第二次強行偵察作戦 後編
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フライシャー大佐『人間型接敵まで3分!ミハイリニシコフ大尉、状況は?』
ミハイリニシコフ大尉『順調です、海岸線まで、後100m!
エッカー軍曹!左翼はもう良い、強襲揚陸艇に乗り込め!撤退、ブローバック!ブローバック!』
部下達に指示を出しながら、CICのフライシャー大佐と交信するミハイリニシコフ大尉。
大尉の言葉通り、作戦は順調で、人間型【物体E】の強襲前に、どうやら作戦は完了。
先行していたAPEも、1機は大気圏外へ脱出。残りの2機は、輸送艦ミシシッピに収容された。
後は、海岸線の動物型【物体E】が、海に入るか入らないか…。
輸送艦ミシシッピのCIC、機械化装甲歩兵小隊、情報を知る事の出来る兵士達全てが、
固唾を飲んで見守っている。
ドンドンドンドンッ!!!!
ドンドンドンドンッ!!!!
無数の連射型グレネードライフルが火を吹き、辺り一面が爆炎に包まれる中、
いよいよ機械化装甲歩兵小隊も、完全撤退の準備を始める。
ミハイリニシコフ大尉『よ~し!全員撤退だ!強襲揚陸艇に乗り込め!終了!終了だっ!!』
全てが順調で、いよいよもって、【物体E】の特性が、明るみになろうとしていた時、
モニターにかじりついて、動物型【物体E】の動向を見定めようとしていたカリー准将の耳に、
輸送艦ミシシッピの観測所からCIC内に向け、驚くべき報告がもたらされる。
『こちら観測所!こちら観測所!』
フライシャー大佐「フライシャーだ、何事か!?」
CIC内のスピーカーを通じて入って来る、観測員の声が、半端では無い程の緊張に満ちている。
観測員『神格型発見!2:30の方向に神格型が出現しました!!』
フライシャー大佐「何だとっ!?」
カリー准将「馬鹿を言え!ミシシッピでも、衛星でも神格型は捉えていない!」
慌てて手元の「ごつい」通話器を手にするカリー准将。
カリー准将「観測所、カリー准将だ。出現の詳細を報告せよ!」
観測員『目視です、目視っ!!!!高度2千、当艦との距離推定8千、こちらに向かって来ます!』
フライシャー大佐「赤外線も、動体感知にも反応無く、いきなり…!?」
カリー准将「撤退命令、撤退だ!」
観測員『神格型、どんどん接近して来ます、距離5千!』
カリー准将「【物体E】も進化しているとは聞いた。だが、…レーダーにヒットしない隠密性は脅威だぞ」
フライシャー大佐「ミハイリニシコフ大尉、収容状況はどうか!?」
『こちらミハイリニシコフ!強襲揚陸艇への乗り込み完了、海岸線に【四本足】を残し、
現在ミシシッピに向かってます!』
フライシャー大佐「観測所!神格型も観測しつつ、海岸線の四本足もしっかり撮影頼むぞ!」
観測員『観測所了解!』
あわただしく言葉が飛び交う、ミシシッピCIC。
カリー准将「フライシャー大佐、ブリッジに大気圏脱出を進言しろ、大至急だ!」
フライシャー大佐「こちらCIC、フライシャー大佐です。神格型が接近中!撤退を進言します。
はい、緊急大気圏脱出です!」
カリー准将「それで良い。今は派手にドンパチするよりも、耐え忍んで敵の攻略法を探る時期だ」
忸怩たる思い…。
作戦は順調だった。
兵士達は思い通りに展開し、【物体E】は思い通りに現れ、
そして、兵士達は作戦の意図をしっかりと把握し、思い通りに動いた。
何より、一人として戦死者を出す事が無かった事が、
カリー准将にとって一番安堵する要素ではあったのだが、
後に残ったのは、忸怩たる思い…。
本作戦においての、到達すべき目標。
【物体Eは海に入らないのか、入れないのか】
その答えにたどり着けなかった事。
これが、カリー准将の表情を曇らせている。
進化する【物体E】、特に、神格型。
先の南極大陸攻略戦では、地上数メートルを浮遊して移動する「はず」だった神格型が、
高度数千メートルも上昇し、空中要塞アーシラトや護衛艦隊を、完膚無きまでに撃破した。
今度は、網の目の様なレーダー網をかいくぐり、いきなり輸送艦ミシシッピの直前に現れたのだ。
観測員がたまたま…双眼鏡で周辺警戒を行っていたから、悲劇的な結末にまでは至らなかったが、
神格型【物体E】の飛躍的な進化に、逆に人類側が対応出来なくなって来ている。
これもまた、カリー准将の忸怩たる思いの、要素の一つであったのだ。
観測員『神格型、距離2千5百まで接近!』
オペレーター「神格型の荷電粒子砲射程圏に入ります!」
フライシャー大佐「機械化装甲歩兵の収容状況は?」
オペレーター「強襲揚陸艇2隻、格納完了しました!」
カリー准将「帰ろう…我々の住む世界へ」
落胆するカリー准将。
CICはその責務を終え、後はブリッジの采配で大気圏を脱出するばかり。
すると、カリー准将の曇った瞳から「ウロコ」が落ちるかの様な報告が、
スピーカーを通じ、CICに轟く。
『こちら観測所、【四本足】追跡班!四本足は、海に入っていません!
映像回します、確認してください。四本足は、海に入っていません!!』
ガタッ!!
カリー准将は慌てて席を立ち、メインモニターに詰め寄る。
切り替わったモニター画面には、インディペンデント湾内で脱出準備をする輸送艦ミシシッピを、
海岸線で、ただ見詰めるだけの四本足が。
また、遅れてやって来た人間型も、海岸線にズラリと並び、ただただ、輸送艦ミシシッピを見詰めるだけ。
カリー准将「攻撃して来ない、海にも入らない。海が苦手なのか?水か?塩か?」
フライシャー大佐「いずれにしても、【物体E】の生態を知る…前進にはなりましたね」
カリー准将「ああ、今回の目的は、何とか達成した。情報を持ち帰り、検討しよう」
口元に、満足そうな笑みを見せるカリー准将。
ちょうどその時『こちらブリッジ、大気圏脱出シークエンス終了、全乗組員は身体を固定せよ!』と、アナウンスが響く。
神格型の攻撃よりもいち早く、輸送艦ミシシッピは大気圏外へと脱出した。
カリー准将(楠木…仇は必ず取るぞ)
統合宇宙軍、第1軍
総司令官のジョシュア・カリー准将が参謀部上がりだった事から、
当初は、全く兵士達の人気も信頼も無かった軍団ではあったが、
今回の様な強行偵察作戦を頻繁に繰り返し、
また、その全作戦において、兵士達の生還率が非常に高かった事から、
後々、カリー准将は「統合宇宙軍随一の名将」と讃えられる様になる。
また、カリー准将が次々に強行偵察作戦を重ね、積み上げられた情報は、
その後の「人類の地球奪還作戦」において、絶大な効果を発揮する事となる。




