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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
グラビティ・ブースト編
69/77

【チーム・なかよし】




『グラビティ・ブースト四日市店』店内。

オープン初日とあって、老若男女様々な一般客でごった返している。


サーキットコースは全部で5つ。初級者用からプロ専用グランプリコースまでを取り揃えた、

近年まれに見る大型スポーツ施設。


巨大な空間に、透明な強化プラスチックで作られたサーキットコース。

それを間近に見れるスタンド兼休憩所に今、カオル達はいる。




全員、貸し出されたグラビティ・ブースト専用の、プロテクタースーツを着て、汗びっしょりだ。


プロテクタースーツとは、グラビティ・ブーストをプレイする際の、基本的な服装…装備で、

弾力性のある特殊ラバースーツが身体のラインにぴったりとフィットし、

肘や膝、拳などに柔らかな素材のプロテクターがついている。


無重力状態で、人間の身体一つで行うスポーツである為、プレイヤーが壁に激突したり、

プレイヤー同士が激突しても、ケガを起こさない安全な設計となっている。




ショーン「いやああ、暑い暑い」




ミカ「通気性悪いわね、このスーツ」




エレノア「私…バテバテ、もう充分」




カオル「みんな!冷たい飲み物買って来たよ♪」




両手いっぱいにチューブ飲料を抱え、やって来るカオル。

笑顔は笑顔なのだが、何かしら無理をしている様な、ぎこちない笑顔。

だがしかし、カオルのその無理をした笑顔を見て、仲間達は何も言わない。

気遣いもしなければ、突き放したりもしない。

以前の様なカオルとの距離感を保ち、早くカオルがその領域に「戻って来る」事を、願うだけなのだ。




恭香「うわぁ、カオル君…ありがとう♪」




カオル「メリルさんのおごりなんだけどね(笑)」




はにかむカオル。


何とか、カオル自身も、メリルとのわだかまりを捨て、

新しい保護者との関係を構築しようと、努力を始めた様だ。




ヒロノブ「いやはや、さすがに日頃の無重力訓練とは違う」




カスミ「これほど全身を使うとは思わなかった」




エレノア「これでもまだ、初心者コースよ…」




ショーン「そうだ!休憩が終わったら、今度は中級者コースで、チーム組んで、タイムアタックやろうぜ」




ミカ「ひいい…」




ショーンの提案で、カオル達がタイムアタックに挑もうとしていた頃。

場所はグラビティ・ブースト四日市店事務局の事務所。


受付にはメリル特務中佐の姿があり、奥からは管理職らしき壮年の男性が慌てて応対にあたっている。


「統合宇宙軍、情報保全部の…メリル特務中佐様」




メリル「はじめまして、店長さん♪」




メリルの手帳の様な、統合宇宙軍認識カードをまじまじと見詰める、グラビティ・ブーストの店長。




店長「あ、あの…情報保全部の方が、うちにどの様なご用が…?」




普通の軍人でも無く、軍警察でも無く、いきなり現れた情報保全部のメリルに、店長は脅えている。




メリル「諜報活動の一環で、若者達の身体能力のデータ収集をしております」




店長「は、…はい」




メリル「本日この店に、【TEAM・GALAXY】が来店され、【TEAM・GALAXY】と対戦するイベントがあると伺いました。

つきましては、我々の用意した調査対象の若者達と、対戦させて頂きたいのですが」




店長「そ、そのイベントは…申し訳ありません。既に厳正なる抽選の結果、出場チームは3チーム決まっておりまして」




メリル「じゃあ、4チーム目にお願いします♪」




店長「いや、あのぉ…」




メリル「そうだわ!時間的に無理があるなら、その3チームの内1チームを、我々の調査対象と入れ替えしましょう♪」




ニコニコしながら、恐ろしい要求を突き付けるメリル。しどろもどろの店長に、一切の容赦は無い。




店長「申し訳ありません…既に決まった…事なので」




メリル「予定変更など、世の中いくらでもある話よ♪【この先の話】を、私にさせたくないなら、今の内に決断する事ね、店長さん♪」




店長「こ…この先の話!?」




メリル「ほら、良くある話でしょ?情報保全部への協力を拒み、行方不明になっていた人物が、

地球軌道を生身で周回してて、ミイラで発見されたとか(笑)」




店長「ひいいっ!」




メリル「お互いの良好な関係の為、店長さんのベストな判断を期待していますね♪」




