と言う結論に。
空想の、でっち上げの作戦なら、メリル特務中佐が表情を変えるはずが無い。
つまり、プロジェクト何とかと言うのは、確かに存在する。
そして、和泉艦長自身も名前は知っていても、内容は知らされておらず、
メリル特務中佐の所属する情報保全部が、その全貌を知っている。
さらに…メリル特務中佐がこのリスキー・ビスキー2に乗り込んだ理由は、
カオル達の保護と、プロトタイプAPEの情報調整。
エレノア(カオルの周囲に、機密作戦が進行してる?)
急に不安になるエレノアだった。




