表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
統合宇宙軍誕生編
68/77

それでも、前に進まなきゃ




日本国コロニーNo.1【東京】で、エリオット・コバヤシ中将と、曽ヶ端誠少将が、応接室で美味い酒に舌鼓を打ち始めた頃。

ここ、日本国コロニーNo.3【中京】では、意を決したメリルが、カオルと、相対していた。


場所はメリルの自宅、時間は夕方。




メリル「ただいま♪」




仕事を終えて帰宅したメリル、手には何か…封筒の様な物を持っている。




カオル「…お帰りなさい」




カオル用に与えられた部屋から、顔を覗かせるカオル。

未だに荷物すらほどかないその部屋で、カオルはただ無為に時間を過ごしていただけだった。


再び顔を引っ込め、自室に籠もろうとしたカオルに、




メリル「カオル、ちょっと待って」




メリルが声を掛ける。




カオル「…何ですか?」




生きているのか、死んでいるのかすら自覚出来ない様な、カオルの曇った瞳。

その瞳に映ったのは、メリルが手にした封筒。




メリル「官舎の入り口にね…、ショーンやミカ、エレノアに美田園恭香、レイモンド姉弟が私を待ってて、

【カオルにこれを渡してくれ】って」




カオル「ショーン…達が?」




メリルに促され、封筒を手に取るカオル。




カオル「…これ…は?」




封筒から取り出したのは、一枚の入場チケットとチラシ。


チラシには目立つ字で、『グラビティ・ブースト四日市店3月31日堂々オープン!

