第二次強行偵察作戦 前編
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補給艦ミシシッピのCIC (コンバット・インフォメーション・センター)、
カリー准将を筆頭に、フライシャー大佐やオペレーターが、眼球や指先を忙しく動かす中、
ミシシッピがインディペンデント湾へ降下し始め、偵察用のドローン(無人機)を射出。
第二次強行偵察作戦が始まった。
オペレーター「探査ドローンが5km地点へ到達しました!」
カリー准将「よし、ドローンは索敵開始せよ。タンゴ1小隊に出撃命令を!」
オペレーター「了解、こちらCIC!タンゴ1小隊は出撃せよ、繰り返す…!」
艦内に響き渡るサイレン
すると、管制室からの艦内通信がスピーカーから轟く。
『射出ポッド気密化完了、射出シークエンス開始!APEタンゴ1、ポッド1番から3番まで射出用意!総員、振動に注意せよ!』
ボシュ!
ボシュ!
ボシュ!
輸送艦ミシシッピの船内に響く、APEの射出音、そして振動。
最新鋭のAPE搭載護衛艦や、亜宇宙戦術空母は、カタパルト発進が主流になっているが、
輸送艦ミシシッピでは、船外活動用気密室や、船外荷降ろし用気密室を改装し、APEの射出を行っている。
オペレーター「タンゴ1射出確認、スクリーンモニターに投影」
CICの壁に据え付けられている、一番大きなモニター。
インディペンデント湾を中心に地図が投影される中、
「タンゴ1」と小さな字で表示された光点が、
どんどんと海岸を越えて内陸部に向かって行く。
カリー准将「機械化装甲歩兵の強襲揚陸艇を降ろす。ブリッジに格納庫扉解放の要請を出せ!」
オペレーター「了解、ブリッジ、ブリッジ!こちらCIC…!」
カリー准将「フライシャー大佐、機械化装甲歩兵に出撃準備を」
フライシャー大佐「はっ!こちらフライシャー、ミハイリニシコフ大尉聞こえるか?』
『こちらミハイリニシコフ、聞こえます!』
フライシャー大佐「降下命令だ。格納庫扉が開いたら、所定のポイントへ急行し、部隊展開せよ!」
『イエッサー!!』
ちょうどフライシャー大佐が、機械化装甲歩兵部隊の指揮官、ミハイリニシコフ大尉に降下命令を下していると、
ブリッジからの艦内放送がスピーカーから聞こえて来る。
『格納庫扉解放!格納庫扉解放!作業員は退避せよ!』
【機械化装甲歩兵】
つまるところ、パワードスーツを装着した、歩兵部隊の事である。
発祥は宇宙空間で使用される船外作業服で、
船外作業服を、あくまでも人間の体型に合わせて進化させ、武装したのが機械化装甲歩兵服であり、
船外作業服の装着を簡略化する目的で、Tシャツ姿でも船外作業出来る、ポッド化したのが船外作業艇。
つまり、APEの元祖である。
無重力空間、0G環境で使用される船外作業服。
月などの6分の1G環境で使用される強化船外作業服。
これらを転用し、地球上の1G環境で戦闘を行える様に、
高価な金属繊維で構成される人工筋肉の一部を、油圧シリンダー筋肉で軽量化し、
歩兵部隊、陸戦隊の通常兵装として大量に配備される事を可能としたのが、
今日の機械化装甲歩兵服なのである。
輸送艦ミシシッピの格納庫。
扉が開き始め、キラキラと乱反射する太陽光が、薄暗い格納庫内に飛び込んで来る。
インディペンデント湾の海が、格納庫から間近に見下ろす低空まで、輸送艦ミシシッピは降下したのだ。
格納庫内でアイドリングを繰り返す、2隻の強襲揚陸艇。
トラックが3台横に繋がったかの様な扁平な船が、
格納庫の扉が開ききるのを、今か今かと待っている。
ミハイリニシコフ大尉『野郎ども、時間だ!武器管制チェック!駆動モーター!電装系チェック!』
大尉が兵士達に無線で声をかける。
空気が行き交う隙間も無い完全鎧が、艇内にズラリと並ぶ中、兵士達はそれぞれに音声認識操作で、
自分の着る鋼鉄の鎧が、しっかりと機能する様に、確認を行っている。
ゴゴッ!!!
