【チーム・なかよし】
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『グラビティ・ブースト四日市店』店内。
オープン初日とあって、老若男女様々な一般客でごった返している。
サーキットコースは全部で5つ。初級者用からプロ専用グランプリコースまでを取り揃えた、
近年まれに見る大型スポーツ施設。
巨大な空間に、透明な強化プラスチックで作られたサーキットコース。
それを間近に見れるスタンド兼休憩所に今、カオル達はいる。
全員、貸し出されたグラビティ・ブースト専用の、プロテクタースーツを着て、汗びっしょりだ。
プロテクタースーツとは、グラビティ・ブーストをプレイする際の、基本的な服装…装備で、
弾力性のある特殊ラバースーツが身体のラインにぴったりとフィットし、
肘や膝、拳などに柔らかな素材のプロテクターがついている。
無重力状態で、人間の身体一つで行うスポーツである為、プレイヤーが壁に激突したり、
プレイヤー同士が激突しても、ケガを起こさない安全な設計となっている。
ショーン「いやああ、暑い暑い」
ミカ「通気性悪いわね、このスーツ」
エレノア「私…バテバテ、もう充分」
カオル「みんな!冷たい飲み物買って来たよ♪」
両手いっぱいにチューブ飲料を抱え、やって来るカオル。
笑顔は笑顔なのだが、何かしら無理をしている様な、ぎこちない笑顔。
だがしかし、カオルのその無理をした笑顔を見て、仲間達は何も言わない。
気遣いもしなければ、突き放したりもしない。
以前の様なカオルとの距離感を保ち、早くカオルがその領域に「戻って来る」事を、願うだけなのだ。
恭香「うわぁ、カオル君…ありがとう♪」
カオル「メリルさんのおごりなんだけどね(笑)」
はにかむカオル。
何とか、カオル自身も、メリルとのわだかまりを捨て、
新しい保護者との関係を構築しようと、努力を始めた様だ。
ヒロノブ「いやはや、さすがに日頃の無重力訓練とは違う」
カスミ「これほど全身を使うとは思わなかった」
エレノア「これでもまだ、初心者コースよ…」
ショーン「そうだ!休憩が終わったら、今度は中級者コースで、チーム組んで、タイムアタックやろうぜ」
ミカ「ひいい…」
ショーンの提案で、カオル達がタイムアタックに挑もうとしていた頃。
場所はグラビティ・ブースト四日市店事務局の事務所。
受付にはメリル特務中佐の姿があり、奥からは管理職らしき壮年の男性が慌てて応対にあたっている。
「統合宇宙軍、情報保全部の…メリル特務中佐様」
メリル「はじめまして、店長さん♪」
メリルの手帳の様な、統合宇宙軍認識カードをまじまじと見詰める、グラビティ・ブーストの店長。
店長「あ、あの…情報保全部の方が、うちにどの様なご用が…?」
普通の軍人でも無く、軍警察でも無く、いきなり現れた情報保全部のメリルに、店長は脅えている。
メリル「諜報活動の一環で、若者達の身体能力のデータ収集をしております」
店長「は、…はい」
メリル「本日この店に、【TEAM・GALAXY】が来店され、【TEAM・GALAXY】と対戦するイベントがあると伺いました。
つきましては、我々の用意した調査対象の若者達と、対戦させて頂きたいのですが」
店長「そ、そのイベントは…申し訳ありません。既に厳正なる抽選の結果、出場チームは3チーム決まっておりまして」
メリル「じゃあ、4チーム目にお願いします♪」
店長「いや、あのぉ…」
メリル「そうだわ!時間的に無理があるなら、その3チームの内1チームを、我々の調査対象と入れ替えしましょう♪」
ニコニコしながら、恐ろしい要求を突き付けるメリル。しどろもどろの店長に、一切の容赦は無い。
店長「申し訳ありません…既に決まった…事なので」
メリル「予定変更など、世の中いくらでもある話よ♪【この先の話】を、私にさせたくないなら、今の内に決断する事ね、店長さん♪」
店長「こ…この先の話!?」
メリル「ほら、良くある話でしょ?情報保全部への協力を拒み、行方不明になっていた人物が、
地球軌道を生身で周回してて、ミイラで発見されたとか(笑)」
店長「ひいいっ!」
メリル「お互いの良好な関係の為、店長さんのベストな判断を期待していますね♪」
