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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
統合宇宙軍誕生編
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謝れないじゃないかっ!!!




【停学2ヶ月】


重い処分だった。


カオルが起こした暴行事件、学校側の裁定は厳しかった。


時期は1月半ば。これから2ヶ月の停学と言う事はつまり、

新学期まで学校へ出て来るなと言う事。

そう、ムナカタ・カオルの一年生は終わったのだ。




停学措置が始まってからしばらく


誰とも顔を合わさず、奨学生の仲間達の誘いも断る始末。

業を煮やした仲間たちが、カオルが寄宿している、メリル中佐の自宅へ直接行って、

ガンガンと呼び出しても、出て来ない。




カオルは、完全に孤独となっていた。それも、自ら望んで。




ある日のコロニー3【中京】。気温は4度、厚着をしなければ出歩けない、寒い夜。


場所は共同墓地


墓地と言っても、コインロッカーの様な小さな扉が、びっしりと並んだ、

味も素っ気も無い、墓地。


真夜中、こんな時間に墓参りする者も無く、無人と化していた共同墓地の一角、

ズラリとならんだ故人のネームプレートの中に、「レイコ・F・ムナカタ」の名前がある。


周りの故人のネームプレートよりも真新しく、設置されたばかり。

だが、レイコのネームプレートは設置されたのだが、中身は無い。

何故なら、彼女は護衛艦リスキー・ビスキーのカタパルト扉で爆散し、

肉片は全て、地上に落下してしまったからだ。


遺体の代わりに入っているのは、レイコの遺品がわずかに少し。


それでも、故人となった彼女の存在を感じるならば、もう、ここしか無かった。




レイコのネームプレートに添えられる手。

真夜中、カオルはメリル中佐の自宅を抜け出し、母レイコの墓地へ来ていた。




24時間ショップの袋から、パックを取り出す。




カオル「か、母さん…ほら、母さんの好きな…おでん…買って来たよ」




パックを明けると、暖かなダシ香る湯気が溢れる。

中には、和風のダシの海で泳ぐ、タマゴ、コンニャク、ちくわ、大根が。




カオル「お店で…買って来なくても、母さん…作ってくれたよね」




箸を割り、ちくわを掴み、レイコのネームプレートの前に差し出す。




カオル「母さん、ちくわ…好きだったね。僕と取り合って…いつも必ず半分こして…」




カオル「母さん、ちくわいらないなら…、僕が…食べるね」




故人の扉が並ぶ壁に体育座りしながら寄りかかり、もぞもぞと、ちくわを食べるカオル。

カオルの頭には、ちょうどレイコのスペース。ネームプレートがある。




カオル「母さんの好きなタマゴも…、僕が…食べちゃうね」




うつむくカオル


意識して嗚咽はしていないが、顔はくしゃくしゃ。

既にカオルの目からは、大量の涙がこぼれ落ち、

鼻からは大量の鼻水が流れている。




カオル「大根…食べれる様になったよ。【味の染みた大根が、おでんの世界を語る。大根の良さが判れば大人だ】って、

…言ってたよね。僕も…僕も…大人に…なったよ」




「うっ、ううっ…ぐううう…」と、こらえきれずにとうとう、嗚咽するカオル。

肩を震わせ、箸をカランと落とす。




カオル「母さん!母さん!何でいないんだ!謝れないじゃないか…謝れないじゃないかっ!!!

母さんの事…大嫌いって…大嫌いって言った事…」




体育座りのままうなだれ、完全に頭をうずめる




カオル「謝れないまま…ううっ…、謝れないまま死んじゃう事…ないじゃないか…。

母さん!…大好きなのに…」




墓地に響く、カオルのむせび泣く声。




カオル「母さん、死んじゃやだよ…。死んじゃ…嫌だよ…」




カオルの懺悔と後悔、そして募る母への想い…その吐露は、まだ続く。


毎日毎日、カオルは深夜に共同墓地へ来て、朝になるまで、泣き崩れていた。

大好きな母との別れ、それも、大好きな母に反抗し、大嫌いと言ったまま、謝罪するチャンスも無く、

母レイコは逝ってしまった。


カオルにとってそれは、目の前が真っ暗になる様な世界の終わり、【幸せとの別れ】だったのだ。




カオル「母さん…会いたいよ…、僕を…一人ぼっちにしないで…」




カオルの嗚咽は、朝まで続く。


遠くから見詰める、メリル中佐の、悲しそうなたった一つの瞳に映りながら。




シングルマザーの母を、早く楽にしてあげたい。

そう思い、国連軌道宇宙軍奨学生の道を選び、

軍人としての将来を思い描いていたムナカタ・カオル。

目的は完全に失われ、護るべき人も失われた。


心の支え、大人の見本、「家」を体現する存在。

その全てを一気に失ったカオル。


今はただ、泣いて泣いて、死んだ母に詫びるしか無かった。




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