ガタガタ、ガタガタッ!!!!
艇内に強烈な振動が走り抜ける。
いよいよ、強襲揚陸艇は目的地に向け、輸送艦ミシシッピを飛び出したのだ。
ミハイリニシコフ大尉『野郎ども、目的は分かってるな?欺瞞行動、欺瞞作戦だぞ!
【物体E】と接敵しても、まともに闘うな。俺の指示通りにしっかり、お上品に逃げ出せよ!』
無線を通じ、兵士達の爆笑が聞こえて来る。
ミハイリニシコフ大尉『言う事を聞かずに死んだ奴には、葬式の時に、妻や恋人の代わりに俺が泣き叫んでやる。
【あんなに愛し合ってたのに、何で私を置いて逝くの!?】ってなあ!!』
そして場面は、騒然としている、補給艦ミシシッピのCICに戻る
オペレーター「准将、探査ドローンが設置したセンサに反応!東北東No.9が動体検知!」
カリー准将「検知内容は?」
オペレーター「通過する動体2体を感知、振動から【四本足】と判断します」
カリー准将「うむ、良い出だしだ。フライシャー大佐、指示を(You call!)」
フライシャー大佐「タンゴ1、ミハイリニシコフ小隊!東北東No.9が検知!No.9が動体検知!
ボギーは【四本足】2体と予測される。状況開始、オールユニット、状況開始せよ!」
ピリピリと、緊張感の漂っていた、輸送艦ミシシッピのCIC、
【物体E】が現れた事で、さらに緊張は高まり、
各部隊との交信役を務める、オペレーター達の声も上擦る。
手に汗握るフライシャー大佐、モニター画面を食い入る様に見詰めるカリー准将。
カリー准将「偵察衛星とのデータリンクは!?神格型【物体E】は?」
オペレーター「衛星とのデータリンク、ホット継続中!未だに規定エリアに神格型の存在は、確認していません」
カリー准将「よし、偵察衛星の索敵範囲を、10km圏から15km圏へ!
赤外線、動体感知器、光学式、使える物は全て使え!」
幸いな事に、出撃した動物型【物体E】2体以外に、未だに作戦範囲には、脅威とされる敵は現れていない。
そしていよいよ、ミシシッピのCICに、実働部隊から無線が飛び込み始める。
『こちらAPEタンゴリーダー、ボギー2機とエンゲージ(接敵)!
ブローバック・オペレーション(撤退作戦)開始します!』
オペレーター「ミシシッピCIC了解!ミハイリニシコフ小隊、今、タンゴ1が接敵した。状況開始、そちらに行くぞ!」
ミハイリニシコフ大尉『ミハイリニシコフ了解!よぉし!野郎ども、ロックンロールだ!
撃つだけ撃って、騒ぐだけ騒いで、カッコ良くケツまくって逃げ出すぞ!!』
キュイィィィ…ン…
パァンッ!!!!
キュイィィィ…ン…
パァンッ!!!!
