統合宇宙軍、第3軍総司令官、曽ヶ端誠少将
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円筒形コロニー点在する、日本国コロニーNo.1【東京】。
その官舎街に鎮座する、統合宇宙軍日本国総監部。
そのビルの最上階、質素かつ品位漂う応接間に、
統合宇宙軍、統合幕僚会議議長、エリオット・コバヤシ中将がいた。
ゆったりとソファに沈み、コーヒーの香りを静かに楽しむコバヤシ中将。
すると、「バタアンッ!」と扉が開き、壮年の軍人が慌てて入室して来る。
「いやいやいやいや、遅くなって申し訳ありません!」
空調がしっかりと行き届いているビル内。
ちょうど春先にふさわしく、心地よい爽やかな風がビル内を駆け抜けているのに、
慌てて入室して来たこの人物は、額から油の様な汗を滴り落とし、
軍服の前をはだけさせ、扇子であおぎながら入室して来た。
コバヤシ中将「相変わらず多忙な様だね、曽ヶ端君(笑)」
入室して来たのは、「元」国連軌道宇宙軍、日本国総監で、
「現」統合宇宙軍、第3軍総司令官の、曽ヶ端誠少将であった。
曽ヶ端少将「面目ありません(笑)引っ越しの最中だったのですが、予想以上に私物の量がありまして」
そう言いながら、服のボタンを止めつつ、コバヤシ中将に敬礼を行う。
コバヤシ中将は返礼しながら、「気にせんで良いよ、そのままそのまま(笑)」と、
だらしない姿の曽ヶ端少将に、気にせず席を勧める。
コバヤシ中将「すまないね、忙しい時期に」
曽ヶ端少将「何をおっしゃるやら(笑)中将閣下がいるからこそ、軍人不適格者だった私が、
公園の草むしり担当にならず、ここまで来れたのですよ」
コバヤシ中将「中将閣下はやめてくれ(笑)今日はその、退任の挨拶に訪れたのだから」
曽ヶ端少将「私にとっては、中将閣下はいつまでも中将閣下。この御恩は、決して忘れません」
ソファに浅く座りながら、背筋をピンと伸ばし、深々と頭を下げる曽ヶ端少将。
コバヤシ中将「やめたまえ(笑)むしろ頭を下げるのは、私の方だ。
長い間すまなかったね、曽ヶ端君。私が軍に誘いさえしなければ…」
曽ヶ端少将「閣下が誘いさえしなければ…、それこそ私はインチキ伝道師として、世間から袋叩きにされましたよ(笑)」
コバヤシ中将「しかし、その実、曽ヶ端君が信念を貫いたからこそ、人類は最後の希望を手に入れた」
曽ヶ端少将「申し訳ありません。最後の希望も、未だに希望のままで…」
コバヤシ中将「君の信じた道だよ、必ずや希望は実現する。そうじゃないかね?」
曽ヶ端少将「恐縮です」
うかない顔の曽ヶ端少将。
コバヤシ中将は、何故彼の表情に暗雲がたれ込めているのか、
手に取る様に分かっている。
コバヤシ中将「フェイシャを失ったのは確かに痛い。もう…彼女の予言をあてにする事は出来ない」
曽ヶ端少将「はい、彼女がいたからこそ、黙示録の4騎士を揃える事が出来ました。ですが、…まだ足りない」
コバヤシ中将「【ハデス・システム】…か」
曽ヶ端少将「はい、彼女の話が正しければ、ハデス・システムが無ければ、…神格型すら倒せないと」
コバヤシ中将「厳しい…闘いになるな」
曽ヶ端少将「だからこそ、中将閣下には残って頂きたいと」
コバヤシ中将「そういう訳には行かないよ(笑)南極大陸での惨敗は、誰かが責任を取らなければならん。
何とか、統合宇宙軍への道筋を立てた、後は去るのみ。老兵は死なず…そういう事だ」
曽ヶ端少将「…寂しくなりますな」
コバヤシ中将「そうでもないさ。ちゃんと君の為に、道筋はつけておいた」
曽ヶ端少将「私の…為にですか?」
コバヤシ中将「そうだ、君が半生を賭けて積み上げて来たものを、無駄にはしたくない」
スッと立ち上がり、両手を組みながら、窓際に向かうコバヤシ中将。
窓の外に見える景色は、円筒形コロニーの内側、空を中心に上下左右…360度に、
街や森や池がちりばめられている。
コバヤシ中将「ジョシュア・カリー准将と話はつけてある。彼の第1軍と共闘しなさい」
曽ヶ端少将「カリー准将ですか、噂は聞いております」
コバヤシ中将「うむ、南極での屈辱を糧に、彼は今、驚くべき速さで、対【物体E】戦略を構築し始めている。
君が温存させるアポカリプス兵器、そしてカリー准将の作戦遂行能力。これが合わされば、人類はきっと地上に立てる」
曽ヶ端少将「承知しました。必ずや結果を出します」
コバヤシ中将「さてと、固い話は終わりだ。どうだね、一杯♪」
苦笑する、コバヤシ中将と曽ヶ端少将。
公式にはどうあれ、二人が今まで二人三脚であった事が、
この冗談の応酬の様な会話から想像された。
統合宇宙軍、第3軍総司令官、曽ヶ端誠少将
実践派、実務派で、着々と成果を上げるジョシュア・カリー准将とは毛色が違うが、
南極大陸後略戦、敗戦の責任を取って退任する、統合幕僚会議議長、エリオット・コバヤシ中将の、
統合宇宙軍に残す、最後の希望の一つである事は、間違いの無い事実であった。




