国連軌道宇宙軍、奨学コースの実習生
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オレンジ色のツナギを着た、国連軌道宇宙軍の奨学コースの実習生四人。
「ムナカタ・カオル」
「ショーン・カザマ」
「ミカ・カートライト」
「エレノア・シグニス」
名前からして、様々な国から集まって来た少年少女なのでは、と、思わせる。
名前だけでは無い。
カオルは黒髪で瞳も黒く、誰がどう見てもアジア人…黄色人種である。
だが、カザマ姓を名乗るショーンは、真っ赤なくせ毛にブラウンの瞳、肌も白く鼻の高い白人である。
ミカも東欧系の濃い金髪をツインテールでまとめた白人で、瞳の色は青。
エレノアに至っては、真っ黒なストレート・ロングの髪型で、瞳の色は緑がかった青。
四者四様に人種としての特徴が様々で、見かけからしても、
【国際色豊かなんだな】と思ってしまう程に、まるで統一感が無い。
カオスな集団、カオスな四人組と言っても過言では無いのだ。
だが、しかし、
明らかに言えるのは、この四人が「日本人」である事。
「日本国籍」を持つ、純粋な日本人であると言う事なのだ。
国連軌道宇宙軍、日本国駐留部隊所属の教育実習船【リスキー・ビスキー】は、
日本国3番コロニー「中京」にある、市立四日市東高等学校の一年生、
ムナカタ・カオル以下3名の教育実習生を乗せ、2ヶ月に一度の航海実習に出ていたのだ。
四人とも日本国が有するコロニーで同じ街に住み、そして同じ高校の同級生。
つまりは、四人とも日本人なのであった。
エレノアの一言で怒りのボルテージが下がったリンダ。
国連軌道宇宙軍の制服でもなく、宇宙軍支給の作業ツナギでもなく、
ましてや、教育実習生用のツナギも着ていない。
スリムのデニムとTシャツにエプロンをかけた20代半ばの女性。
エプロンを脱ぎながらカオル達の元へと歩み寄る。
リンダ「まあ、何だ…(笑)先生も初めて作ったんだ、勘弁しろ」
苦笑いしながらカオル達に弁明するリンダ。
カオル達はリンダを非難する事無く、笑顔で受け入れる。
ミカ「せんせ、大丈夫だって。料理の腕自体はなかなかじゃん♪」
ショーン「そうそう、良いお嫁さんになれる。それは俺が保証してあげるよ♪」
リンダ「そ、そっか?あは、あははは!」
思いがけない子供達の賛辞に顔を赤く染めるリンダ。
嬉しい動揺を豪快な照れ笑いで隠している。
が、しかし
再びカオルの何気ない一言が、リンダの胸にグサリと突き刺さる。
カオル「惜しい…。ビーフシチューの写真を見て、あの色は【味噌だ】と思ってしまう、恐ろしい感性さえなければ」
カチン☆
リンダ先生の頭から、乾いた金属音に伴って、金色の星が宙を舞う。
リンダ「まぁだ言うか、この口は!この口はっ!!」
カオル「えひゃい、えひゃい!ごえんあたい、ごえんあたい!」
リンダはカオルの後ろに立ち、両手でカオルの頬をギリギリとつねったのだ。
再び、腹を抱えて笑うショーンとミカ。
相変わらず、エレノアは無関心に一人昼食に没頭している。
その時、「ガチャリ」と鈍くて重い音を響かせながら、食堂の扉が開く。
笑いの絶えないカオル達。食堂の扉が開き、通路から制服姿の軍人が一人、
食堂に入って来た事に未だ気付いていなかった。
「楽しそうだね」
四人の少年少女、そして【引率】のリンダ。
年配男性の渋くて低い声に驚き、全員が食堂の出入り口扉に視線を向ける。
リンダ「あっ、キンゼイ大佐」
ミカ「艦長!」
現れたのは、壮年の軍人。
威厳たっぷりの白髪の軍人で、無精髭にシワシワの軍服。上着の下には白いタートルネックのセーター。
まるで、歴戦の航宙艦乗りを彷彿される人物なのだが、今はそのいかつく鋭い、「戦争の目」はしておらず、
まるで自分の孫に接する様な、穏やかで優しい瞳で、リンダやカオル達を見詰めていた。
キンゼイ大佐「コーヒーを貰おうと思ってね」
リンダ「あっ、コーヒーなら私が煎れます。大佐は席についてお待ちください」
カオル達に「先生」と呼ばれるリンダは、慌てて厨房の中へと消える。
キンゼイ大佐はカオル達とは別のテーブルに構え、手帳を取り出しつつ、ページをめくりながらそれを眺める。
辺りに漂う沈黙
カオル達は別段、この船の艦長に対し、苦手意識を持っている訳では無い。
冷たいオーラを身に纏い、艦長がカオル達とのコミュニケーションを拒んでいる訳でも無い。