APEが右手に装備する、電磁投射ライフルの充電音と発射音が、空気を切り裂き、辺りに激しく響く。
先の南極大陸攻略戦において、壮絶な艦砲射撃で焼け野原になっている、インディペンデント湾周辺。
その湾内から内陸部へ3kmも進まない場所で、APEのタンゴ1小隊3機が、
俗に言う【四本足】…物体Eの中でも、比較的緒戦で登場して来る、
四本の足を使って軽快に動き回る、【動物型物体E】と、戦闘を開始していた。
草食動物を追う、猫科の肉食獣の様に、地面をランダムに、
しなやかに駆け回りながらAPEに肉迫する、動物型【物体E】2体。
動物型【物体E】の猛追を、紙一重でかわしたり、
ジェット噴射でジャンプしてかわしながら、
電磁投射ライフルで反撃するAPEタンゴ1小隊。
神格型や人間型の【物体E】と同じく、電磁投射ライフルの超高速弾頭が直撃しても、
全く行動不能に陥る事無く立ち上がり、動物型【物体E】は、嬉々として飛び跳ね、人類に対し向かって来る。
『クソッ!、何発直撃すれば、奴は倒れるんだ!?』
『あの身体の表面で光ってるのが、奴らの無敵の装甲だって…もっぱらの噂だぞ』
『タンゴリーダーより、各機。予定通り、欺瞞行動を開始する。
奴らの注意を引きながら、機械化装甲歩兵のいるラインまで撤退するぞ!』
『了解!』
『了解しました!』
APEの背中に据えられた、ジェット推進器の噴射角度を変え、
地面をホバリングしながら、まるでスケートでもやっているかの様に、
なめらかな軌跡を描き、APE3機は撤退を始める。
『やべえ、燃料が激減してる。補助燃料タンク、パージ!補助燃料タンク、パージ!』
『噴射トルクを上げすぎだ!先に撤退しろ、俺とタンゴリーダーで奴らを引っ張る』
『こちらタンゴリーダー、お前は大気圏脱出シークエンスを起動させろ!もう良い、何かあったら大変だ』
『すみません、先に軌道に上がってます』
ミハイリニシコフ大尉『タンゴ1、ご苦労だった。後は我々に任せ、ミシシッピに帰還してくれ!』
等間隔で、ズラリと並ぶ機械化装甲歩兵小隊。見据える先には、焼け野原。
APEタンゴ1小隊が、動物型【物体E】…四本足2体を引っ張って来る方向。
積層装甲がツヤツヤと光る、パワードスーツ表面には迷彩塗装を施し、
右手にはフルオート射撃可能の、グレネードライフル。
左手にはまるで手さげカバンを持つ様に、マンホールほどの大きさの、対【物体E】専用の対戦車地雷。
背中のバックバックには、スモークグレネードの発射筒が6本見える。
まさに、搭乗員一人の高機動戦車。これが、統合宇宙軍の歩兵。「機械化装甲歩兵」なのだ。
『こちらタンゴリーダー、ミハイリニシコフ隊まで後200m!貴隊と交差するまで20秒、引き継ぎよろしく!』
ミハイリニシコフ大尉『こちらミハイリニシコフ、タンゴリーダー了解した!』
APE小隊から、機械化装甲歩兵小隊へと、【物体E】の牽引役が引き継がれようとしていた時、
補給艦ミシシッピのCICから、個別の秘匿回線の無線ではなく、
平通信…受信出来る兵士達全てを対象に、新たな脅威を知らせる無線が入る。
『こちらミシシッピCIC、フライシャー大佐だ。たった今、東北No.13のセンサが、新たな【物体E】の群れを感知した。多数の人間型と判断される!接敵まで7分!』
ミハイリニシコフ大尉『いよいよお出ましか。7分間の勝負だぞ、気合い入れろよ!』
機械化装甲歩兵小隊の各軍曹が、兵士達に檄を飛ばし始める。
『撃つだけ撃ってケツまくって逃げるぞ!』
『サーボ駆動レベルはマックスに、軽やかにバックステップを決めろ!』
『見えた!四本足だ!』
『任意で応戦!応戦だ!』
『バカヤロウ、立ち止まるなゴーシュ!お前の得意なスキップはどうした!』
人類が認識している【物体E】は、3種類。
動物型の四本足と、主力とされる人型、人間型。
そして、最近公式に発表された神格型の3種である。
素早い動きで人類側を翻弄する動物型。飛び道具は持っていないが、
鋭い尻尾で相手を凪払ったり、槍の様に貫いたりする。
【物体E】の中での位置付けは、偵察型なのではないかと、人類側は分析しているが、
未だに詳細は不明である。
その動物型…四本足と、機械化装甲歩兵小隊がいよいよ、衝突した。