「せっかくカオルを中心に、仲間達が集まったんだ。今の内に良い思い出をたくさん作って欲しい」

今のメリルは、その為にならどんな手段をも行使する、レイコ以上の親バカになっていた。




その頃、グラビティ・ブースト中級者コースでは…




ショーン「ぶはぁ!ぶはぁ!」




ミカ「ひゅ~…、ひゅ~…」




エレノア「ダメ…もうダメ…」




カオル「はあ…はあ…!じゅ、順位は?」




1チーム4人で競われるタイムアタック。

まずは、ショーン、ミカ、エレノア、カオルで出した結果が、

中級者コースの電光掲示板に表示される。




ヒロノブ「ああ…75位かあ」




カスミ「でも、210組中の順位だから、それほど遅くも無い。落ち込む様な問題じゃないわ♪」




ミカ「落ち込むより早く…酸欠で撃沈しそう」




恭香「み、みなさんお疲れ様。タオル…使って♪」




カオル「恭香、ありがとう♪」




ショーン「カオル…」




カオル「うん?」




ショーン「お前、体力大丈夫か?」




カオル「この15分休憩出来れば、復活出来るよ♪」




エレノア「…タフねえ…」




そう、1チーム4人でタイムアタックを行う以上、カオル達はメンバーが不足しているのだ。

後半の美田園恭香とレイモンド姉弟の3人プラス、カオルの計4人。

APEパイロットの4人で、次のタイムアタックに挑もうとしていた。




カスミ「えっと、手をつないでカーブで放り投げて貰うのは…スイングバイ。

仲間の肩や手を踏み台に飛ぶのはタッチ&ゴー」




ヒロノブ「あはは、姉さん、そんな技の名前だけ覚えても(笑)」




カスミ「おだまり!せっかくプレイするなら、クールに決めたいじゃない。クールに!」




カオル「カスミ、クールに決めたい割には、激しく涙目だよ(笑)」




爆笑する仲間達


そう、いつの間にか、カオルは仲間全員の事を、「君」や「さん」を付けず、爽やかに呼び捨てしている。




ヒロノブ「さて、そろそろ僕らの順番です。作戦は、さっきの手はず通りで良いですか?」




カオル「うん、変更無しで行こう。先頭の恭香は、とにかくぶっちぎる。2番手3番手のカスミとヒロノブでポイントを取る」




恭香「そして…最後尾のカオル君が、押し上げる」




カスミ「任せて、みんなに恥はかかせないわよ」




恭香「わ、私も…頑張る♪」




グラビティ・ブースト

チーム・タイムアタック


4人1組でチームを組み、サーキットを5周してタイムを競う。

4人全員がゴールした時点のタイムを基準とする為、最後尾のプレイヤー以外は、何周しても良い。


無重力空間で仲間を投げたり、踏み台にして飛んだり、いち早く最後尾のプレイヤー以外が周回し、

最後尾のプレイヤーに合流して、徹底的に底上げして時間を短縮するのが、

このタイムアタックの醍醐味である。




グラビティ・ブースト中級者コース、サーキット内。

スタートグリッドの手すりに掴まる、カオル、恭香、カスミ、ヒロノブ。

赤ランプの下の秒数ゲージが、いよいよカウントダウンを開始した。




ヒロノブ「しかし…(笑)」




カスミ「一体誰が登録したのよ、【チーム・なかよし】って(笑)」




恭香「ご、ごめん…わ、私…」




カオル「恭香らしいよ(笑)僕達仲良しで良かったじゃないか」




恭香「うんっ♪」




5秒前…




ショーン「頑張れよ!」




ミカ「カオル、無茶しないで!」




エレノア「みんな、カオルに抱きついちゃダメよ!」




熱い(?)声援を受け、赤ランプは緑ランプに変わる。




カオル「Go!!」




カスミとヒロノブが、宙に浮いた恭香の足を引っ張り、自分達の肩に恭香の足を添える。




ヒロノブ「ジャンプ、今っ!!」




カスミ「行け!」




恭香「ひいいぃぃ…!!」




恭香のジャンプ力と、レイモンド姉弟の屈伸力が重なり、

力強い慣性を得た恭香は、物凄い勢いで小さくなって行く。




ヒロノブ「ムナカタさん!」




カスミ「カオルさん!」




カオル「うしっ!!」




今度は、抱き合ったレイモンド姉弟が、カオルの両肩に足を添える。




カオル「行っけえええっ!!」




手すりを足がかりに、カオルの屈伸でレイモンド姉弟がジャンプ。

そして、手すりからカオルがジャンプ。


全員がサーキットに躍り出た。




恭香はとにかく前へ前へ。

ポイントは全て無視し、最後尾のカオルに少しでも近付く為にサーキットを「泳ぐ」。


抱き合ってスタートしたレイモンド姉弟は、お互いを引き離すように角度をつけて分離し、

ポイント狙いのギザギザ飛行を始める。




ピンポーン!


