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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
統合宇宙軍誕生編
66/77

恭香「私達と会うと心が痛い」




3月も終わりに近付く頃。


国民投票で、コロニー内の気温や風景設定に「四季」を導入した日本では、春真っ盛りとなっている。


ここ、日本国コロニーNo.3【中京】でも、コロニー内の気温は、

冬終わりから徐々に上昇を始め、今では20度を越える暖かさとなっている。


天井のスカイモニターは、春霞に染まった優しい青空が映え、

壁面のモニターには、鮮やかな満開の桜が、風に揺られていた。




市立四日市東高等学校


今は春休み。


4月に新たな一年生を迎えるまでは、一部生徒の為に解放されているだけで、

今は静かに新学期の始まりを待っている。


「一部生徒」

それは、統合宇宙軍の奨学生コースを専攻している生徒の事。

一年の間に、度々訓練航海に出る彼等の為に、遅れがちな通常科目を補填する為の、

補習授業が行われていたのであった。




キーンコーン

カーンコーン…




ある日の夕方


全ての授業が終わり、統合宇宙軍奨学生の生徒達が「わらわら」と家路に急ぐ中、

その生徒達の集団の中に、カオルの友人…ショーン達「いつものメンバー」がいた。




ミカ「伊達会長…元気にやってるかな?」




ショーン「元気も何も、まだ4月にもなってないし(笑)」




エレノア「庸子は相変わらず元気よ。引っ越しの準備も終わって、やる事ないからって、

毎晩私の部屋に来て、勉強の邪魔してる」




恭香「た…楽しそう」




エレノア「庸子は楽しいかも知れないけど、私は良い迷惑」




そう突っぱねているエレノアではあるが、表情からして、心底嫌がっていない事がうかがえる。

エレノアはエレノアで、庸子といられる残り少ない時間を、楽しんでいたのだ。




カスミ「早く…新学期にならないかしら」




ため息混じりにつぶやくカスミ。




ヒロノブ「姉さんは、口を開けばそればっかり」




カスミ「だって…」




ショーン「後もうちょっとの我慢だよ(笑)」




エレノア「うん」




ミカ「そうね、後ちょっと我慢すれば」




恭香「…うん♪」




後ちょっと我慢すれば、新学期になれば、「彼が帰って来る」。

彼らの心の冬も、いよいよ…雪解けが迫っていた。




「それじゃ、また明日」


「バイバイ」


「またねえ」




リニアバスの停留所で別れる仲間達。

ショーン、ミカ、エレノアは、一般住宅エリア行きへ。

恭香、カスミ、ヒロノブの三人は、統合宇宙軍所有の宿舎へ。


リニアバスに乗り込み、釣り革を掴み、発車を待つ恭香、カスミ、ヒロノブ。

車窓から見えるのは、風景とはとても言いづらい、狭いトンネルに壁面の環境風景モニター。


窓に映る自分の姿。


誰よりも…リニアバスに乗車している、子供達よりも、カスミやヒロノブよりも、成人男性よりも、背が高い恭香。

地球重力「1G」環境のコロニーでは無く、生まれた時から、月の「6分1G」重力で育った恭香。

月にいる時は、友達や家族、周囲が全て身長が高く、何ら違和感は無かったのだが、

交歓留学生として訪れた日本国コロニーNo.3【中京】では、徹底的に好奇の目に晒された恭香。


ただでさえ、シャイで人見知りで、引っ込み思案な性格が、好奇の目と、クラスのイジメが原因で、完全に心を閉じてしまっていた。


しかし、そんな冷え切った恭香の心を暖めたのはカオル。


怯える彼女に手を差し伸べ、昼食を共にし、奨学生の仲間達との絆を深める事に協力してくれた。




明るくて、行動的で、多くを語らなくても、素敵な笑顔で場を和ませ、

そして、強靭な意志で訓練と言う試練に挑み、

その躍動感溢れるカオルの姿に誰もが惹かれ、そしてカオルについて行く。


そんな、ムナカタ・カオルに想いを寄せる恭香。

カオルが直立不動で立っても、自分の胸の辺りにカオルの頭がある、

自分が見下ろさなければ、カオルが見上げないと、目すら合わせる事の出来ない相手ではあるのだが、


カオルと過ごした日々を重ねれば重ねるほど、カオルと離れて言葉すら交わせない日々が、重ねれば重ねるほど、

彼に対する想いは、しぼむ事無く、どんどんと育って行く。


そして、必ず彼を想う時に、彼女を襲う極大の罪悪感。

「恭香自身とメリルを助けた代わりに、カオルの母さんは死んだ」

「私が死ねば、カオルの母さんは死ななくて良かった」


そう、恭香はカオルが好きだ。