オープニングイベントに【TEAM・GALAXY】来店、君もチームを組んで【TEAM・GALAXY】に挑戦だ!!』


と、書かれている。




思わず、メリルの顔を見上げるカオル。




メリル「明日、10時に入り口で待ってるって♪行ってあげなさい、カオル」




カオル「で、でも…僕は…」




顔に暗い影を落とし、躊躇するカオル。普段のメリルなら、ここで諦めていた。

嫌がるカオル、躊躇するカオルをそれ以上刺激しない様に、簡単に引き下がっていた。

しかし今日のメリルは、引き下がる事をやめて、カオルの心のドアを、強引にこじ開けようとしたのだ。




メリル「行こう、カオル!私も一緒について行ってあげるし、何より…カオルの事が大好きな仲間達が、

あなたを愛する人達が、あなたが来るのを待ってるよ♪」




メリルは思う。


自分が嫌われていようと、亡くなったカオルの母レイコ…フェイシャと自分を比べられて、母親失格の印を押されようと、

今は強引にでも、外に出さなければならない。

そして、母だけがカオルと世界を繋いだのではなく、カオルはもっと、もっとたくさんの人達とつながり、

そして、その人々から愛されているのだと。


愛が終わった訳じゃない、世界が終わった訳じゃないのだと。

それをカオルに知って欲しいのだと。


「すいません、ちょっとだけ考えさせてください」と、自室へと籠ったカオル。

だが、メリルに握られた自分の右手。その右手のぬくもりに、カオルは何か懐かしい、

母との別れで失っていた、何か懐かしい感情を、蘇らせていた。




そして、日付は変わり、当日。

場所は『グラビティ・ブースト四日市店』。


【グラビティ・ブースト】

この時代、宇宙で生きる人類にとって、一番メジャーな娯楽・スポーツである。


無重力条件下の屋内空間において、一周、400メートルのサーキットコースを、

様々な障害物を避けながら、身体だけで無重力遊泳を行い、各ポイントにちりばめられた加点ボタンを押しながら、

タイムと得点を競う競技である。


個人タイムアタック、チームタイムアタック、チームバトルロイヤルアタックなど、

個人でも、チームでも楽しめる競技である。


また、その絶大な競技人口と人気により、

プロチームによるグランプリ競技も、通年開催されている。


『グラビティ・ブースト四日市店』

コロニーNo.3【中京】で、重力の発生しない、ドーナツ型コロニーの中心部分に設営された、巨大な箱型空間。

内部通路との接点には『グラビティ・ブースト四日市店』と、でかでかと看板が掲げられていた。




時間は午前10時




ふわふわと…


入り口の空間で手すりを掴み、不安げな表情で通路を見守る、ショーン達の姿が。

もちろん、視線の先に現れるであろう「ムナカタ・カオル」を待っている。


ショーン・カザマ

ミカ・カートライト

エレノア・シグニス

美田園恭香

カスミ・レイモンド

ヒロノブ・レイモンド


同じ四日市東高校の生徒で、同じ統合宇宙軍の奨学生。

そして、同じ船で訓練航海を体験し、同じ悲劇を垣間見た仲間。




【カオルは必ず来る!】




彼らの目はそう力強く訴えていた。






ヒロノブ「10時…5分」




ショーン「心配するな、カオルは必ず来る」




ミカ「うん、カオルは必ず来る」




一分…また一分過ぎて行く、まるで時間が止まったかの様な、緊迫感漂う張り詰めた空気の中、

コロニーNo.3本体の機密扉が空き、通路を遊泳して来る二つの影が。




エレノア「あっ、ああっ…!」




カスミ「カオル…カオルさんだ!!」




恭香「良かった…ホント…良かった♪」




そう、現れたのはメリル特務中佐と、

彼らが待ち焦がれていた人物、ムナカタ・カオルであった。




「カオルッ!!」




入り口で待たず、ダッシュでカオルの元へ飛んで行く仲間達。

他者の迷惑になりながら抱き合い、天地無用の「団子」状態になってしまった。




カオル「聞いた、全部メリルさんから聞いたよ」




ショーン「聞いた?」




カオル「みんな…ありがとう。赤磐先輩や伊達会長と一緒に、僕が殴った生徒の家へ、

何度も何度も、謝りに行ってくれてたんだね」




ミカ「カオル!」




カオル「学校にも助命嘆願書を…。みんな…ごめん!ありがとう!ありがとう!ありがとう!!」




ショーン「ところで…」




エレノア「この団子状態(笑)」




カスミ「何とかしてぇ!」




恭香「…あん!か、カオル君!…そこ、ダメ!私の…!」




満面の笑みを浮かべ、無重力空間で抱き合うカオル達を見詰めるメリル。


そう、メリルはカオルに話したのだ。

ショーンやミカ達が、カオルが戻って来れる様に奮闘していた事。そして、美田園恭香が罪悪感にさいなまれている事。

【私が死ねば、母レイコは助かったんじゃないか?】と、今でも美田園恭香が苦しんでいると。


そして、メリル自身もカオルに告白し…更に謝罪した。

メリルがずっと持ち続けていた気持ちを、カオルに吐露したのだ。


【私達を助けなけさえしなければ、レイコは助かっていた。本当に申し訳ない】と。




カオルは怒った


「そうじゃない!悪いのは僕だ!」と。



その怒りは、カオル自身が問題を起こしても、誰も自分を責めない、周囲への優しさに向けられていた。


そして、カオルは気付いた。

【みんな、傷付いているのだ】と。


停滞したそれぞれの人の想い、痛み、自責の念。

それらを打ち破ろうと、とりあえず前に進もうと、

カオルはこの場へやって来たのであった。




ショーン「よし、わかったわかった(笑)とりあえず…とりあえず!受付終わらせて遊ぼうぜ!」




カオル「そうだね…そうだね!」




ミカ「チーム【フォックスロット1】再始動だ♪」




エレノア「あ…圧死する」




恭香「か、カオル君!そこ、ダメ…私もうお嫁に行けない…(涙)」




無重力状態の中、肉団子がくるくると回転しながら、受付に向かう…。




カスミ「これ、いい加減何とかならない?(笑)」




ヒロノブ「それでも、前に進まなきゃ…ね(笑)」




恭香「ダメ…カオル君…指動かしちゃ…ああ!」




いよいよ、仲間全員が集まった。


そして、本当の春がやって来た。


今だけは、みんな、そんな瞬間を楽しんでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