「せっかくカオルを中心に、仲間達が集まったんだ。今の内に良い思い出をたくさん作って欲しい」
今のメリルは、その為にならどんな手段をも行使する、レイコ以上の親バカになっていた。
その頃、グラビティ・ブースト中級者コースでは…
ショーン「ぶはぁ!ぶはぁ!」
ミカ「ひゅ~…、ひゅ~…」
エレノア「ダメ…もうダメ…」
カオル「はあ…はあ…!じゅ、順位は?」
1チーム4人で競われるタイムアタック。
まずは、ショーン、ミカ、エレノア、カオルで出した結果が、
中級者コースの電光掲示板に表示される。
ヒロノブ「ああ…75位かあ」
カスミ「でも、210組中の順位だから、それほど遅くも無い。落ち込む様な問題じゃないわ♪」
ミカ「落ち込むより早く…酸欠で撃沈しそう」
恭香「み、みなさんお疲れ様。タオル…使って♪」
カオル「恭香、ありがとう♪」
ショーン「カオル…」
カオル「うん?」
ショーン「お前、体力大丈夫か?」
カオル「この15分休憩出来れば、復活出来るよ♪」
エレノア「…タフねえ…」
そう、1チーム4人でタイムアタックを行う以上、カオル達はメンバーが不足しているのだ。
後半の美田園恭香とレイモンド姉弟の3人プラス、カオルの計4人。
APEパイロットの4人で、次のタイムアタックに挑もうとしていた。
カスミ「えっと、手をつないでカーブで放り投げて貰うのは…スイングバイ。
仲間の肩や手を踏み台に飛ぶのはタッチ&ゴー」
ヒロノブ「あはは、姉さん、そんな技の名前だけ覚えても(笑)」
カスミ「おだまり!せっかくプレイするなら、クールに決めたいじゃない。クールに!」
カオル「カスミ、クールに決めたい割には、激しく涙目だよ(笑)」
爆笑する仲間達
そう、いつの間にか、カオルは仲間全員の事を、「君」や「さん」を付けず、爽やかに呼び捨てしている。
ヒロノブ「さて、そろそろ僕らの順番です。作戦は、さっきの手はず通りで良いですか?」
カオル「うん、変更無しで行こう。先頭の恭香は、とにかくぶっちぎる。2番手3番手のカスミとヒロノブでポイントを取る」
恭香「そして…最後尾のカオル君が、押し上げる」
カスミ「任せて、みんなに恥はかかせないわよ」
恭香「わ、私も…頑張る♪」
グラビティ・ブースト
チーム・タイムアタック
4人1組でチームを組み、サーキットを5周してタイムを競う。
4人全員がゴールした時点のタイムを基準とする為、最後尾のプレイヤー以外は、何周しても良い。
無重力空間で仲間を投げたり、踏み台にして飛んだり、いち早く最後尾のプレイヤー以外が周回し、
最後尾のプレイヤーに合流して、徹底的に底上げして時間を短縮するのが、
このタイムアタックの醍醐味である。
グラビティ・ブースト中級者コース、サーキット内。
スタートグリッドの手すりに掴まる、カオル、恭香、カスミ、ヒロノブ。
赤ランプの下の秒数ゲージが、いよいよカウントダウンを開始した。
ヒロノブ「しかし…(笑)」
カスミ「一体誰が登録したのよ、【チーム・なかよし】って(笑)」
恭香「ご、ごめん…わ、私…」
カオル「恭香らしいよ(笑)僕達仲良しで良かったじゃないか」
恭香「うんっ♪」
5秒前…
ショーン「頑張れよ!」
ミカ「カオル、無茶しないで!」
エレノア「みんな、カオルに抱きついちゃダメよ!」
熱い(?)声援を受け、赤ランプは緑ランプに変わる。
カオル「Go!!」
カスミとヒロノブが、宙に浮いた恭香の足を引っ張り、自分達の肩に恭香の足を添える。
ヒロノブ「ジャンプ、今っ!!」
カスミ「行け!」
恭香「ひいいぃぃ…!!」
恭香のジャンプ力と、レイモンド姉弟の屈伸力が重なり、
力強い慣性を得た恭香は、物凄い勢いで小さくなって行く。
ヒロノブ「ムナカタさん!」
カスミ「カオルさん!」
カオル「うしっ!!」
今度は、抱き合ったレイモンド姉弟が、カオルの両肩に足を添える。
カオル「行っけえええっ!!」
手すりを足がかりに、カオルの屈伸でレイモンド姉弟がジャンプ。
そして、手すりからカオルがジャンプ。
全員がサーキットに躍り出た。
恭香はとにかく前へ前へ。
ポイントは全て無視し、最後尾のカオルに少しでも近付く為にサーキットを「泳ぐ」。
抱き合ってスタートしたレイモンド姉弟は、お互いを引き離すように角度をつけて分離し、
ポイント狙いのギザギザ飛行を始める。
ピンポーン!
