宇宙軍の坊や達、頑張って俺を楽しませてくれよ
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『回転を始めます』
『荷重調整を行います。シートに座ったまま、移動しないで下さい』
グラビティ・ブースト四日市店の、プレイヤー専用の休憩所。
ちょっとしたコンビニ店舗程の大きさの、ドラム型回転式、重力発生装置である。
無重力状態を体験した者は、骨の細胞からカルシウムが溶け出さない様に、
骨粗鬆症対策として、必ず重力状況下での休憩が義務付けられている。
悲惨で、恥ずかしい体験をしてしまったカオル達は今、休憩所で身体を休めていた。
片側にはカオル達が横になる、休憩用のシートが配置され、反対側には、
ドラムの中心軸から続く、金属製のパイプを通じ、不燃性オイルを溜めるタンクが設置されている。
ドラムが回転を始め、重力が発生した際、ドラム内にいる人間の延べ体重を計測。
体重から軸にかかる荷重を均等にする為、同じ重量のオイルが、タンク内に注がれ、
回転運動が始まった際に、バランスの取れた同心円運動で、軸に負担をかけない仕組みになっているのだ。
ヒュイイイイン…
静かな電気音と共に、回転運動を始める休憩所。
シートに横になっているのは、顔を真っ赤にしたカスミ。
そして、顔を真っ赤にした恭香。
更に、涼しげなヒロノブと、股関に両手を添えて背中を丸めるカオル。
カスミ「…」
ヒロノブ「…」
カオル「…」
恭香「…」
沈黙が続く中、ポツリとカスミが呟く。
カスミ「お嫁に行けない」
恭香「わ、私も…」
カオル「僕も…」
ヒロノブ「ぷっ(笑)」
カオルの呟きに吹き出すヒロノブ。
カスミ「くく…(笑)」
恭香「ふふっ(笑)」
ヒロノブ「あはははっ」
爆笑に包まれる休憩室内。
カオルがポツリともらした言葉が、あまりに馬鹿馬鹿しく、仲間達の笑いのツボにハマったのだ。
全力を出して頑張った、結果は結果。もう、誰もそれを悔やむ事無く、今はひたすら腹を抱えて笑っていた。
その時、外でカオル達を待っているショーンから、『お、おおい!カオル、
みんな!【TEAM・GALAXY】との対戦イベント…【チームなかよし】がエントリーされてるぞっ!』と、
驚くべき内容の話が、インターフォンを通じて、休憩室に響く。
ショーンの話がまったく飲み込めないまま、「なんじゃあ、そりゃあ!」「ひい!?ひいいい!?」と、混乱するドラム内。
やがて、係の担当者がカオル達の元に訪れ、目が泳ぐカオル達を面倒臭そうに、事務所へと連れて行った。
司会者『さぁ、やってまいりました!グラビティ・ブースト四日市店のオープニングイベント!
5年連続グランプリ・ファイナリスト!3年連続グランプリ・チャンピオン!
銀河を駆け抜けるブースター、【TEAM・GALAXY】の入場だああああっ!!』
ライトが消され、真っ暗になった会場の中、
7色のスポットライトを浴びて、【TEAM・GALAXY】の4人のプレイヤーが、
1人1人名前を紹介されながら、司会者のいるセンターステージに進んで行く。
司会者『まずは、【スピード・スター】!【TEAM・GALAXY】のダイナモ、エルメス・コステロ!!』
うわああああ!
観客の歓声と共に現れた、長身のルナリアン。
ニヒルな笑みを振りまきながら、エルメス・コステロが現れる。
司会者『続いて【ポイントゲッター】!【TEAM・GALAXY】のスコアメーカー、リコ・エルアラメイン!!』
おおおおおおっ!!!
小柄な黒人の女性選手が笑顔で入場して来る。
司会者『続いて、【ポイントガード】!【TEAM・GALAXY】の守護神、"ダッジ"ジョンソン!!』
うおおおおお!
わあああああ!!
一段とヒートアップする場内。
屈強な白人選手が歯をキラキラと輝かせて、入場して来た。
司会者『さぁ、最後を飾るのは、【TEAM・GALAXY】の司令塔!
【ザ・ギャラクシー】!【キング・オブ・ブースター】!リッキー・ローゼス!!!!』
おおおっ!!!
きゃあああっ!!!
今までの歓声に輪をかけて、耳をつんざく女性の黄色い歓声に包まれた場内。
金色の長髪を後ろで束ねた、中性的に美しい青年が登場して来た。
司会者『さぁ!集まった【TEAM・GALAXY】!グラビティ・ブーストの頂点に君臨する、【TEAM・GALAXY】に挑む、
選ばれた勇者達!命知らずの猛者どもの入場だあ!!』
ドンドンカッ!
ドンドンカッ!