「2秒マイナス!」




ピンポーン!


「3秒マイナス!」




ショーン「おお、順調じゃないか♪」




サーキット内の壁に仕込まれ、様々な色に点滅するランプ、そのポイント板を叩くと、色によって点数が入る。

「秒数、マイナス」とは、そのチームがゴールした際のタイムから、ポイント秒数を差し引く事の出来る、

狙えば狙うほどタイムが縮む、レースを優位に運ぶシステムである。




ミカ「恭香ちゃん、頑張れぇ!」




最後尾のカオル。最後尾のポジションは「スイーパー(掃除係)」と呼ばれ、

2番手、3番手の「ポイントマン」が遅れを取らない様に、常に後方に位置して、無重力ジャンプを手助けする役目だ。




カオル「カスミ、次3番コーナーまで飛んで!」




カスミ「タイミング合わせて!」




慣性を利用して、カスミに突っ込むカオル。向かって来たカオルの両肩に上手く両足を乗せ、

二段ロケットの様な具合に、カオルの両肩を踏み台に、カスミは再び大ジャンプ。




ヒロノブ「ムナカタさん!」




先にコーナーのポイントをゲットしたヒロノブ、

軌道の変更をカオルに求め、カオルを踏み台にしようとアピールしている。




エレノア「チームワーク…良いね」




ミカ「何気に様になってるわよねえ」




感心するエレノア達。




ショーン「恭香もしゃかりきになって進んでるぞ、もう後3分の1でカオルの後ろに到達する♪」




どんどんと周回遅れのカオル達に近付く恭香。

カスミとヒロノブのポイントゲットに、底上げするカオル。




恭香「か、カオル君!!!」




カオル「おっ、恭香が来た!カスミ、次は君の番だ!」




カスミ「了解!」




ポイントゲットを中止するカスミ、カスミと恭香の直線上に位置取るカオル。

カオルに向かって突進する恭香。


そう、先行して周回した恭香に続き、次はカスミを先行させ、その次はヒロノブ。

最後に最後尾のカオルをみんなで押し上げ、より早いタイムを狙う。


このチームプレイが、グラビティ・ブーストのタイムアタック・チーム戦の醍醐味なのだ。




カスミ「カオルさん!」




カオル「オッケー!恭香、来い!!」




カオルの両肩に足を乗せ、体を縮めるカスミ。

カオルは両足を開き、縮め、勢い良く突っ込んで来る恭香の肩に狙いを定める。

恭香とカオル、そしてカスミの、三段ロケットジャンプを狙っているのだ。




恭香「かっ、カオル君…いっくよおお!」




カスミはカオルの肩に乗り、恭香は真っ直ぐこっちに飛んで来る。

全て順調…三段ロケットジャンプは、成功するかに見えた。


しかし、慣性移動中、一番難しいのは「静止」。


カオルの両肩に乗って、身体を縮めていたカスミが、耐えきれなくなったのか、

微妙に身体を揺らし、姿勢の修正を始める。




カオル「あっ!あっ!カスミ動かないで!」




カスミ「ごっ、ごめんなさい!」




無重力状態下で、カスミの微動作が、カオルに大きく影響する。

カオルはバランスを取ろうと、足を開いてバタつかせ始めたのだ。




恭香「か、カオル君!?」




両手でカオルの足の裏を掴もうと、手を広げていた恭香。

バタつくカオルの足に、まるで照準が合わない。




恭香「あっ!あっ!危ない!!!」




ショーン「危ない!」




ミカ「衝突する!!」




ゴチーン!!!!




恭香「ふぎゃ!」


カオル「ひいいっ!」


カスミ「あんっ!!」




カオルの両足を掴むはずの恭香。見事狙いは外れ、猛スピードカオルの両足の隙間を縫い、

恭香の顔面は、カオルの股関にめり込む。

そして、恭香の顔面が股関にめり込んだカオルは、恭香の慣性をそのままカスミに伝える様に、

カスミの股関に、顔面をめり込ませたのだ。




三段ロケットジャンプ失敗。

変わりに、串刺しの団子が完成してしまった。




ヒロノブ「あれは痛い…」




エレノア「同情はしたいのだけれど…」




ショーン「エロ痛々しいとは…この事か」




真っ赤な顔を手で隠して、うずくまりながら浮遊する恭香。

股関を押さえながら、やはりうずまって浮遊するカオルとカスミ。




『インジャリー・タイム!』




監視員が負傷による中断を宣言。


周囲は爆笑の渦


うずくまったままのカオル達はリタイア。


コースを退場したカオル達は、ショーン達に引っ張られ、恥ずかしそうに退場していった。





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