みんな、好きで死んだん訳じゃない!死にたくないのに死んだんだ!
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堂上が腰を抜かしながら、
「人類の敵が天使で、天使の1人がレイコ」と、完全に頭が爆発しそうな状況に陥っていた頃。
同じコロニー3【中京】にある、市立四日市東高等学校では、別の意味で爆発騒ぎが起こっていた。
「ムナカタの母ちゃん、軍人だったんだろ?だったら死んだって別に不思議じゃねえじゃん(笑)」
心無い一言だった
元々、国連軌道宇宙軍の奨学生は、一種イジメの対象である。
将来は約束され、学費も免除され、特権もある。
そんな特別待遇の生徒が、周囲から「やっかみ」の目で見られない訳が無く、
ある意味、国連軌道宇宙軍の奨学生は、イジメの対象であり、通過儀礼のようなものでもあった。
一年二組のクラス内。
仲間内数名で輪を作り、どことなく「えげつない」含み笑いを繰り返す男子。
「派手に出陣式までやったのにな(笑)」
「結局、何もしないで」
「そうそう、ビビって逃げ出して終了」
「そんな奴らに人類の未来託すの?無理じゃね(笑)」
「あ~あ、人類もいよいよ滅亡ですか(笑)」
ガタッ!
聞き捨てならない生徒達の嘲笑に、拳を握りながら立ち上がるショーン。
しかし、それが無益な事だと判っているのか、エレノアとミカがショーンの服を引っ張り、制止する。
そんなショーンの姿を見て、いよいよ「面白く」なって来たのか、生徒達の嘲笑はヒートアップする。
「おやおや、何かやる気満々(笑)」
「物体Eにはビビるけど、民間人には強そうですね(笑)」
「おや、ムナカタ君どうしたの?」
からかう生徒達の前に立ちふさがったのはカオル。
無言のまま、もの凄い形相で生徒達を睨み付けるカオル。
「おい!ムナカタ手前ぇ、何か文句でもあるのかよ!」
カオル「…いっぱい、人が死んでんだぞ」
「はあ?当たり前だろバァカ!軍人なんだから死ぬだろ、死ぬでしょう!」
そこで出て来たのが、前述にある言葉。
【ムナカタの母ちゃん、軍人だったんだろ?だったら死んだって別に不思議じゃねえじゃん(笑)】
仲間に優しく、穏やかで、どことなく憎めない好青年。ムナカタ・カオルはそこにいなかった。
それは最早、16歳の少年の目つきでは無かったのだ。
母親の死を馬鹿にした生徒に向けられた目は、
同じ人間…同じ世代の仲間を見詰める目つきでは無く、
まるで、汚い汚物に嫌悪感を覚えたかの様な、
濁った、殺意を多分に含んだ瞳。
国連軌道宇宙軍の奨学生をからかう生徒達5人、
今ほどカオルの母親をあざ笑った生徒が、再び口を開き、カオルを挑発する。
「おぅい!何とか言えよビビりの軍人さんよ、そんなんだから、おめおめ逃げ帰って…!」
生徒の挑発は、ここで途切れる。
何故なら、カオルの放った右手の拳が、
生徒の顔面の中央…ド真ん中に炸裂したからだ。
生徒「ぷあっ!?」
顔面にめり込むカオルの拳、視界が奪われた事といきなりの激痛で、
殴られた生徒は、何が起きたのか全く理解していない。
カオルはそのまま、生徒の髪の毛を鷲掴みにしながら、
何度も何度も…顔の中心へと拳を叩き込む。
ゴギャッ!!!
ビチッ!!!
鈍い音が響く教室内
想定外の事態に、呆気にとられていたクラスの全生徒。
ようやくカオルの暴走に気付いたのか、騒然となる。
ショーン「おい、…やめろ、やめるんだカオル!」
ミカ「お願い、カオルやめてぇ!!!!」
エレノア「せ、先生呼んで来る!」
殴られている生徒はもう、「痛い」とも「助けて」とも言わない、言えない。
漫画の様に、横から頬を殴りつける描写など、全くの皆無で、
生徒の髪の毛を掴み、生徒に「逃げ場」を作らせないまま、
カオルはひたすら目と口と鼻が集中する顔の真ん中へ、
まっすぐ…まっすぐ渾身のストレートを、ひたすら撃ち続けているのだ。
鼻から、口から、大量の血を滴らせ始めた生徒。
目は開いているが、既に虚ろになっており、まばたきすらしなくなって来た。
周りで、一緒にカオル達を馬鹿にしていた生徒は、仲間がカオルに暴行されているのを見て、
それに激昂してカオルを止めるどころか、怯えて後ずさりを始める。
こらえきれなくなったショーン。とっさにカオルの背後から抱きつき、羽交い締めにして制止する。
ショーン「やめろ、やめろカオル!」
カオル「離せ、離せえっ!!!!」
カオル「ショーン、離せ!こんな、こんな奴らの為に…みんな死んで行ったんじゃない、
こんな…こんな奴っ!!!」
ショーン「馬鹿野郎!それでもだ、それでも守らなきゃならないのが、俺達なんじゃないのか!」
騒然となる教室、
「ヤバい、あいつ泡吹いてる!」
「レスキュー呼べよ!」
「何て事するんだムナカタ!」
あちこちに沸き起こる怒声。
エレノアに呼ばれたクラスの担任と、リンダ先生が慌てて飛び込んで来る。
担任「ムナカタ!何やってんだ!」
リンダ先生「カオル君、カオル君!!」
「先生、ムナカタが急にこいつに殴りかかって来て!」
ミカ「何言ってんのよ!散々悪口叩いて侮辱して馬鹿にしてた、あんた達の責任でしょ!!」
カオル「みんな、好きで死んだ訳じゃない!!死にたくないのに死んだんだ、
それを、お前らは…お前らはあっ!!!!!」
ショーン「落ち着けカオル、落ち着くんだ!」
担任「レスキューを呼ぶ!」
リンダ先生「カオル君、あなたも怪我してるじゃない、早く保健室へ!」
もう、クラスはめちゃくちゃ。
次の授業どころの話ではなく、騒ぎを聞きつけた、隣の一年一組の生徒も、
廊下から教室内へとなだれ込んで来た。
恭香「…カオル君…お願い、やめて…!」
カスミ「一体誰が!一体誰がムナカタ・カオルを侮辱したんだ!?お前か!お前かあっ!」
ヒロノブ「やめろ姉さん!今はムナカタさんを保健室に連れて行くんだ」
ショーンに羽交い締めにされ、エレノアとミカに横から抱き付かれ、
美田園恭香とカスミに心配そうに見守られながら、
強制的に保健室へと連れて行かれるカオル。
後に残った担任やリンダ先生は、レスキューが到着するまでの間、怪我をした生徒を介抱しながら、
何が発端で乱闘騒ぎになったのか、生徒達に聞き取り調査を始めていた。
ショーン達と保健室へ同行しなかったヒロノブ。
一人教室に残り、凶悪な殺気を遠慮もせずに放ちながら、生徒達を見回す。
ヒロノブ「今度、ムナカタ・カオルを侮辱したら、お前ら全員殺す。
一人残らず殺す、自分の人生を引き換えにしてでも殺す。
忘れるな…僕は本気だからな」
と、姉のカスミ以上に強烈な台詞を、生徒達に向かって吐き捨て、保健室へと向かって行った。