照明が点灯され、勇壮な入場曲が流れる。
ミカ「カオル達だ!」
現れた挑戦チーム、センターに進む3チームの中に、
挙動不審でオロオロする、カオル達の姿が見えたのだ。
他の2チームの若者達は、【TEAM・GALAXY】との対戦を夢見ていたのか、
この上無い高揚感に包まれながら、今か今かと、その時が来るのを心待ちにした、「良い顔」をしている。
が、カオル達はもう既に撃沈。何が何だか分からないままここまで連れ出され、
もう完全に「おのぼりさん」。
挑戦者の元に司会者が進み寄り、インタビューを始めても、それが収まる事は無かった。
司会者『自信はありますか?』
挑戦者『正直無いです(笑)だけど、精一杯戦って、最高の思い出にしたいです』
パチパチパチパチ…
司会者『本日2回戦目の挑戦チーム、【チーム・四日市青年会議所】の皆さんでした』
場内に、割れんばかりの拍手が響きながら、挑戦チームが紹介されている。
司会者『それでは、この後すぐに行われる、第1回戦の挑戦チーム、【チーム・なかよし】の皆さんです!』
ドッ!!
チーム・なかよしのネーミングにウケる会場。
ただでさえ、場違いな空気に戸惑っていたカオル達。
場内の笑い声に、耳まで真っ赤にしてうつむいてしまう。
司会者『【チーム・なかよし】の皆さんは、今回最年少の挑戦チーム!社会人ではなく、何と統合宇宙軍の奨学生で、現役の高校生です!』
おおお…
どよめく場内
最年少チームではあるが、軍に所属している以上、どれほどのプレイを魅せてくれるのか、
自然と観客の興味は、カオル達に集中する。
司会者『リーダーの美田園恭香さん、代表して【チーム・なかよし】の名前の由来を教えて下さい』
恭香『ひいいっ!…あの…あ、あの…』
完全に舞い上がってしまい、何も言えない恭香。
ミカ「恭香頑張れえっ!」
その時、観客の声に紛れ、女性の大きな叫び声が。そして、「カオル!いけえ!ぶちかませえ!!!」と、闘争心むき出しの聞き慣れた声が。
ステージのカオルや、観客席でカオル達を間近にみるショーン達は、
歓声に紛れて、やけに透き通って聞こえて来る女性の声に傾聴する。
「カオル!気合い入れろよ、根性だ!!」
カオル「あ、あはは(汗)メリルさんだ…」
苦笑いするカオル、メリルの親バカ過ぎる声援は、とどまる事を知らない。
メリル「撃墜王目指してるなら、【TEAM・GALAXY】なんか瞬殺しろ!お前なら出来る!ぶちかませ!」
あまりにも大きな声なので、次第に観客も面白がって、メリルの声援に便乗し始める。
「撃墜王、頑張れよ!」
「いいぞ、あんちゃん!」
カオル「…恥ずかし過ぎます…」
グラビティ・ブースト
チーム対戦
個人タイムアタック、チーム・タイムアタックとはルールが劇的に変わる。
タイムを競うのは、基本的には同じなのだが、各コースに設けられてるポイントは、
タッチすると「ペナルティ・タイム」として認められ、相手チームのタイムに加算される。
つまり、どれだけ早くチームでゴールしたとしても、相手側が送って来たペナルティ・タイムがゴールタイムに加算され、
逆転敗北する可能性を多々秘めるシステムなのだ。
そして、チーム対戦のもう一つの醍醐味、それが【チャージング】。
殴る蹴るはもちろん、重大な反則なのだが、相手チームのプレイヤーを【押して】、
慣性飛行の軌道を反らす事は認められている。
つまり、押すだけの行為ではあるが、威力絶大の、妨害行為が認められているのである。
司会者『さて、【TEAM・GALAXY】とチーム・なかよし、両チームとも、スタートグリッドについた様です』
チーム対戦用、上級者向けコース。
【TEAM・GALAXY】のメンバーも、カオル達も、手すりに捕まり、スタートの号砲が鳴るのを待つ。
視界の先にあるのは、強化プラスチックで作られた一周400mのサーキットコース。
ヒロノブ「多分…このマッチアップ、メリルさんの仕込みだと思います」
カスミ「何か、人が変わったかの様な勢いでしたね」
カオル「あ、あはは(汗)」
恭香「み、みんな…ダメ。今は…集中」
カオル「恭香、ごめん。そうだ、みんな集中!集中しよう!」
司会者『さあ、そろそろ挑戦者チームの先行スタートが始まります!』
エルメス・コステロ「宇宙軍の坊や達、頑張って俺を楽しませてくれよ」
リコ・エルアラメイン「ダメよ、子供にはしつけが必要だわ。無茶な挑戦をした事、後悔するぐらいに、メチャクチャにしてあげる♪」
ヒロノブ「怖ぇ~…」
カオル「せっかくのチャンスなんだ、後で後悔しない様に、やれる事をしっかりやろう!」
5秒前!
4秒前!
3!
2!
1!!




