武装強化外骨格 APE(エイプ)
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エレノア「艦隊司令官を狙ってます」
キンゼイ艦長「をを?」
エレノア「国連軌道宇宙軍の艦隊司令官を狙ってます」
キンゼイ艦長「…はい」
エレノアの静かな迫力に圧され始めた艦長。
エレノア「まずは亜宇宙戦術空母群の司令官、次に軌道フリゲート艦隊の司令官」
キンゼイ艦長「…はい」
リンダ「…はい」
エレノア「そしたら国連軌道宇宙軍幕僚長になって、国連月宇宙軍に戦争仕掛けて勝利、
人類初の、統合国連宇宙軍幕僚長になるの」
キンゼイ艦長「ありがとうございました」
リンダ「ありがとうございました」
目を白黒させるカオル達、16歳の少女の壮大な夢に気圧された艦長とリンダ。
言い出した本人のエレノアは、言い終えてスッキリしたのか、席に座り、
テーブルの上に教科書とノートを広げ始める。
「ぽかああん」とした空気が漂う食堂
我に返ったキンゼイ艦長が、最後の回答者であるカオルに視線を向ける。
カオルは無言のまま身を乗り出し、「俺は答えるぜ!」「俺は答えるぜ!」と、
瞳を爛々と輝かせ、キンゼイ艦長に、早く質問して来いと要求している。
それがやけに可愛く見えたのか、艦長は微かに吹き出しながら、いよいよカオルに質問した。
キンゼイ艦長「ムナカタ君は確か、船外作業員希望だったね」
カオル「はい♪」
(*´ω`*)オッシャルトオリ
キンゼイ艦長「行く行くは…強化外骨格式船外作業服、
(Powered Exoskeleton EVA)ピーヴァに乗りたいと思うかね?」
カオル「いやもう!それに乗りたいが為の奨学コース!PEEVAパイロットになりたいです」
キンゼイ艦長「そうか、なるほど(笑)」
あまりにも真っ直ぐなカオルの熱意にあてられ、苦笑するしか無い艦長。
しかし、艦長は直ぐに表情を変え、今まで見せた事の無い、真剣な眼差しでカオルを見詰める。
まるで、「男対男の勝負」の様な、冗談の付け入る隙さえ無い顔で、カオルに問い掛けたのだ。
キンゼイ艦長「近年、PEEVAの大型化が進んでる。もちろんそれは、パイロットの生命維持を目的としていない。
君も知ってるだろう?PEEVAの武装化が進み、船外活動と言う基本概念が、局地戦兵器に変わりつつある事を」
カオル「宇宙船、航宙艦のメンテナンスを行う為の船外活動。
その船外活動の作業時間と作業環境と、いざと言う時の生命維持の飛躍的な向上を目指した形。それがPEEVA」
キンゼイ艦長「うむ。そのPEEVAが、兵器として脚光を浴び、着々と重武装化され、実戦配備が行われている」
キンゼイ艦長は、飲むタイミングを失っていたコーヒーを「ごくり」と一口喉に入れる。
カオルと、カオルと艦長の会話に傾聴していた仲間達は、艦長の言葉がどう続くのか、無言で艦長を見詰めている。
キンゼイ艦長「船乗り達の命を守る為の船外活動員が、今度は人を殺す為に、宇宙空間を突撃して行く。
ムナカタ君、君がもし念願かなってPEEVA乗りになったとして、人を殺せと命令を受けたら、それでもPEEVAに乗るかね?」
元々が、この奨学コースを主催して、教育実習を進めているのは国連軌道宇宙軍である。
地球軌道上に展開される各【国家】が出資する、れっきとした軍隊である。
軍隊である以上、紛争や戦争に対して、能動的に機能しなければならないと言う「大前提」を巧みに無視し、
キンゼイ艦長はカオルに「人を殺せるか?」と、問うたのだ。
一瞬の沈黙
カオルの表情はそのまま。いつも通りの「天然入りまくりの、すっとぼけキャラ」のまま。
しかし、人殺し組織のクセに、人を殺すのかと聞いて来たキンゼイ艦長を「ずるい質問だ!」と、責めたりはせず、
カオルはカオルなりに誠意を込めて答える。
カオル「…国連軌道宇宙軍に属する限り、どんな部所にいようと、
いざ戦争が起きれば、直接的・間接的に、殺人に関わり合う事になるのだと思います。組織全体で」
キンゼイ艦長「ふむ」
カオル「だったら、僕は最前線に出たいです。僕が大活躍すればするほど、仲間の命が助かっていく。
仲間を絶対に見捨てない、仲間を絶対に殺させない。それが、PEEVA乗りを目指す、僕の覚悟です」