好きではあるのだが、同時に彼女は、姿を現さないカオルを想えば想うほど、

立ち直れない程に傷ついていた。

ダイヤモンドカッターで、心をザクザクに切りつけられる様に。




恭香「た、多分…カオル君…出て来ない」




カスミ「!?」




ヒロノブ「恭香さん?」




新しい会長に就任した、久遠礼二くおん・れいじ

なかなかに奨学生友の会にも参加しなかったこの生徒が、どんな人物なのかと、

カスミとヒロノブが喧々囂々と議論をしていた時、恭香の口からポツリと漏れたのだ。


もちろん、カスミやヒロノブにとっても、新しい生徒会長よりカオルの今が心配。

二人揃って恭香を見上げる。




カオル「恭香ちゃん。カオルさんが…出て来ないって?」




恭香「え?…いや、あの…」




カスミとヒロノブに向かって言った言葉ではなく、ついつい、独り言をつぶやいてしまった恭香。大いに慌てている。




ヒロノブ「恭香さん、別に姉さんは起こってる訳じゃないです(笑)

多分、恭香さんも分かると思いますが、姉さんも心配なんですよ」




カスミ「恭香さん、教えて。どうして恭香さんが、そう思うのか」




恭香「う、うん…」




もじもししながらも、思った事を声にする恭香。




恭香「カオル君…多分、私達が想像する以上に…傷ついてる。わ、私達とも…顔を合わせたくない…くらいに」




カスミ「…そうね」




ヒロノブ「でも、時間が解決するから、カオルさんが新学期に学校へ来るまで、

僕達もそっとしておこうって」




恭香「うん…、でも、新学期に…カオル君来るって…誰が…決めたの?」




カスミ「!!」




ヒロノブ「なるほど!」




『次は、統合宇宙軍四日市港 (ポート)前、軍港行きのお客様は乗り継ぎです』




車内に案内のアナウンスが響く。

恭香達は、終点「職員官舎エリア」までこのリニアバスに乗車したまま。


プシュウウウ…


停車するリニアバス。扉が開き、ゾロゾロと乗客が降りて行く。

新しく乗客がリニアバスに乗って来る前に、空いたシートに座る三人。




恭香「メリルさんの家に行っても、た…端末に連絡しても…、カオル君…絶対に私達に会おうとしなかったの、私…今なら分かる」




カスミ「教えて、恭香ちゃん」




恭香「私達と…会うと、カオル君…お母さんを、思い出しちゃう」




ヒロノブ「!」




カスミ「私達も、お母さんの最後の記憶につながってる…」




ヒロノブ「そうだね。だからカオルさんは、僕らと連絡すら取ろうとしない」




恭香「わ、私達と会うと心が痛い…から、こ、このままだと…カオル君…学校に来ない」




恭香の言う事も、もっとも…。


沈黙するカスミとヒロノブ。


確かに、カオルが想う、母レイコとの記憶の中で、幼い頃からの甘い記憶は別として、

母が死を迎えた際の鮮烈で残酷な記憶には、国連軌道宇宙軍当時の、ショーン達奨学生の姿も盛り込まれている。

母の死に際を思い出せば、ショーン達の仲間も思い出す。

その逆に、ショーン達仲間を思い出せば、母の死も思い出してしまうのだ。




カスミ「でも、それが分かったからって…、私達どうすれば良いのよ」




うつむくカスミ


三人共に、満員のリニアバスの中、長椅子に座り、

妙案も浮かばないまま、うつむく。




ヒロノブ「でも、奨学生を辞退するには、高い違約金が必要になるんじゃ?」




カスミ「バカね、カオルさんのお母様の遺族年金があるでしょ」




恭香「カオル君…元気になって欲しい。そうじゃないと、私が…つぶれちゃい…そう」




とうとう、鼻声になる恭香。

このままでは、人目もはばからずに号泣しそうな勢いだ。




「どうしたものか…」




途方に暮れる三人の中で、ふと、

ヒロノブが天井からぶら下がっているADモニター(アド=広告モニター)に視線をやる。


すると




ヒロノブ「…!!」




ヒロノブの脳裏に、何かが閃く。




ヒロノブ「これだ、これこれ♪これでカオルさんを引っ張り出したら!」




カスミと恭香に対し、ヒロノブが指を差し示す。




カスミ「ええっ!?」




恭香「ど、どうするのぉ?」




驚くカスミと恭香。ヒロノブが指差す方向、ADモニターには、


『グラビティ・ブースト四日市店 3月31日堂々オープン!

オープニングイベントに【TEAM・GALAXY】来店、

君もチームを組んで【TEAM・GALAXY】に挑戦だ!!』


と、表示されていた。

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