「無理して会話を成立させなくても良い」
そんな穏やかな空気が流れていた。
「艦長?」と、沈黙を破り、意外にも一番無口そうなエレノアが、おもむろに顔を上げ、艦長に向かって口を開く。
艦長「うむ?何だね」
エレノア「…太陽嵐、もう終わった?」
遥かに年上のキンゼイ艦長に対し、敬語さえ使わず、ぶっきらぼうな喋り方で問い掛けるエレノア。
抑揚が無く、ひどく事務的で冷たい印象を覚えるが、エレノアの瞳が穏やかな色彩に満ち、口元が微かに微笑んでいる事から、
エレノアは攻撃的な性格の持ち主ではなく、他者と円滑なコミュニケーションを取るのが苦手な、
内向的な性格の人物なのだと理解出来た。
キンゼイ大佐…キンゼイ艦長もそれを承知しているのか、腹を立てる訳でもなく、穏やかに答える。
キンゼイ艦長「まだ…だね。余波も含めて後18時間くらいは、大気圏内に避難していないと」
エレノア「ふぅん…」
エレノアが、艦長の答えを理解したのか、理解しかねるのかはさておき、
エレノアの質問…それに対するキンゼイ艦長の返答がきっかけとなり、
カオルやショーン、ミカまでもが、艦長に対して一斉に質問を始める。
ショーン「安全宣言が出たら、また軌道で実習を再開しますか?」
ミカ「艦長、操舵室の見学ダメですか?」
カオル「艦長、…船外作業がしたいです」
苦笑いを続けるキンゼイ艦長を助ける様に、艦長の前にコーヒーを置いたリンダが、カオル達をどやしつける。
リンダ「はいはい、昼飯食べ終わったら、さっさと勉強始める!
この船だって、好きで大気圏に降りた訳じゃないし、だいたいあんた達、一回目の教育実習で生意気過ぎ(笑)」
ミカ「だってえ…」
今度は逆に…、リンダが悪者にならない様にと、
キンゼイ艦長は「答えられる範囲」で、カオル達に説明する。
キンゼイ艦長「はははっ(笑)まあまあ、みんな気を落とさずに」
艦長の笑い声に注目するカオル達。
キンゼイ艦長「今回の実習航海はたまたま運が悪かったけど、これで終わりじゃない。
君達が実務をこなすチャンスは、これからいくらでもあるよ。
まあ、今回は初めてと言う事もあるし、
【宇宙とは、思い通りにならない世界】だと、感じてもらえれば、ね」
カオル「…しかし艦長」
キンゼイ艦長「何かね?ムナカタ君」
カオル「今回のカリキュラムは、操船技術と航宙技術、それと船外作業実習が予定されてて…、
結局、出航してすぐ太陽嵐警報が出て」
カオルの意図を察知したのか、ショーンがカオルの言葉に、自分の言葉を被せる。
ショーン「そのまま俺達、大気圏へ避難。実習が何も出来て無いんです」
ミカ「結局、食堂で学校の自習してるだけじゃ…」
少年少女の希望に満ちた、国連軌道宇宙軍の奨励コース。
それも、航宙船を使っての初めての航海実習。
カオル達の不平不満は理解出来るのだが…。
リンダが意を決して、カオル達を諫めようと身を乗り出した時、
再びキンゼイ艦長が穏やかな声でカオル達に語りかける。
キンゼイ艦長「それだけ…、こういう対応を取らざるを得ない程に、
活発な太陽フレアの放射線爆散、太陽嵐は怖いと言う事だ。
それが体験出来ただけでも、貴重なんだがな。君達にとっては」
キンゼイ艦長の言葉に、リンダは突如「ギクリ」と、寒気を伴う反応をする。
【君達にとっては】
キンゼイ艦長がつい滑らせてしまったこの言葉に、どれだけの意味があるのか…、
この場にいて、その意味が解るリンダにとっては、絶対に秘密にしなければならない、最重要の機密であったのだ。
(艦長が思わず口を滑らせた)
表向きは平静を装っているリンダではあるが、心中穏やかではなく、背中からは冷や汗が滴り落ちている。
その…リンダの緊張する空気を察知したキンゼイ艦長。
艦長も表面的には平静を保ちながら、話題を逸らそうと、カオル達に対し、饒舌に話題を振り始めた。
キンゼイ艦長「ところで、ショーン君は、国連軌道宇宙軍で機械整備を希望してるね?」
ショーン「ええ。機械いじりが好きなんで、メカニックの道を極めたいです」
キンゼイ艦長「なるほど♪ミカ君は確か…」
艦長が思案を巡らせる中、ミカは待ちきれずに答える。
ミカ「航宙士希望です、国連軌道宇宙軍最強の座を狙ってます」
キンゼイ艦長「はは、それは心強い」
次に話を振ろうと、艦長はエレノアに視線を合わせる。
すると、艦長が問い掛けるよりも前に、互いの視線が合った段階で、
エレノアは無表情のままに、壮大な夢を語った。