「2秒マイナス!」
ピンポーン!
「3秒マイナス!」
ショーン「おお、順調じゃないか♪」
サーキット内の壁に仕込まれ、様々な色に点滅するランプ、そのポイント板を叩くと、色によって点数が入る。
「秒数、マイナス」とは、そのチームがゴールした際のタイムから、ポイント秒数を差し引く事の出来る、
狙えば狙うほどタイムが縮む、レースを優位に運ぶシステムである。
ミカ「恭香ちゃん、頑張れぇ!」
最後尾のカオル。最後尾のポジションは「スイーパー(掃除係)」と呼ばれ、
2番手、3番手の「ポイントマン」が遅れを取らない様に、常に後方に位置して、無重力ジャンプを手助けする役目だ。
カオル「カスミ、次3番コーナーまで飛んで!」
カスミ「タイミング合わせて!」
慣性を利用して、カスミに突っ込むカオル。向かって来たカオルの両肩に上手く両足を乗せ、
二段ロケットの様な具合に、カオルの両肩を踏み台に、カスミは再び大ジャンプ。
ヒロノブ「ムナカタさん!」
先にコーナーのポイントをゲットしたヒロノブ、
軌道の変更をカオルに求め、カオルを踏み台にしようとアピールしている。
エレノア「チームワーク…良いね」
ミカ「何気に様になってるわよねえ」
感心するエレノア達。
ショーン「恭香もしゃかりきになって進んでるぞ、もう後3分の1でカオルの後ろに到達する♪」
どんどんと周回遅れのカオル達に近付く恭香。
カスミとヒロノブのポイントゲットに、底上げするカオル。
恭香「か、カオル君!!!」
カオル「おっ、恭香が来た!カスミ、次は君の番だ!」
カスミ「了解!」
ポイントゲットを中止するカスミ、カスミと恭香の直線上に位置取るカオル。
カオルに向かって突進する恭香。
そう、先行して周回した恭香に続き、次はカスミを先行させ、その次はヒロノブ。
最後に最後尾のカオルをみんなで押し上げ、より早いタイムを狙う。
このチームプレイが、グラビティ・ブーストのタイムアタック・チーム戦の醍醐味なのだ。
カスミ「カオルさん!」
カオル「オッケー!恭香、来い!!」
カオルの両肩に足を乗せ、体を縮めるカスミ。
カオルは両足を開き、縮め、勢い良く突っ込んで来る恭香の肩に狙いを定める。
恭香とカオル、そしてカスミの、三段ロケットジャンプを狙っているのだ。
恭香「かっ、カオル君…いっくよおお!」
カスミはカオルの肩に乗り、恭香は真っ直ぐこっちに飛んで来る。
全て順調…三段ロケットジャンプは、成功するかに見えた。
しかし、慣性移動中、一番難しいのは「静止」。
カオルの両肩に乗って、身体を縮めていたカスミが、耐えきれなくなったのか、
微妙に身体を揺らし、姿勢の修正を始める。
カオル「あっ!あっ!カスミ動かないで!」
カスミ「ごっ、ごめんなさい!」
無重力状態下で、カスミの微動作が、カオルに大きく影響する。
カオルはバランスを取ろうと、足を開いてバタつかせ始めたのだ。
恭香「か、カオル君!?」
両手でカオルの足の裏を掴もうと、手を広げていた恭香。
バタつくカオルの足に、まるで照準が合わない。
恭香「あっ!あっ!危ない!!!」
ショーン「危ない!」
ミカ「衝突する!!」
ゴチーン!!!!
恭香「ふぎゃ!」
カオル「ひいいっ!」
カスミ「あんっ!!」
カオルの両足を掴むはずの恭香。見事狙いは外れ、猛スピードカオルの両足の隙間を縫い、
恭香の顔面は、カオルの股関にめり込む。
そして、恭香の顔面が股関にめり込んだカオルは、恭香の慣性をそのままカスミに伝える様に、
カスミの股関に、顔面をめり込ませたのだ。
三段ロケットジャンプ失敗。
変わりに、串刺しの団子が完成してしまった。
ヒロノブ「あれは痛い…」
エレノア「同情はしたいのだけれど…」
ショーン「エロ痛々しいとは…この事か」
真っ赤な顔を手で隠して、うずくまりながら浮遊する恭香。
股関を押さえながら、やはりうずまって浮遊するカオルとカスミ。
『インジャリー・タイム!』
監視員が負傷による中断を宣言。
周囲は爆笑の渦
うずくまったままのカオル達はリタイア。
コースを退場したカオル達は、ショーン達に引っ張られ、恥ずかしそうに退場していった。




