統合宇宙軍「第1軍」出撃!
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2月初頭、国連軌道宇宙軍と、国連月宇宙軍は、その目的を終え、人類存亡の危機に備えるとして合併。
【統合宇宙軍】と言う名の元に、人類全ての軍事力を結集した。
目指すは地球攻略、地球奪還。
35年後に巨大隕石【ギャランホルン】が、地球軌道に到達するまでに、
地上に人類の生活の場を移し、軌道上のコロニー全てを撤去しなければならない。
引くも地獄、進むも地獄。
もはや人類には、流血を乗り越えねば、未来は無かった。
場所は地球の成層圏。
地上数万メートルの高空。
徐々に、徐々に高度を落としながら、地球を周回する、1隻の輸送艦。
船体には、【OUNSF】(Organization United Nations space force)と、
真新しい統合宇宙軍のペイントがされている。
輸送艦の名前は「ミシシッピ」
輸送艦と言っても、電磁投射砲で武装し、APEも搭載し、戦闘部隊をも運搬している。
つまり、これ1艦で、小規模ではあるが、作戦行動…軍事活動が可能なのである。
長身の兵士なら、首を曲げないと入れない、「ミシシッピ」の天井の低いブリーフィング・ルームは今、
熱気と緊張感と、武者震いの混ざり合った、一種、異様な空気に包まれている。
折り畳みの簡易椅子に座っているのは、APEのパイロットと、機械化装甲歩兵部隊の分隊(約10人単位)指揮官達。
そして、地図が表示されたモニターを背に、兵士達に説明を行っているのは、女性の佐官。
一切化粧をしていないのでは?と、想像してしまう程にナチュラルな顔。
清潔感を通り越して、冷酷ささえ感じてしまう顔立ちと眼差し。
射る様に周囲を見渡すクール・ビューティー。
【元】中央参謀部のニーナ・フライシャー大佐が、見かけのクールさとはかけ離れた可愛い声で、
兵士達に作戦行動の説明を行っていた。
フライシャー大佐「前回の、強行偵察作戦で、【物体E】は、海は苦手ではないのか?との仮定に至った。
神格型の登場で確信に至らず、撤退せざるを得なかったが、今回の強行偵察では、この仮定をはっきりと確信に変えたい!」
ざわつく室内、そのざわつきを全て無視して、大佐は説明を続ける。
フライシャー大佐「このまま、輸送艦ミシシッピは、南極大陸の因縁の場所、インディペンデント湾に降下する。
それに伴い、湾内降着5分前に、探査ドローンを射出する」
ざわつきが収まり、静まり返る室内。
具体的な作戦説明が始まり、「自分の出番はいつなのか?」と、
兵士達は固唾を飲んで、説明を聞き始めていた。
フライシャー大佐「探査ドローンは湾から半径5km圏内を索敵、
その間にAPE、タンゴ1小隊3機が降下。
湾内から1kmポイントで展開し、後続の機械化装甲歩兵部隊を待つ」
一瞬、沈黙するフライシャー大佐。
この後に続く説明を、とにかく兵士達に傾聴して貰いたいが為の、フライシャー大佐の演出の一つなのだが、
実際のところ、そんな演出など必要が無い程に、兵士達の視線は大佐に注がれている、鬼気迫る迫力で。
フライシャー大佐「本作戦は、【物体E】との戦闘を、目的としていない!
ドローンが索敵し、接敵したら、全部隊の欺瞞行動で、湾内に引きずり込み、
【物体E】が海水に浸かるか、浸からないか確認する作戦だ!」
フライシャー大佐はチラリと、背後のモニターの光が当たらない影で、
腕を組んで室内を見渡している人物を見る。
そして再び兵士達に向き直り、締めの言葉を切り出した。
フライシャー大佐「データ収集以上の戦闘行動は、これを禁ずる!戦死者を出さない作戦だと言う事を、肝に命じろ!」
「それと!」
フライシャー大佐は再度チラリと、影の人物を見る。
その人物が、この段階で補足説明したい箇所があるのかどうか、
大佐が気遣って目配せしているのだが、まだ影は動じない。
フライシャー大佐「最後に、神格型【物体E】出現が確認された時点で、本作戦は中途であっても全て終了。
機械化装甲歩兵部隊はミシシッピに素早く搭乗、APEは大気圏脱出シークエンスを作動させ、
大気圏外へ脱出しろ、以上だ。何か質問は?」
室内を見回す大佐。
誰からも質問が無い事を確認し、いよいよ「自分の出番は終わった」とばかりに、
影の人物に振り返り、締めの言葉を求める。
フライシャー大佐「准将、最後に一言お願いします」
モニターの影から「すっ」と現れたのは、ジョシュア・カリー准将。
国連軌道宇宙軍、内軌道方面軍参謀部出身で、統合宇宙軍が創設した際に、
再編成した組織【軍団構成】の中の、記念すべき最初の軍団。
「第1軍」の最高司令官である。
つまり、ここにいる軍人は全て、機械化装甲歩兵部隊も、APE部隊も、フライシャー大佐も第1軍に所属。
兵站から最前線部隊を一元化した、能動的組織として生まれ変わったのだ。
フライシャー大佐は中央の演壇を退き、カリー准将に譲る。
一度、じっくり兵士達の顔を見回したカリー准将は、力まず、かと言って後込みもせず、
極めてナチュラルに、透き通る低い声を発した。
カリー准将「兵士諸君。諸君の中には、あの忌まわしい南極での闘いから、生き残った者が多数いる。
その時の事を、思い出してみてくれ。南極から脱出する際の、あの異様な光景を。
私は絶対に忘れない、忘れられない。湾内から離れ、大気圏外へと脱出する輸送艦隊…我々をじっと見詰める、
海岸にズラッと並んだ…あのおぞましい【物体E】の姿を」
カリー准将の言葉で、「あの日」の出来事を思い出す者、
准将の言葉を噛み締め想像する者、
兵士達は、カリー准将の言葉を、沈黙を持って重く受け止めている。
カリー准将「奴らは、逃げ出す我々を海岸であざ笑っていたのか、それとも、我々に手を出せなかったのか…。
人類が地球から追われて200年、全く謎の存在だった強大な敵【物体E】に対し、
やっと、足掛かりが見つかった。
実は…取るに足らない事なのかも知れない。しかし、意義はある!
この作戦が一筋の光明になれば、全軍と人類が、我々の後に続くからだ!」
ついつい、エキサイトしてしまった事を反省しているのか、
カリー准将は、一旦息を整え、最後の言葉を発した。
カリー准将「諸君と同じく…私も正直、実戦経験は少ない。だが今現在、奴らに対する突破口は、これしか無いと考える。
諸君の奮闘を期待する」
敬礼するカリー准将。
フライシャー大佐「気をつけ!!!」
ガタガタッ!
フライシャー大佐の掛け声で、兵士達全員が立ち上がり、
カリー准将に対して、直立不動の返礼を行った。
フライシャー大佐「解散!」
ブリーフィングはこれで終了した。
作戦開始まで、後12時間。