途中から自分の言葉に照れ始めたのか、
カオルは顔を真っ赤に染め上げながら、頭をポリポリとかいている。
ショーン「…カオル、お前が撃墜王とか」
ミカ「まるっきりイメージわかないんだけど(笑)」
カオル「な、なんだよ…僕変な事言ったか?」
エレノア「ふふふ、カオルは撃墜王を目指すのね」
カオル「えっ?えっ?」
エレノア「いいわ、私の艦隊に置いてあげるから、良い仕事しなさいな」
目が点になるショーンとミカ。
エレノアのスカウトに、「何十年先の話だよ…」と、ぶつぶつと独り言を呟くカオルに、
席を立ったキンゼイ艦長が歩み寄る。
ぽん、と、
カオルの肩に自分の右手を乗せ、振り返るカオルに穏やかな笑みを見せながら、
キンゼイ艦長「ムナカタ君、君は良いやつだな」
カオル「…艦長?」
キンゼイ艦長「君がその気持ちを持ち続ける限り、必ず道は開ける。
そして君の歩む道には、君を慕う仲間達が続々と集う事になると思うよ」
ぽんぽん
もう一度、カオルの肩を軽く叩きながら、「コーヒー御馳走様」とリンダに伝え、キンゼイ艦長は食堂を出て行く。
その後ろ姿を、無言で見詰めるショーンやミカ。
カオルは一人頬を染めながら…キンゼイ艦長の言葉を噛み締めながら、
艦長の背中を見送る。
キンゼイ艦長「あ、そうだ♪」
わざとらしく…
艦長は何かを思い出したかの様に立ち止まり、カオルに向かい、振り向きながら問い掛けた。
キンゼイ艦長「どんどんと武装化され、組織化される強化外骨格式船外作業服部隊。
宇宙戦闘機を凌駕する機動性と、豊富な武器量。今後、戦闘の主力は武装PEEVA。武装PEEVAの時代がこれから来る」
カオル「…はい」
キンゼイ艦長「そこでだ、君達奨学生に提案がある♪」
ショーン「はい?」
ミカ「えっ?」
エレノア「…?」
カオル「をを?」
リンダ「艦長?」
キンゼイ艦長はおどけながら、少年少女達にとって、衝撃的な提案を持ちかけたのだ。
キンゼイ艦長「太陽嵐の安全宣言が出ても、スケジュール的にはもう、
このままコロニー3【中京】に戻るしかない」
エレノア「まあ、そうでしょうね」
キンゼイ艦長「だがしかし、たまたま…この大気圏に滞在している、
国連軌道宇宙軍所属の船が、本艦以外にもう一隻ある」
ミカ「もう…一隻?」
キンゼイ艦長「今年度の奨学生…教育実習生がたったの4人。
最初は私もがっかりしたが、君達はなかなかに、見所のある子達だ」
カオル「なんかむずかゆいです」
キンゼイ艦長「そこで君達に、内緒で見せたい物がある」
エレノア「…早く結論を」
キンゼイ艦長はエレノアのツッコミに苦笑する。
「ごめん、ごめん」とおどけながら、艦長は急に、真剣な顔付きに変わる。
一瞬で、艦長が表情を変えただけで、食堂内の空気が「ピリッ」と引き締まった。
キンゼイ艦長「強化外骨格式船外作業服…PEEVA。内密にはもう、一年前から武装PEEVAも呼び方が変えられ、
【武装強化外骨格 APE】エイプと呼称されている。
そして今、その新世代の局地戦兵器エイプが、大気圏突入訓練と、自由落下訓練を行っている。見たくないかね?」
ミカ「うわはっ♪」
エレノア「APEでエイプ、 (類人猿)なんて…ベタ過ぎるわね」
カオル「見たい!艦長…見たいですっ♪」
ショーン「俺もだ!艦長俺もAPEを見たい!」
リンダ「よろしいのですか?艦長」
艦長はカオル達の反応に満足しながら、再び背中を向けて扉に向かう。
最後に一言、「先方との段取りがついたら、操舵室へ呼ぶ。それまで良い子にしてるんだぞ」と、言いながら、
食堂から去って行った。
それから数秒
静まり返った食堂内に、爆発的に広がる会話の嵐。
喜びにわくカオル達
【最新鋭】の兵器APEをテーマに、喧々囂々と勉強もそっちのけでの、
熱い議論が始まっていた。
ただ、この時点でカオル達は気付いていなかった。
外骨格式船外作業服PEEVA、そして武装強化外骨格APE。
どちらも、宇宙空間においての作業を、主たるコンセプトに開発された作業機械・兵器であるのに、
何故わざわざコンセプトを無視して、「大気圏突入訓練」が行われるのか。
そして、何故わざわざ自由落下訓練が行われるのか。
それが
その理由を、カオル達が知るまでには、まだしばしの時間と月日を費やせねばならなかった。




